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ムスコとムスメとおムス日和

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   ↑学校からの帰り道、ムスコが「ママにプレゼント♪」と拾ってきたハート型の石

 寝違えて首を痛めた私が、「痛い痛い。これは重症だ。湿布薬なんかじゃダメだ。整体に行かなくては。どこかに痛くない整体師はいないか」と大騒ぎしていると、ムスコが‘普通に’質問してきた。
「ママ? 今日は何時に起きるの?」
 なんか変だ。私はすでに起きてい・・・なかった。夢を見ていたようだ。それもかなり痛い夢を。大体寝ている者に対して「何時に起きるのか」と質問すること自体がおかしい。その時点で相手を起こしているってことに気づくべきではないか。夢の中に片足を突っ込んだまま、夢の中ではシャキシャキ文句を言っていた私だが、現実に口を開いてみると大いにだらけた声が出た。
「はに? おひるりかん? ひちり・・・ひゃんふぎきゃ・・・」
「7時半に起きるんだね? ならその時間に朝食作って持ってきてあげる。ところで今何時?」
 時計を見るとまだ5時半をまわったところだった。気を失いかけたので、言い終わらないうちに夢の中に戻った(←推定)。
「まら5時ら。もちっと、寝てなひゃ・・・」
 
 ムスコは素直に小一時間ほど二度寝をした後、やはり自然に目が覚めたらしい。そして私の知らないうちにキッチンで一仕事終えて戻ってきた。ちょうど私が、テスト用紙に名前を書き忘れないようムスコの背後に立って見張っている最中に──。
「ママ、朝ごはん作ってきたよ」
 現実のムスコの声で目を覚ました私は、夢のムスコのテスト用紙から目を離して薄目を開けた。すると片足でドアを開けようとしている現実のムスコの姿がうっすらと見えた。
「焼きおむすびだよ♪」
 両手に持った小皿の上には、大きな大きな、相当大きな焼きおむすびが載っていた。
 私はベッドの上に上体を起こし、小皿の一つを受け取って自分の枕の上に載せた。
「わぁ。ずいぶんおいしそうだね」
 そう言いながら、ムスコが両脇の下に挟んできたヤクルトを受け取る。
「一緒に食べよう」
 ムスコは嬉しそうに言って、すっかり冷たくなった足先を私の布団の中に入れた。
「コタツみたいであったかいね」
「ぎょえ~!!」
 私は叫んだ。自分の皿を取ってさあ食べようとしたら、上に何も載っていなかったカラである。
「ママ!」
 ムスコは私の枕を見て笑い崩れた。枕の上には置いてきぼりにされたままのおむすびが鎮座していた。ムスコはそれを拾って、私が手にしていた小皿の上に載せてくれた。
「テーブルクロスを引き抜くワザを披露しちゃったね」と私が言うと、
「ああ、あのワイングラスとかを倒さずにテーブルの上に残すヤツ?」
 ムスコはおむすびを頬張りながら私の枕を見て、「あ~ぁ。枕カバーに、お味噌が少しついちゃったョ」と笑っていた。どっちが大人でどっちが子どもなんだかよくわからなくなった。
 朝型ニンゲンのムスコは、今日もこうして私の休日のささやかな楽しみである1時間の朝寝坊をほぼ100%奪ってくれた。それでいて、これ以上はムリというくらい私の目尻を垂れさせるのであった。

 楽しい朝食を終えて居間でくつろいでいると、そこそこ朝寝坊を満喫したらしいムスメがおりてきた。
「ママー、オハヨー。わたしの朝食は?」
「今用意する」
 キッチンに立って電子ジャーを開ける。

「ぎょえ~!!」

 保温スイッチが虚しく点っているジャーの中は、見事にカラであった。大判焼きのようにデカイ焼きおむすび2個の残像が、頭蓋骨の内側のワイドスクリーンに映し出され、私は言葉もなく微笑むのみだった。
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  ↑14年前に、14年後の朝突然自分に降りかかる悲劇を予知して驚いたムスメ

Commented by みんみん梅桜紫陽花彼岸花 at 2007-10-21 16:00 x
ええムスコさんやなぁ。どうしたらそんな心優しいムスコさんに育つんやろねえ。ハート型の石に休日の朝の焼きおにぎり。ムスメさんには焼きおにぎりがあたらなかったのは残念さんやけど、ムスコさんの母への優しさ溢れる行動がやさしい秋の日差しのように輝いている。すてきな話をありがとう。
Commented by vitaminminc at 2007-10-22 14:54
みん花さま。今後は「焼きおむすび」以外も食べてみたいなぁ~などと欲を出しております。
ムスメも学校の振替休日で家にいるときは、スパゲッティ料理をつくって私の帰りを待っていてくれるようになりました。私の教育は、
 「ブタもおだてりゃ木に登る」。その証拠に、ダンナがいるときムスメは決して料理を作りません。前にそばの茹で加減に失敗したとき、ダンナが容赦なくけなしたのがトラウマになり、父親がいる日はキッチンに立てないと申します。いやぁ~あのそばは確かにひどかったけど、必死にフォローしておいたおかげで、私には今ではとてもおいしい野菜スープのスパゲッティなんかをふるまってくれるようになりました。
アッホやなぁ、おとーちゃん。短気は損気ってことですよ。
Commented by dokkkoi at 2023-06-09 11:33
こんにちは。

わぁ~、やさしいムスコさんですね。
この親にしてこの子あり。
幸せな思い出があるってなによりの宝物ですね。
Commented by vitaminminc at 2023-06-09 16:39
★ふばこさま★
こんにちは!
ありがとうございます。
普通の塩むすびなら作るのが楽なのに、なぜ味噌あじの焼きおむすびを作っていたのか……不思議です。相当自分でも食べたかったんでしょうね。
私の棺に焼きおむすびを入れるよう遺言に書きたくなるくらい、強烈な思い出でございます。
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by vitaminminc | 2007-10-20 11:59 | 笑い | Comments(4)