人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ハナシ過多教室

 ひっじょーに遅くなりました。
 あけまして おめでとうございます。
 みなさまにとって幸多き一年でありますよう──心よりお祈り申し上げます。


 大晦日、実家に帰った。いつものようにカラオケや銭湯といった恒例イベント(小さい)をこなし、あれよあれよという間に年明け2日目。初夢も思い出せぬまま、今度は母を伴い自宅へ戻った。
 母は1926年=大正15年生まれである。早見表で齢を確認したら、ぎょぎょぎょビックリ、今春86歳になってしまう。私の中では、いっててもせいぜい83歳だったのに・・・。実家で目にした新聞記事「高峰秀子さん(86)死去」に衝き動かされたように、突然母を連れて帰りたくなった。

 自宅に戻ったあくる日、母を日帰りの天然温泉に連れて行った。左足の具合が悪いという母の腕を取って、ゆっくり横を歩いた。風呂上りの母の髪にドライヤーをかけ、ブラシで梳かしつけた。母の顔に化粧水を塗布し、クリームを伸ばした。足に温湿布を貼り、布団の中に湯たんぽを入れた。
 その翌朝には、母に化粧を施し、映画「武士の家計簿」を観に連れていった。母はお人形さんのようにおとなしく微笑み、「ありがとう」を幾度も連発していた。
 映画館を出てすぐに、葛飾の実家まで母を送り届けた。車から母をおろし、そのまま帰ろうとする私に向かって、母は両手を合わせた。
 「ほんとうに楽しかったわ。淋しくなっちゃうわねぇ。今夜はみん子がしてくれたことを1つ1つ思い出しながら眠りに就くわ──」

 ↑ これだけ書くと自分が自分でないくらい、もんのすごい孝行娘のようだが、現実はちと違う。
 一緒にいる間、母はたいていは饒舌であった。それだけなら何の害もないのだが、母の話は十中八九聞く者に危害を加える。
 車を運転しているときなどは要注意だ。突然、こんなことを言う。
 「あら? こっちでいいの?」
 道を知っているわけでもないのに、平気でこんなことを言う。
 「運転中に道の話はしないでって何度も言ってるじゃん(怒)。関係ない話ならいくらしてくれてもいいけど、道順に関することで何か言われると、慣れた道でも一瞬『え?』って思って、頭ン中で立ち停まっちゃうんだよー。アブナイから止めてって何度言えばわかるのー(怒)」
 ごめなさ~いと笑う母に、この注意はすでに15年間繰り返している。
 さらに困ったことには、母の話は要領を得ないことが多い。蛇足つき+主語抜けなので、単に聞いていればよいというものではない。推理力並びに細かな確認が必要だ。
 たとえば、こんな ↓ 調子。実家で私が食器を洗っているそばで、届いたばかりの年賀状を眺めながら──。
 「あら。この方。今まで年賀状なんてくれたことなかったのに。ねぇ、みん子ちゃん。ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど」
 「いいよ。何?」
 「あのね、去年××会の集まりで旅行に行ったんだけど──」
 「うんうん。ちょっと待って。ねぇ、お母さん。こうやって汚れた食器を桶の中に浸けるのは止めてって何度も頼んでるじゃん。コレやられると、汚れていない食器の底面まで油汚れがまわっちゃって、汚れを落とす労力が二倍必要になるし地球に優しくないからって、もう何年も前から説明しているのに。こっちに泊まっている間は全部私が洗うから(食事の用意もな)、お願いだから、こうやって(私の子どもたちに運ばせた食器をわざわざ)桶に全部ぶち込むのだけは止めてくださらんか」
 「はいはい、わかりました」(←ちっともわかっていねー。このやり取りもかれこれ20年続いている)
 「で、旅行がどうしたって?」
 「それがね、45人乗りのバスだったかしら、ぃゃもっとかな、とにかく50人かそのくらいは乗れる大きなバス(正確に何人乗りか、はこの際どーでもええ)を頼んだのに、申し込み者の数が足りなくて、あぁこれじゃー50人に対してせいぜい30人の参加でしょ、1人あたりの負担額が嵩んでしまうってわけなのね」
 「ふんふん」
 「それで、頼まれちゃったの。『みん母さん、どなたか誘ってくださいませんか』と、こういうわけなのよ」
 「ちょっと待って。その旅行って、去年行ったんだよね?」
 「そうよ」
 「過去形だよね?」
 「そうよ」
 「なら、さっき言ってた相談て何なの?」
 「あぁ、相談ていうのはね、要するに誘ってくださいって頼まれたから、毎朝ラジオ体操で一緒になる、ラジオ体操ってのはホラY神社の──」
 「場所なんかどーでもええ(怒)」
 「あぁ、それでラジオ体操で一緒になる川向こうのSさん、この人はもう旅なれている人で、声をかけたら気持ちよく『いいわよ』って喜んで参加してくだすったの。それも、ほかにお友だち2人も誘ってくだすって」
 「それは良かった、貢献できたじゃない」
 「そうなのよ。ところが、旅行先でトラブルがあったのよ」
 「ほーお。どんな?」
 「向こうに着いて、バスを降りて自由行動に移る前に、Tさんがみんなに伝えたのよ。『それでは何時何分に電車の××停留所前に集合』って。電車といってもJRとかじゃないわよ。そこの大きな自然公園のまわりをぐるりとまわって走っている小さな電車で」
 「ああ、よくあるよね。観覧列車?」
 「だからだと思うのよね。年賀状なんか一度ももらったことないのに、今年になって急に──」
 「は?」
 「いい? 読むわね。『去年の旅行は大変でしたね。今年もどうぞよろしくお願いします』って。これ、きっと私に対して、思うところがあったから、だと思うの」
 「ええっと、何の話? その年賀状をくれたの、誰?」
 「だから、会長さんよ」
 「え? Sさんじゃなくて? Tさんでもなく? 会長って、旅行の会の?」
 「旅行の会なんてないわよ。話し方教室で一緒だった人たちが、有志でつくった会」
 「知るかぃ」
 「それに、Tさんのわけないでしょう。そもそもTさんがSさんたちを辞めさせるって、この間わざわざ電話寄越したくらいなんだから。それにTさんは毎年年賀状は下さるし」
 「ならSさんは旅行に参加できなかったんだ?」
 「この前のには参加できたの」
 「この前っていつ?」
 「だから去年、私が誘った旅行」
 「(イライライラ・・・)あの~、ハナシが全ッ然わからないんですけど。いったい私に何を相談したいの?」
 「わからない? 今、順を追って話そうとしているとこなんだけど」
 「順を追ってないと思う。あっち行ったりこっち行ったり」
 「(ゴホン)え~と、そうそう、要するにSさんたちが、Tさんの話を間違って受け取っちゃったらしいのよ。園内を走る電車の停留所に集合するんだったのに、外の駐車場の、バスに乗って待ってたんだから」(←耳が遠くなっているのでやたら地声がでかい)
 「あらまー」
 「もう、大変だったのよ。人数が揃わない、戻って来ないのは誰だーって、誰かが『みん母さんが紹介した人たちが戻って来ていない』って騒ぎ出すし。もう気が気じゃなかったのよ」
 「声をかけたのはお母さんだものねぇ」
 「結局みんな40分待ったの。とうとうその観覧車の最終便が出発するって時間になったでしょ、仕方なくみんなでそれに乗って、駐車場で待っているバスのところまでまで戻ったわけ。そしたら、なんと! Sさんたち3人が、バスに乗って待ってたって、こういうわけなの!」(←最初すでにそのことに触れたことを忘れているのか? ドラマチックに盛り上げて話す母)
 「それで、私に相談というのは・・・」
 「もう、怒っちゃったのよ。Sさんが謝らなかったせいもあって」
 「誘ったのはお母さんなんだから、お母さんがSさんたちと一緒に行動してあげるわけにはいかなかったの?」
 「いや、そういうもんでもないのよ。頼まれたから声はかけたけど、あちらはあちらで親しい人たちと一緒に参加してくれたわけだから、その人たちと行動する方が気楽でしょう?」
 「ふ~ん。なら怒ったってしょうがないじゃ・・・」
 「SさんはSさんで、自分たちが聞き違えたとは思ってなかったのよ。むしろ逆にみんなのことを待っていた、くらいのつもりだったと思うわ。ほかの人に『あなたたちを40分も待ったんですよ』って言われてキョトンとしていたくらいだから。その場でしっかり謝っていれば、少しはTさんの気持ちもおさまったんでしょうけど」
 「え? 怒ってるのって、お母さんじゃなくてTさん?」
 「私じゃないわよ。私はただハラハラしてただけ(笑)」
 「主語がヌケてるんだもん。じゃあ、40分もみんなを待たせたSさんたちに対して、怒っているのはTさんなのね?」
 「そうよ。そう言わなかったかしら?」
 「言ってねーョ(怒)」
 「Tさんが、年末私にわざわざ電話してきて、『幹部会にもかけますが、次の旅行からは、Sさんたちには辞めてもらって、参加は会員だけに限らせてもらいます』って、こうなのよ。ほかにも時間に遅れてくる人たちは何人もいたのに。土産物店に停まった時には、元学校の先生ともあろうお人が、たーくさんお土産買って、バスの出発時間を15分も遅らせたり──」
 「団体行動は時間厳守でないとねぇ」
 「そうやって遅れてバスに乗って来た人たちは、その場でごめんなさ~いで済んじゃったけど、Sさんたちは何しろわかっていなかったものだから、謝り損ねちゃったのね。それでTさんが私に電話してきて、『あの方たちは後になって会長には詫びたらしいが、わたしには謝らなかった』って言うの」
 「お母さんに電話してきたってことは、お母さんを暗に責めているのかな?」
 「いえぃぇ、そういうわけでもなくて、私が謝ったら、『みん母さんが悪いわけではないので、みん母さんが謝る必要はない』って言われたわ」
 「紹介者だから、一応断わりを入れておいたのかな。でもお母さん大丈夫? Sさんたちと気まずくならない?」
 「そうなのよ。Tさんに電話であんなふうに言われて、『私はこれからもSさんとはラジオ体操で顔を合わせるんですよ』とやんわり話してはおいたけど、何も変わりそうもないわね」
 「待て待て。ちょっと待って。最初に言ってた相談て何?
 「ああ、それで、年賀状の返事をどう書こうかと思って」
 「え!? そっち!? あ、そうか。頭数を合わせる都合上誰か誘ってくださいってお母さんに頼んだ手前、こんな結果になったことを申し訳なく思って、労いの意味で年賀状をくれたわけね? 会長さんは」
 「あら、違うわよ。10人くらい誘ってもらえないかって私に頼んだのは、会長じゃなくてTさんよ」
 「なにィ~~!?  人にそんなことを頼んでおいて、好意で参加してくれた人たちが、決して悪気があったわけではなく、聞き間違えてチンプンカンプンな場所で、それでも律儀に早めに待っていた、そのことを許せないってのはずいぶん了見が狭くはないですかい? 大体ね、『後になって会長に詫びるだけでなく全員に詫びて欲しかった』とゴネるならまだしも、自分には謝らなかったと腹立てて次から参加させないってんでしょ? その上から目線、半端じゃないね」
 「後で自分たちが間違っていたとわかったんでしょうね、Sさんラジオ体操に来ても、しばらくは気の毒なくらいショボ~ンとしていたのよ。ほかの人に、『Tさんに直接詫びに行ったら?』なんて言われてたけど、『そこまでして次も参加したいとは思わない』って。当たり前よねぇ」
 「そりゃそーだよ。そこまで厳しくするなら、もうみんなご年配なんだし、間違いがないように口頭じゃなくて、細かい時間と場所を書いた日程表でも刷って配布しないと。けどTさんてそんなにエライの? 会長よりも? なんだか会長もTさんに遠慮しているような気がする」
 「そうねぇ。実際旅行を計画して仕切ってくれているのは全部Tさんだから」
 「ふ~ん・・・」
 「あ~困ったゎ。会長さんからこんな年賀状もらって、何て書いたらいいかしら」
 「『大変でしたね』、につられてTさんの愚痴を書いたりしないでね」
 「そうね。お正月からソレはマズイわね」
 「今年もよろしく、程度でいいんじゃない?」
 「そうしておきましょう♪」
 「ホント、大変だったね(相談の内容を聞き出す私がッ)」

 ムスコの意見 ↓ 
 「あばーちゃんのハナシ、小学校低学年並みにわかんない。奥さんとの会話聞いて、ねーちゃんと二人でず~っとニヤケてた」
 母の意見 ↓
 「これじゃ話し方教室に通っている意味がないわね」(←少なくとも20年以上通っている)
 私の意見 ↓
 「通ってくれ。通わなくなるともっと恐ろしいことになるから通ってくれ」

 母娘の間とはいえ、高齢の母に対し、つい叱り口調になってしまう。そんな自分がこの上なく憎たらしく、またダラダラと長ったらしいこの文面に、呪われた血筋を感じずにはいられない年始なんであった。
ハナシ過多教室_b0080718_16551830.jpg

Commented by ラク太母 at 2011-01-05 21:51 x
み茶ママさんたらすごい記憶力!!
この長いストーリーの顛末をよく覚えてらっしゃいましたね。
ワタシにゃとうてい無理です。
それにしても、このいやはやなんとも要領を得ないお話に最後まで付き合って差し上げる優しいみ茶ママさん。
「だからあ。いったい何が言いたいの?!?!」くらい言っちゃいそうなワタクシ、ダメなムスメです。
今年はもっと親孝行しよう。

ご一家とお母様にとって幸多き一年になりますように。
今年もどうぞよろしくお願いします。
Commented by ビリーママ at 2011-01-09 22:19 x
年寄りとの付き合いは、まったく忍の一字です。
うちはダブルなので、よーく理解できますよ。
いつか行く道なのでしょうが、自分はぜったいああならないと
堅く思っていますが・・・・・
はてさてどうなることやら。
今年もブログの更新楽しみにしています。
よろしくお願いします。
Commented by dontodon at 2011-01-11 10:59
あけましておめでとうございます。今年もよろしくね。
更新楽しみにしてますね。いっそ更年期ブログに特化していただいても大変参考になるかと・・

うちの母も同じような感じです。一度も働いたことがない人なので、もともと「要点をかいつまんで相手に伝える」という概念がなにのに加え、老化で、もうラビリンス。が、いまさら何を言っても改良されることはありえないので、聞いてるふりして聞き流す。ちゃんと受け答えしているみ茶ままはえらいです。
Commented by vitaminminc at 2011-01-13 11:36
<お詫び>
一時帰宅中のダンナが単身赴任先からA型インフルエンザを連れ帰り、PCルームが隔離病室化。お返事が大幅に遅れましたこと心よりお詫び申し上げます。
Commented by vitaminminc at 2011-01-13 11:39
❤ラク太母さま❤
ところがッ! 私はとんだ親不孝者だったのでございます。
すでにお気づきのように、母は今春86ではなく85歳。
早見表を1段見間違えた罪よりも、2011から1926を引く計算も出来ない愚かしさよりも、自分の母親の実年齢を把握していないという点で完全にアウトです。(←記憶力こっちに使えんものか)
でも・・・まだ85で良かった~♪
Commented by vitaminminc at 2011-01-13 11:52
❤ビリーママさま❤
そうですね、そうですよね!
子どもたちに近未来の母親(私)への接し方を教えるためにも、うんと寛容でなければいけませんね。
なんども母の話を途中で遮っては「意味がわからん」と難癖をつけてしまいました。
「自分はぜったいああならない」どころか、絶対母以上に支離滅裂になるくせにィ~~~!
子どもたちよ、どおかだだっ広い心を養っておくれ。
Commented by vitaminminc at 2011-01-13 12:02
❤どんままさま❤
うんうん。いっそ更年期専門チャンネルにね♪
昨日も職場で団扇をパタパタ。
額の汗を拭きながら、腰にはボアの膝かけを巻き巻き。
腹には&ホッカイロを腹ほろひれ貼れ。
ケンタウルスか! というくらい上半分と下半分が別モノ。
いびつな私ですが、今年もお見捨てなく~。
名前
URL
削除用パスワード
by vitaminminc | 2011-01-05 17:40 | 人間 | Comments(7)