人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一粒

今月も、いつものようにコレステ病院で出された処方箋を手に、昭和の面影が残る薬局に寄った。
先月から病院で薬を出してもらえなくなって、今回訪れるのはこれで二度目。
時が止まったような店内には、何年も磨かれていない曇ったガラスケースが陳列してある。
その中で一際目を引くのは、佐藤製薬のマスコット、大きなゾウのサトちゃん。おそらく製薬会社から嫁いで以来、季節を問わずサンタクロースの衣装でそこに立ち続けているのだろう。

前回は7:3に分けていた前髪を、今回はオールバックに撫でつけた薬剤師(推定年齢65歳。女性)が、処方箋を受け取って隣室に消えるなり、大声をあげた。
「あっら、ごめんなさい!」
(嫌な予感)
「これ、28日分てなってますけど、1粒足りないんです」
(は? 今1粒って言った?)
男前の髪型が浅香光代のようによく似合う薬剤師が、言うべきことは言った、とばかりに目の前に現れた。
 何と答えればよいのかわからず、しばし硬直していると、
「1粒、足りないんですョ」
ともう一度繰り返した。
「あの・・・」
 1シートではなく、1粒足りない?
「ごめんなさいね、うっかりしちゃって。今回初めてじゃないですよね?」
(カチン)前回身ぶり手ぶりであんなに私を歓迎してくれたのに、何も覚えていないらしい。閑古鳥が啼いているような、別の患者と鉢合わせることもないような、閑かな湖畔の森のかげを訪れた、この珍しい私のことを?
「先月も来ました」
「ですよねぇ」(嘘つけ)
「どうすればいいですか?」(ホント、こんな場合どうすればいいの?)
「何でしたら、今日27日分お持ちになります? 後日1粒取りにいらしていただいて」
どうも、たった1粒だけ取りに来なければならないというところが癪に障る。
「もう、明日の分もない状態?」
「いえ。明日の分くらいはまだありますから。じゃあ、後日まとめて28日分受け取ります」
「あ~ら、そうしていただけます? 悪いですねぇ」
悪い。この手の薬は、通常1週間単位で処方されるものではないのだから、残量が少なくなった時点で発注してくれないと困る。
「で、いつでしたら確実に受け取ることができますか?」
精一杯の抗議の意を込め、そう尋ねると、薬剤師は言ったものだ。
「何でしたら、今すぐ電話すれば、今日の夕方にでも届くんですけど」
日に二度もここまで往復させられてたまるかい。
「なら、明日また出直します」
「あら~、そうしていただけます? 悪いですねぇ」
悪い。
「ではこれ、預からせてもらっていいかしら?」
ひえぇぇ~! 処方箋とお薬手帳を人質に取られた。しかも、小心者だから「嫌です」の一言がいえない。
曖昧に黙っている私の反応を、同意と受け取ったらしい。薬剤師は素早く処方箋を奥にしまい込んだ。
「明日でしたら、そうですねぇ、13時から14時半くらいを除いて─お昼をとりに出ますのでね─ほとんど店に居りますから」
(カチン)
「その時間に、来るつもりだったんですが・・・」
「あら~。でしたら、いらっしゃるまでは必ずお待ちしていますから」
ったりめーだ。あぶねーあぶねー。また受け取り損ねるところだったではないか。
真面目に働いてくれ。営業時間内は店を留守にするな。調剤薬局はほかにもあるんだ。

翌日、予告時間通りに薬局を訪れた私に、今度はさすがの太平楽の薬剤師も、用意万端で出迎えた。
「はい、ちゃんとお薬手帳にも記しておきましたから。本当に申し訳なかったですねぇ。次からはこんなことのないよう気をつけますから。でも私のことだから、
ついうっかりなんてことがないとも限りませんけど(笑)」

笑いましたね。笑っちゃいましたね。
やめたやめた。案外バカ正直な、イイ人なのかもしれない。でも無駄足を踏まされるのだけは勘弁。
次からは、病院の窓口に置いてあった調剤薬局3か所の場所を示した地図を手に、ほかの薬局に変えよう。

 060.gif あと一粒の涙が ひと言の勇気が
 060.gif 明日を変える その時を見たんだ(ファンモン「あとひとつ」より)
名前
URL
削除用パスワード
by vitaminminc | 2011-02-19 13:35 | Comments(0)