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ダンボール猫

ダンボール猫_b0080718_1014283.jpg朝顔

雷雨に襲われて、
支柱から外れた朝顔

地面に横たわったまま
花を咲かせている

闘病中の茶尾を想わせる

土日にペット・ショップや動物病院を回って看護用品を揃えた。どんままに、
 「ほれ! み茶ママ何やってる、しっかりしろ」とやさしく手を引かれ、ぎゃおす王国の「強制給餌」コーナーに案内してもらった。そこで栄養剤や給餌用具などを見た私は、しばし立ちすくんだ。
私は一体どうしちゃったんだろう。愕然とした。人間の赤ちゃん用イオン水といい、プレーンヨーグルトのホエイといい、考えてみればすべて人間用のものしか思いつかずにいた。
そうだ、固形物を口にできなくなった以上、手っ取り早くこうした「栄養剤」に頼ればよかったのだ。なぜそこまで頭が回らなかったのだろう。心配してくださっている皆さんも、さぞかしハラハラされているに違いない。
 やはり「延命」=「長引く苦痛」というのが頭にあるんだろうな。無意識に思考回路の一部をシャット・ダウンしてしまっていた。そうとしか思えない。そんな自分が恐ろしくなり、しばし硬直した。
 安楽死させないで自宅に連れ帰ることを選んだのは、この私ではないか。
 ほんとうに、しっかりしろ、私。

 「栄養剤」は動物病院で出されるもののほか、商品によっては通販またはペットショップでも入手可能とあった。時間がない。土日もやっている行きつけの動物クリニックに行こうかと思ったが、午後は(オペ・タイムが入るため)16時以降でないとやっていない。それに―決してそんなことにはならないはずだが―安楽死を選んであげられなかったのですか?という悲しい目で見られて腹の座りが悪くなるのもいやだったので、先ずはペットショップに車を走らせた。豪雨の中、軽自動車は側溝に落ちた虫のように‘助かる道’を求め、もがき走った。

ダンボール猫_b0080718_8394037.jpg犬用口臭除去シロップや歯周病予防ハミガキなどが並ぶコーナーで、HIGH CALORIE VITAMIN CONCENTRATE=栄養補給食品ジェルを見つけた。それから給餌用のピルガンも。注射器の先に柔らかいラバー・キャップをはめられるやつ。スポイトの先より口にやさしく安全。ピルガンの説明書きを読んだら、「子犬・仔猫、ハムスターに使えます」とあった。もともと小柄だったが今では仔猫よりも頼りなげな茶尾を想い、胸がキュンとなった。
ダンボール猫_b0080718_8533337.jpg尿取りパッド
今朝も子どもたちを送り出してから茶尾を見に行くと(今日は仕事が休み)、トイレのそばで猫砂を散らせ倒れていた。
力を振り絞ってでもトイレで用を足そうとする健気さに胸が熱くなる。
力が尽きても心配要らないよ、ママはこうしてちゃんと準備してるから。

ダンボール猫_b0080718_858382.jpgペット用ウエットティッシュ
給餌下手なママのせいで、お口まわりが汚れてしまう。
「舐めても安全」という文句に惹かれ購入。
お尻もきれいにしてあげられるもんね。

ダンボール猫_b0080718_914596.jpgまたたび粉末
一昨日もかすかな物音がして目が覚めた。3時48分。
見ると茶尾がダンボール製爪研ぎの上に乗って、ダンボールに歯を立てていた。
「ダンボール中学生」を連想した私は、茶尾を餓えさせていたことを悔やみ、階段を転げるように駆け下りると大急ぎで鰹節を取ってきた。
茶尾の鼻先に細かく削った鰹節を差し出すが、匂いをかいだだけで口をつけようともしない。ならばなぜダンボールをかじろうとしたのか?
答えは明白。マタタビだ。爪とぎにはマタタビ粉末が仕込んである。
リンパ腫はひどい痛みを伴うという。悪性リンパ腫で亡くした犬(享年15才)は、衰弱してもなお散歩に行きたがったので、行けるうちは毎日連れ出した。老犬の歩調に合わせてゆっくりゆっくり歩を進めた。脚の付け根が痛むからだ。激痛に途中何度も立ち止まる。それが道の真ん中だったりして、たまたまそこに車が来たときには抱き上げなくてはならない。そのたびにひゃん!と悲鳴をあげ、身をくねらせた。
 隣の造園会社に植木泥棒が入ったときと、知的障害者施設を抜け出した障害者が路地に入り込んで迷子になった時に吠えて知らせた以外、決して無駄吠えしない犬が悲鳴をあげてもがくくらいだ。どれほどの痛みなのかは想像できる。
 茶尾が時折衰弱しているはずの体を起こして爪を研ぐのは、おそらくひどい痛みに耐えかねて、何かを掻き毟らずにはいられないのだろう。決して一時の回復や気分転換などではない。その証拠に、2、3回爪を研いでダンボールを齧った後すぐに倒れ込み、しばらく呼吸が荒れる。
 つまり、マタタビを舐めるのは、今の茶尾にとって自らモルヒネを打つ行為に等しいのだ。
一秒でもいい。苦しみから一時解放されますように─。
ダンボール猫_b0080718_945296.jpg無数の穴が開いたダンボールの断面は、自由に動けない身となった茶尾にとって、体温調節するのに都合がよいのだろう。発熱時には冷たくて気持ちのよいフローリングも、長いことじっと寝そべっていれば、やがて体温が伝わり温められてしまう。その点、びっしり穴が開いたダンボールには熱がこもらない。通気性に優れている。
 家の中でその時どき一番快適な場所を求めるなら、温度計も湿度計も要らない。猫が寝ている場所を探せばいいのだ。
 茶尾は自分にとって一番楽な場所を求め、ヨタヨタと移動する。立ち上がって骨のような四肢を踏ん張る姿は、胸と腹だけ水で膨らみ、上から見るとツチノコ、横から見ると人の重みで垂れ下がっているハンモックのようだ。
 その痛々しい身体が、硬いダンボールの断面を求めて移動する。なんでこんなところで?と思うようなことにも、ちゃんと意味があるのだとわかる。

 ペット・ショップで購入した栄養補給ジェルだけでは足りない。味がまずいらしく、口に注入しても大半を吐き出してしまう。
昨日は仕事だったので、夕方4時過ぎに獣医を訪れた。名前を告げ、カルテを確認した受付のお姉さんが、さっと表情を曇らせるのがわかった。猫を連れてくる変わりにムスコを伴い立っている私に、慎重に言葉を選んでいる。
 「いろいろ(ご家族で)ご相談されましたか?」
 「家で看取ってあげることに決めました」
 私は、茶尾がすでに固形物は食べられない状態になっていることを説明し、何か栄養を補給してあげられるものがあればと思い来院したことを告げた。
ダンボール猫_b0080718_9281030.jpgお姉さんは奥に引っ込むと、ほかの患者を診察中の医師に指示を仰いだ。
戻ってきたお姉さんが手にしていたものは、缶詰タイプの療養食
ペースト状なので、注射器でも楽に吸い上げられるという。
試してみたくなり、1つ注文した。

ダンボール猫_b0080718_929306.jpgお姉さんはたくさんの注射器を付けてくれた。
 「(注射器は)洗っても使えますが、取りに来ていただければいつでもお渡しできますので」
 すでにピルガンを購入して持っていたが、ありがたく受け取った。沈痛でやさしげなお姉さんの表情には、動物を愛する人柄がにじみ出ていた。

ダンボール猫_b0080718_9312490.jpg缶詰を開けた。今の茶尾にはとても数回で食べきれる量ではない。残った分は冷蔵庫で保存するよう言われたが、とにかく数日かかっても食べ切れやしないだろう、今の茶尾には。
どこにでもあるごく普通サイズの缶詰なのに。
 家にあったジッパー付きビニール袋に小分けして冷凍保存することにした──これが功を奏すことになる。
 はじめ常温のペーストを注射器で与えたが、とにかく嫌がる。無理に入れようとすれば必死で抵抗するので体力を消耗させてしまう。何より呼吸困難に陥る危険があって続行不可能。
 いったん退却し、今度は凍ったままのペースト=わずか2.5cm四方を、さらに7mm四方くらいに割って、器具は用いず私の指先だけで口に入れてみた。
 背後から与えるので、角度的に猫の顔を覗きながら与えることが出来ない。左手で小さな頭を支え、右手指の感触だけが頼りだ。薬指の先で小さな口をこじ開け、即座に小指の先にのせた栄養のカケラをほっぺの内側に塗りつける。熱のこもった口に、冷たいペーストが気持ちいいのだろうか。吐き出さずに口の中で何度も舌なめずりをしている。たまたまか?と思ったが、違った。3、4回冷えたカケラを入れさせてくれた。わずか2.5cm四方の栄養シャーベットを1cm四方分食べ残しはしたけれど、とにかくほんの少しでも身体に納めてくれたのが嬉しかった。
ダンボール猫_b0080718_11104569.jpg

仔猫のときによく遊んだ
カモノハシのぬいぐるみ
ダンボール猫_b0080718_11122620.jpg

カモノハシに
マタタビ粉末を
ふりかけてみた

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どうかどうか神様
茶尾が少しでもゆっくり
眠れますように
ダンボール猫_b0080718_10355782.jpgケイトウ

連日の雷雨にも負けず
力強く咲いている

茶尾の命の炎みたいだ 
 
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by vitaminminc | 2008-09-01 11:16 | 生きもの | Comments(0)