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草トリミングと年トリビアリズム(※)

 6時40分にアラームが鳴った。ヤモリのようにシーツにしがみつき、このままずっと寝ていたいと切望した。
 だが、今日は小学校の親子草取り日。根がマジメな私は、朦朧とした全身に鞭打って、やっとのことで上体を起こした。頭の中にはシャボン玉が舞い飛んでいた。
 二日酔いではない。明け方前に、息子の脚が顔にのってきたせいだ。とんでもない時刻に起こされて、眠れなくなって困り果て、やっとのことで二度寝して、その眠りが最も深くなったところで目覚ましがピーピー。眠くて眠くて眠くて眠くて、起きたとたんに気絶するかと思った。
 夢とうつつを彷徨いながら、炊飯器を開けた。カラだった。ギリギリまで寝ていたので、ご飯を炊く時間もなければ、コンビニにパンを買いに行く時間もない。
 仕方がないので、朝から蕎麦でも茹でることにした。ところが、食品用の引き出しを開けてみると、中途半端なストック。蕎麦2束+冷麦1束。朝食を必要とする人数は、私と子ども2人。計3人。蕎麦も冷麦も、茹で時間は4分間。一緒に茹でることにした。違ったところで、食べる物はほかにない。どのちみち時間差投入だ。
 湯が沸騰するまでの間に身支度を整えた。麺を茹でながら、時計を見る。めんつゆを用意する時間がない。いや、めんつゆを準備する時間はあるが、息子の食事時間がなくなる。つけめん式にした場合、麺は息子の口に入る前に、つゆにダイブしなければならない。工程が1つ増える食べ方はしてられない。麺だけに、話が長くなってきた。ええぃ、めんどくさい──茹で上がった冷麦蕎麦に、インスタント味噌汁をからめて、上に鰹節をトッピング。行き当たりばったりの朝食を食卓に出した。野菜不足は昼食で補うしかない。
 人の顔に脚をのせて起こしておきながら、自分は爆睡していた息子。それでもまだ眠いのか、文句も言わずにネコまんま蕎麦を平らげた。

 食事を終えて、洗面所で鏡を覗き込んだ私は、思わずのけぞった。左の頬に、シーツの皺が、「そんなバカな」というほど深く刻まれていたのである。それは自分が生きてきた中で、最もでかくクッキリとした縦皺であり、まるで「その筋の人」のようにハードボイルドなのであった。
 幸い、イベントは草取りである。手ぬぐいを頬かぶりする代わりに、日よけ帽を目深にかぶると、サイドの髪を頬に引き寄せつつ、外へ出た。近所の人と一緒に学校に向かいながら、ハードボイルドな片頬で笑ってみせる。かなり喜んでもらえた。
「大人になってからのソレって、なかなか消えないんだよね~♪」
 まったくである。たっぷり2時間草取りをして、汗を流した帰り道でも、まだ薄っすらと跡が残っていた(らしい)。近所の人が、笑いながらも感心して言った。
「よっぽど長い時間、熟睡していたんだね」
──違う。息子の脚に起こされてから、二度寝するとき、私はアラームの設定時間を少し遅らせたのだ。だから、最後に寝た時刻は覚えている。5時を少し回ったところだった。つまり、たった90分足らずのプレスだったのである。それが、起きてから3時間近く経っても完全に消えないとは。ハリハリホーホー,張り張り頬~。午前中ではあったが、心は黄昏れた。
 来年の今頃は、もしかしたら頭髪も、今朝食べた蕎麦と冷麦のように2色のまだらになっているのではなか老化。そして頬にはやはり、ハードボイルド系シーツの跡が、24時間刻まれているのではなか老化。
 草と一緒に年も取ったような気がする。とんだ半日であった。(ーーメ)←その筋の私

※トリビアリズム=瑣末主義(事象の本質をとらえようとせず、些細な事柄を細かく描写する態度)~学習研究社「カタカナ新語辞典」より~
 
 
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by vitaminminc | 2006-08-26 12:09 | 笑い | Comments(0)