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某リングに賭けるセイシュン

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←テレビTIME特集
 「美しきチャレンジャー」より
 中山律子プロ

 ボウリングをやった。20年ぶりにやった。

 この夏、地元にマンモス娯楽施設がオープンしたので、仕事がオフだった昨日、かねてからの約束通り、子どもたちをボウリングに連れて行った。平日の昼間だから、てっきり空いているだろうと思ったら、とんでもない大盛況。高校生をはじめ若者グループ、カップル、家族連れで、わんさか賑わっていた。
 私が選んだ球は、9ポンド(約4キロ強)。ダンナが10ポンド、娘が8ポンド、息子が6ポンド。忘れた頃に出てくる筋肉痛を考慮して、2ゲームだけ申し込んでおいた。
 それにしても、驚いた。地元の店舗の規模はいうに及ばず、ハイテク導入面でもおそらく全国一だろう。おかげで東京23区内のチェーン店を差し置いて、料金の高さでも独自の料金体系を持ち、堂々トップ。サービスとして、1レーン使用につき、ジュークボックスのコインが1枚ついてきた。ピンボケ頭の私は、そのコインを手にして戸惑った。
<この爽快なピンが弾け飛ぶ快音と、ボディソニックのようなBGMが鳴り響く中、いったいどこでジュークボックスを聴けというのか?>
 全部で38レーンあるフロアの前方──ピンが並ぶ辺りの上の方──には、フロア全体に流れている音楽のPVが、ワイドスクリーンに映し出されている。レーンの数とほぼ同数ある巨大なスクリーンが、ズラリと並んで同じシーンを映している様は圧巻であった。思わずそのスクリーンに見入っていたら、画面の左下にジュークボックスのナンバーが表示されていることに気がついた。私はてっきり、喫煙ボックスみたいなところに入って、休憩がてらジュークボックスを聴くのかと思っていたのだが、そんなバカな話はもとよりなかったわけだ。プレゼントのコインを使って、ジュークボックスで好きな曲を選ぶと、それがフロアに流れ、PVが分身の術を使ってレーンの上を席巻するという仕組みであった。
 20年ぶりに訪れたボウリング場は、こんな調子で、初っ端からちょっとした浦島ショックを与えてくれた。当然、スコア表も然り。かつてのように、自分たちで記入する必要はない。全部コンピュータが読み取って、正確に記録&表示してくれる。地道に足し算し、仲間が出したストライクの黒蝶を苦々しい思いで描く必要もない。ワイドスクリーンでは厚化粧の倖田來未のクローンが何体も踊りくねり、スコア画面は「○○さん、投げてください」と指示を出してくる。
 私以上にボウリングのブランクが長いと言い張るダンナ。昨日が初体験の2人の子ども。低レベルの戦いが始まった。
 指の穴がキツくて抜けにくいのか、床に軽くバウンドさせるように投げるダンナ。
 8ポンドの球を、投げると言うよりは、ポトンと床に置いているようにしか見えない娘の不思議な投球。下手したら後方に転がって来てもおかしくないような置き方なのだが、球は一応前方に、お上品に転がっていく。家から一歩外へ出ると、基本的には恥ずかしがり屋だ。明らかにガターならまだしも、比較的いい線いってる球を投げたときでも、すぐにこちらに向き直り、ボールの行方も追わないで、「ぅふ♪」とテレ笑いを浮かべて、操り人形のようなスキップをしながら、トテットテッと席に戻って来てしまう。
「投げた球くらい最後まで見ろよ!」(by父親)
 娘は頑固だ。投げたボールではなく、着席してからスコア画面を見て、倒したピンの数を確認し続けていた。
 息子はというと、6ポンド球に「重いぃ~」と音をあげ、途中でキッズボールと交換。どうやって投げたらよいか、何度説明しても、なぜか独自の投げ方になってしまう。あるときは、ボールを腰の後ろに乗せたまま、前傾姿勢で左手だけを振って忍者のようにヒタ走り、ファールラインの手前でピタッと立ち止まった。何をするかと思いきや、ボールを持った右手をブーンブーンと振り子のように何度も前後させ(ハラハラした)、意表をつくタイミングで手放した。姉とは違い、レーンのすぐソコでガターになったボールでも、立ち尽くしたまま最後まで見届ける。その哀愁を帯びた小さな背中を見ていると、思わずこっちが奇跡を祈りたくなる──どうかボールが溝を乗り越えて、ピンの1本でも倒しますように──。
 結局、息子が私のアドバイスに従ったのは、①投球前に、ボールリターンの端にある小さな送風口に手をかざして指の汗を乾かす ②ボールについたオイルは、備え付けのタオルで拭き取る の二点のみだった。
 私はというと、過去に何かのテレビ番組で、「投げ終えたあとに腕を頭の上くらいまで振り上げるとカッコよく見える」といっていたのを思い出し、途中でそれをやってみた。すると、そちらにばかり意識が働いて、ガターを出してしまった。このときほど自分の振り上げた手が目障りだと感じたことはない。目の前に振り上げた手の位置が、高ければ高いほど恥ずかしい。
 結論から言うと、私は2ゲームのうち、ストライク2回、スペア2回、ガター2回、2投目に1本も倒せないミス数回。1ゲーム目が終了時、ダンナには1点差で負けた。表示された4人の得点の低さに、思わず両隣のレーンのスコアボードをチェック。いずこも似たり寄ったりなので、ホッとした。
 2ゲーム目に入る前に、ジュークボックスへ走り、コインを入れた。村田英雄の「王将」でも流したら周囲の反応が面白かっただろうに、ジュークボックスのラインナップは、サザン、湘南乃風、いきものがかりなど、夏で若くて爽やかでって感じ。間違ってもフロアに演歌が流れたりはしないよう、予め防御策が講じられていた。オレンジ・レンジにしようか迷った末に、ドラゴン・アッシュのナンバーをエントリーさせた。
 ところで、2ゲームの途中で早くも腕が疲れてしまった私は、ボウリング初心者ながらストライクも出した娘に抜かれ、結局3位に終わった。
 相撲取りみたいな格好で踏ん張り、両手でボールを押し出してみたり、投げると同時に滑ってひっくり返ったり。毎回奇ッ怪なフォームで投げては「G」と「-」の記録を更新していた息子だが、2ゲーム目に初めてピン9本を倒せたのが、余程うれしかったと見える。4位の息子が4人の中で、一番満足げな顔をして言った。
「あぁ、面白かった!」
  

 
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by vitaminminc | 2006-08-22 16:28 | 人間 | Comments(0)