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老人と海

 「お待たせしました」
 図書館員が差し出してくれた本を見て、私はのけぞった。アーネスト・ヘミングウェイの「老人と海」ではなかったからだ。
 それでも受け取った。‘閉架’扱いになっていたため、わざわざ地下室の書棚まで取りに行ってくれた本だ。突っ返したりしたら申し訳ない。いや、「間違えました」と告白するのが恥ずかしかったというのも確かにある。でもそれ以上に、表紙の写真に心が動かされた。

 ふとしたことから、ムスコとヘミングウェイの「老人と海」について語る機会があり、突然読み返してみたくなった。文庫本なら持っているが、あいにく仮住まい中の身。私の蔵書はすべて隣町の倉庫で眠っている。
 薄い本だし、ムスコにも読ませたいと思い、先週図書館に足を運んだ。どうせ借りるなら文庫本でなく、でかいヤツを借りたくなった。要するに、検索画面の文字をよく確認もせずに、ヘミングウェイの文庫本の下に出てきた「老人と海」をリクエストしてしまったというわけ。
 
 持ち帰った本を見て、ムスメが笑った。
「ならそれと別に、ヘミングウェイのも借りてくればよかったのに」
 ・・・ふっ。甘いな。それをやっっちまったら「間違えた」ことがバレバレではないか。ヘミングウェイはまた別の日に借りるとして、取り合えずは写真録「老人と海~与那国島~」とご対面。
 写真は本橋成一氏。そして文はミュージシャン坂田明氏。日本最西端の島のとりこになったお二人の写真録である。

 本文冒頭のタイトルが、
 与那国で、
 オレの目から
 ウロコが
 バサッと
 落ちていく。

 何やら因縁めいたものを感じながら、大いに楽しんだ。坂田さんの文は、南国にとてもよく合う。例えば、地元の久部良中学が全校生徒でブラス・バンドをやっているというのを聞きつけ、その練習風景を見に行ったときのエピソード。若い顧問の先生が、坂田氏を紹介したときの様子は、こんなふうに書いてある。

 ─誰もオレを知っている奴がいないというのが清々しい。
「全校生徒でブラス・バンドをやっておられるそうで」
「ええ、これで全校生徒です」
「わ───」
 全校生徒というオレのイメージの前に集合した生徒の数は二十八名という、圧倒的にするどいものであった。つまり、全校生徒でなければブラス・バンドは成立しないのである。これはもう、偉い、凄い、負けましたという以外にないのである。


 行間に、南国の海風が吹き抜ける。椰子の葉のように前髪を揺らしながら、私はつい嬉しくてニヤケてしまった。

 本橋氏の写真もすばらしい。まさに日本の「老人と海」だ。
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 負け惜しみではない。おっちょこちょいなのも、たまにはイイもんだなとしみじみ思った。
 この本の初版は1990年の8月。写真の老人が、まだまだ元気でいてくれることを祈りながら、表紙を閉じた。
 

Commented by chin-papa at 2008-02-23 10:30
min子姉ちゃん、ゴメンねー。我がブログに※もらってたのに更新サボっちゃってお返事できずにおりましたー。愚かな妹をどうぞ許して。
で。今日はコレを言おうか言うまいか、とーっても悩んだんだけど、この際言っちゃう♪
「おめでとう。この写真集、サバ兄が持ってるよ。趣味が合うのね。良かったねーーーーー。」
Commented by vitaminminc at 2008-02-25 20:08
ヴッ!! chin子ちゃん、マジ? お宅にこの写真集があるの???
サバ兄と趣味が合うかどうかは謎ですが、いや~、縁があることだけは確かなようだね。ビックリしたなぁもう。
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by vitaminminc | 2008-02-12 11:03 | 趣味 | Comments(2)