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あたしの記憶

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 先日、私にとっては今世紀最も恐ろしい恐怖映画を観てきた。
「明日の記憶」である。ご存じの方も多いだろうが、この映画は若年性アルツハイマーを扱っている。
 観ていて本当に怖くなった。そこらの心理サスペンスドラマなんかよりもはるかに怖かった。自分の記憶力がじわじわ蝕まれていく恐怖。自分が自分でなくなっていく絶望感。それを支え続けた妻の愛。映画は観る者に切なさと感動を与えてくれた。
 観終わった後トイレに行くと、熟年主婦たちが行列を作っていた。そんな彼女たちの映画の感想は、もっぱら病院でのテスト(認知症か否かを判断するためのテスト)のシーンについて。
「だけどさ、あの人(主役の渡辺謙)、結構計算は速かったわよね?」
「机の上の物を覚えるんだって、あたしなんかよりよっぽど記憶してたもの」
 笑えなかった。笑えないのだった。
 
 1.幼稚園に通っていた息子の園服に、小学4年の姉の名札を付けていた。
 2.幼稚園で息子が弁当箱を空けたら、中身がカラだった。
 3.息子の朝食を、すでに食べ終えていたくせに自分で食べてしまった。
 4.米を研ごうとして、袋の中身をジャーに入れたら「猫砂」だった。
 5.美容院に左右違うサンダルを履いて行ってしまった。(ただし車で)
 6.職場でトイレに立ち、デスクに戻ろうとしたら自分の席を通り過ぎていた。
 7.団地に住む友人の家に、10回以上行っているのに毎回辿り着けない。
 8.ヨーカドーに停めた車が見つからず、警備員さんに探してもらった。
 9.よく猫の名前と子どもの名前を言い間違える。
 10. 鯖読みではなく、本気で自分の年齢を忘れる。

 あぁ・・・。こんなことばかり書いていたら、また映画を観ている最中みたいに、涙腺のパッキンが緩んできた。夫を支える妻よりも、病気の夫に感情移入して、映画の始めから終わりまで、ずっと泣いていたほどである。
 自己弁護すると、1~3は今から4年前。決してネグレクトではない。ちょうど亡父が末期癌と闘っている時期で、私の心労(精神的ストレス)はピークに達していた。これは重症だと思い、幼なじみに相談した。
 「大丈夫よ。あたしも永谷園のお茶漬け海苔で簡単に朝食を済ませようとして、ごはんにお湯をかけようとしたら、ごはんの上にお茶漬けの空き袋がのってて、中身はゴミ箱にぶちまけてあった、あはははは・・・」
 (ーー;) 
 4と5は、それぞれ新しい仕事を覚えた時期。共に1本ずつ白髪が生えた。マンガみたいな話だが、私は新しい仕事を1つ覚えるたびに、白髪が1本生える。しかも、それ以上は増えない。そういう体質らしい。
 だが、6以降は最近の出来事である。仕事にも慣れた。ストレスも殆どない。なのに、なぜ?  おっと、まだあった。
 先日冷蔵庫の中を見たら、「岩のり」のビンが入っていたので、家族に文句を言ったのだった。
「これ、もういい加減誰か食べちゃってくれない? いつもママ1人で食べてるけど、いつまでも置いとけないんだし」
 すると子どもが二人して言ったもんだ。
娘「ママ、それブルーベリーのジャムなんだけど・・・」
息子「それに、岩のりならこないだママが自分できれいに食べてたよ、全部なくなるまで」

 ヴ!! まだあった。お土産に、笹だんごを8個もらいました。4人家族で分けるには、1人何個食べればよいでしょう? 
 8÷4=2
 1人2個食べられるはずの笹だんご。中学校から帰った娘が冷蔵庫から笹だんごの袋を取り出したところ、なんと中身が空っぽ! ミステリーであった。前日に父親が2個、母親と二人の子どもは1個ずつ食べた。翌朝、父親は何も食べずに出勤。母親と子どもたちも、朝は笹だんごを食べていない。嘆く娘。息子と私もキツネにつままれたように顔を見合わせた。姉に真っ先に疑われたのは、息子である。
「ママと一緒におやつに食べたけど、1個ずつしか食べてないよ」
 結局、8個入りというのは思い込みで、正しくは7個入りだったのだろうという結論に達した。
「そうとわかっていたら、ママ食べたりしなかったのに、気がつかなくてゴメンネ」
 ところが、である。数日も過ぎた頃になって、突然フラッシュバックが起こった。私が笹だんごをレンジに入れるシーンが、【3回】瞬いた・・・。間違いなく、3回レンジに入れている。
 笹だんごをレンジで温めてやわらかく戻すワザは、家族で私しかやらない。息子も娘もいない時間帯──そう、仕事から戻って1人で遅い昼食をとったあとに・・・。
 恐ろしいのは、本気で忘れていたことだ。正直言って、今も「思い出した」のとは微妙に違い、レンジに入れている手元のシーンが見えるだけ。行方不明の笹だんごについて論じ合っていた当時、当日にあってさえ、私は思い出すことが出来なかった。完全に記憶が脱落していたのである。
 今になってこんなことをカミングアウトしたところで、子どもたちを不安にさせるだけだろう。ココは黙り通すしかないのである。
 
 ところで一つ、疑問が解けた。私は現在ダイエットをしているのだが、一向に体重が減らない。その答えが、ここらへん=「食」に関する忘却──にあるのかもしれない。(誰か助けて)

 直前の記憶や短期間の記憶は、脳の「海馬」と呼ばれるところに保存されるという。認知症の初期段階では、この海馬がまずダメージを受ける。
 海馬=シーホースというわけで、活きのよさそうな「タツノオトシゴ」のイラストを載せてみた。こんなもんで私の頭の中が修復されるわけもないのだが、何かにすがらずにはいられない、そんな心境なんである。 



 

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by vitaminminc | 2006-05-20 14:59 | 健康 | Comments(0)