こんぺいとう物語~ツンデレラボーイ~

入院した日。
手続きを済ませた自分を入れて4組ほどの患者が食堂で待機していると、それぞれ担当の看護師が挨拶にやって来た。
「〇〇さんですね? 私が〇〇さんの担当看護師、△△です」
そういって、にこやかに自分の胸元のネームプレートを患者が見やすいように引っ張って見せている。
私のもとにだけ、なかなか看護師がやって来ない。
それともあの看護師さんが私のことも兼任していて、あの患者さんが終わったらこっちに来てくれるのかもしれない。
勝手に一番やさしそうな看護師さんを自分の担当と決めて、おとなしく待ってみる。

すると、廊下の向こうから、一人の青年がにこりともしないまま足早に近づいてきた。
ま、まさか?
「ホゲホゲみん子さんですね? 担当のもにょもにょです─」
わざととしか思えないくらい、自分の名前のところをぼかして話しかけてきた。プレートも見せようとしない。
え? ナースマン? ほかに男性患者は何人もいるというのに? 女性患者の担当を男性看護師にやらせる?
ツイてない。
率直に、そう思ってしまった。しかも、不機嫌なんじゃなかろうかと不安になるくらい、愛想の欠片もありゃしない。
提出書類をナースマンに渡すと、食堂の椅子に座ったまま、血圧と体温を測られた。
病室に案内されるとき、荷物はキャスター付きの台でナースマンが運んでくれた。
テレビはこのリモコンで、ナースコールはそこのオレンジので、とぶっきらぼうに超簡単に説明してから、
「ホゲホゲさん、こういった入院は初めてですか?」と訊いてきた。
「はい。あ、もしかして、さっき血圧高かったですか?」
「うん、脈拍もかなり。不安なんだろうなと思ったので」
キミの冷たい態度が私を不安にさせたのだよ。
されど、患者の不安の原因を確認しようとしているわけだから、悪い人ではなさそうだ。
「今日入浴されますよね?」
「はい」
「ならあとで予約入れておきます。係りの者が案内します。それと今、お臍を消毒しておきます」
臍~!?
ツイてない。改めて痛感した。
かくして、セガレほど齢の離れた若いあんちゃんに、臍を綿棒できれいに消毒してもらう羽目に。
とほほ。何が悲しゅうて、50も半ばを過ぎた身になって、若いあんちゃんに臍など見せにゃならんのだ。
向こうだって、ケッ、見たかねーよと思っていることは疑うべくもない。ホントすみません。

昼下がり。翌日に手術を控えた私のもとに、仲の良い仕事仲間が様子を見に来てくれた。
病室ではほかの患者さんの迷惑になると思い、朝いた食堂に移動した。
「男の看護師さんだったんだよ~」と小声で嘆く。「臍の掃除されて、超恥ずかしかったよ~」

すると、ナースマンが私を見つけるや否や、険しい顔で寄ってきた。
まさか今の話を聞かれたわけではないだろう。
彼は、年配患者の車いすを押していた。
「今動くから、ちょっと待って!」
おじいさんに怒鳴る。
「ホゲホゲさん!」ついでに私にも怒鳴る。「さっきの書類、3枚足りなかったですよ!」 」
「え? でも、同意書にサインしたものは、すべてお渡ししたはずですけど」
「違いますよ! 1、2、3があるはずなのに、4しかなかったんで」
顔面オロオロの私。
「いいです、あとで取りに行くから、ちゃんと用意しといて」
それだけ言うと、おじいさん患者の車いすを押しながらナースマンが去っていった。

「なあに? あれ」
「あんな言い方ないじゃないねぇ?」
仕事仲間の二人があきれたように言う。
不思議なものである。他人に非難されるとかばいたくなる。
自分の担当看護師=自分の所有物のようなトチ狂った観念が湧いてきたのだ。
「あれでやさしい面もあるんだよ」となぜか弁護。
「血圧が高かったらしくて、入院は初めてなのかと心配してくれたし」
ちょっと荷物の中の書類、確認してくるから待っててと二人に言い残して、急いで病室に戻る。
荷物をチェックしたら、ナースマンが主張していた、「1、2、3」に該当ずる綴りが見つかった。
4の同意書のみ提出するものと勘違いして、独断で切り離してしまったのだった。
1,2,3を持ってそそくさと食堂に戻り、そこからナースステーションを物色。
仕事仲間の1人が、「こっちからのがよく見えるから、見ててあげるよ。あの子、眼鏡かけてたよね」
「さっきからおじいさんの車いすを押してずっと病棟内まわってあげてるみたいよ」もう1人が言う。「結構普通にいろいろおじいさんに話しかけてあげてた─」
怒鳴っているように見えたのは、おじいさんの耳が遠いからだったのかもしれない。
「ぶっきらぼうなだけで、根はやさいいのかもね」と私も自分に言い聞かせながら頷く。

ナースマンを発見。おじいさんを病室に戻し、ナースステーションに戻ってきたところだ。
そろりそろりと歩み寄り、「すみませんでした」と謝って、不足分の書類を手渡した。
「あ、はい」とナースマンは興味なさそうに受け取ると、そのままぷいっと奥に引っ込んでしまった。
やっぱめちゃくちゃコミュニケーション能力低いやんけ。あんなんで大丈夫なのか?
自分の甥もナースマンだが、甥は対極にいる。もンのすごく感じがイイ。そしてもンのすごくやさしい。

夜勤もあるから、担当看護師は翌日(肝心の手術の日)には朝から別の女性に代わった。
手術の翌日は、また初日と同じナースマンだった。
「体温、測ってください」と体温計を寄越すと同時に、ぷいっと後ろを向く。見てませんアピール。
頃合いを見計らって、「血圧を測ります」と言いながら私の右腕を取る。
術後の身をいたわってか、今までで一番ソフトな態度だった。
日ごろ冷淡な人が、たま~に親切な態度を見せたりすると、効果絶大。理不尽な話だ。

「身体拭きますね」と言われ、ギョッとした。まさか、あなたが? ホントすみません。
ナースマンは、蒸しタオルを取りに行ったのだろう、ぷいっと出ていった。
まな板の上の半魚人になるしかないのかと途方に暮れた。とほほ。。。
と、カーテンを開けたのは女性看護師。
さすがに女性患者の身体を拭くのは女性看護師と決まっているらしい。
しかも、女性看護師が拭いてくれるのは背中のみ。
前は自分で拭かされる。双方にとってベストなシステム。

ツンデレラボーイでぶっきら坊主のナースマン。
どこかで見たことがあると思ったら、ドラマ「鈴木先生」の長谷川博己に似ていた。
b0080718_11580357.png

4日目と5日目は女性看護師だった。一人は癒し系、一人は快活そうな女性だった。

そして、いよいよ今日で退院です、という朝。またこの↑鈴木先生登場。
「今日、ボクが担当なんで」と顔だけ見せると、無言で体温計を渡し、無言で血圧を測られた。
そしていつものように、シャッとカーテンを閉めて去っていった。

ほかの患者さんが退院する朝は、「〇〇さんは今日退院ですね~! おめでとうございます」とか
どの女性看護師も特別な言葉をかけているのを見てきた中、鈴木先生だけがいつも通りだった。

初日と退院日が鈴木先生に当たるのって、罰当たりに近い気がする(笑)。

家で2匹のツンデレ猫と暮らしている私だからこそ、このツンドラ的ツンデレラボーイに耐えられたのだ。
ツンデレラボーイと呼ぶには、あまりにデレ度が低すぎる。。。

鈴木先生、にやけてるよりはいいかもしれないけど、やはり笑顔って大事だとおばちゃん思うよ。
激務だろうけど、尊いお仕事。体に気を付けて、頑張ってね。





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by vitaminminc | 2016-11-19 12:35 | 人間 | Comments(0)
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