意表札

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 家の解体工事が始まる前に、ダンナが業者に頼んでいたことがある。
 「玄関ドアの左横の、タイルに埋め込まれている表札があるんですが、もし取り外せるようなら取り外してとっておいてもらえませんか」

 何日かして、ハウスメーカーを介し、表札が手渡された。さすがプロ。無傷であった。しかしオットはどうしてコレにこだわったのだろう? 「記念」だろうか・・・?

 外構工事が始まる前に、ダンナが工事の担当者に聞いた。
 「うちに表札があるんですけど、ソレって取り付けてもらえます?」
 その場に居合わせた私とハウスメーカーの担当者。思わず目が合った。
 マズイ!そういうことだったのか。


 古い家に取り付けた表札は、何を隠そうこの私がその家に合うようにと発注し、つくったものだ。大理石風のブロックに、純日本風の縦書き明朝体(あ、写真はあくまでもイメージで、実際のものではありません)。これをリサイクルさせるわけにはいかなかった。どう考えても新しい家には合わない。

b0080718_18104136.jpg オットの機嫌を損ねないよう、どう切り出して阻止したものかと思案している間に、工事担当者が答えてしまった。
 「えぇ、つけることはできますけど・・・」
 マズイ!
 せっかくの洋風建築(←見た目)がもの凄くチグハグなものになってしまう。
 「なら今度持ってき・・・」
 とオットが言うのを思わずさえぎった。
 「合わないよ」口走り出したらもう止まらない。「そんなにあの表札が気に入ってるなら、パパのお部屋の入口に取り付けてあげるからっっっ」

 もう必死。私があまりにも意表をつくことをヌカしたものだから、実直な人柄のハウスメーカー担当者も外構担当者も自制心が利かず、二人揃って吹き出した。しかしそのすぐ後で、さすがは営業マン=ハウスメーカーがあわてて取り繕った。
 「以前の表札は、記念として大切に保管されてはいかがでしょうか」
 
 3人に難色を示され、すごすご引き下がったオット。しかし部屋の入口に、旅館みたいに古い表札を取り付けたらかなり面白いだろうなぁ・・・。でも本当にソレをやってのけて自嘲するほどオットは愉快な性格ではない。古い表札を付けたがったのも、「思い入れ」からではなく、単に「節約」精神からに過ぎなかったようである。
by vitaminminc | 2008-03-21 18:18 | Comments(2)

締めくくり3年早送り

 ぁあぁあぁあぁ~ッという間の3年間だった。

 ムスメが中学校を卒業した。
 中学の合格通知を手にして狂喜した記憶がまだing形のままだというのに、昨日は卒業証書を手に感涙にむせぶワタシ。あぁ忙しい。

 この3年間、私にとっては音速だった。「矢」よりも速く、「光」よりはゆっくりと。当のムスメにとってはどうだったのだろう?
 「別に。速いとは思わなかったけど?」
 予想通りの答えだった。時間の体感速度は余命に比例するという通り。
 お先たっぷりのムスメがいうには、「特に最後の一年間は長かった」そうだ。卒業が待ち遠しかったらしい。中学校生活は学年が上がるに連れ、たくさんの良い友達にも恵まれた。担任の先生のことも大好きで、別れが辛くて泣いてしまったくらい、中学校生活は充実していた。それでも卒業が待ち遠しかったわけは、それ以上に高校生活に寄せる期待が大きいということにほかならない。なんと希望に満ちた近未来、なんと♪まぶしい白です、ブルーダイヤ的な世界であろうか。

 高校生の娘さんがいる職場の同僚が去年話していたことを思い出す。
 「本当に、(若さが)眩しいの。溜め息が出るくらい輝いていて、どんどんどんどんきれいになっていくでしょ。そんな変化を見ていると、どんどんどんどん親から離れていくような気がして、時々寂しくてたまらなくなるのよね。本当はこんなふうに仕事なんかしてないで、もっともっと娘と一緒にいられる時間を大切にしたい。もっといろんなこと話してたいって思っちゃうのよね。ムコウは鬱陶しいって思うかもしれないけどね」

 私もそのうち、ムスメの光り輝くオーラを浴びるようになるのだろうか。。。そしてこれからの3年間は、どんな速さで進んでいくのだろうか。
 
by vitaminminc | 2008-03-21 00:02 | Comments(0)

荷造りの前に。

 昨年12月、仮住まいとなるココに引っ越して来て以来、脳味噌の片隅に時々とまっては飛び去り、またとまっては飛び去る、小さな心配事がある。
 それは蝶のような・・・というにはもう少し光っていて、でも取るに足らない軽いもの、それでいてそのままなかったことにするには何となく不快な・・・そう、銀蝿のごとき心配事である。

 それは何かというと、引っ越して来た当初は確かにあったはずのもので、荷解きのゴタゴタの日々の中で忽然と姿をくらましたもの、ちょっとした食品なのである。

 今思えば引越し前にそんなものをなぜ買ったりしたのか不思議でたまらない。一応日持ちするタイプの食品ではあるが、何処でどう変質しているやもしれず、少々気になる。

 いったい何処にいってしまったんだい? まさか2匹のにゃんこに全部喰われたとか。それにしてはどこにも喰い散らかした痕跡も見えないし。もうじき新しいおうちに帰るんだよ。いい加減に出てきなさい。
 潮の香のする栞。
 波に揺れる押し花。
 非日常的非常食。
 おいスルメ、キミのことだよ。何処に隠れているんだい?
 荷造りスルメーに出てきなさい。
by vitaminminc | 2008-03-19 21:06 | Comments(0)

ふたまご

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 生卵を割って、黄身が2個入っていたなんて話はそう珍しいことではないのかもしれない。実際に見たことはなくても、そんなこともあり得ることくらい誰でも知っているだろう。

 でも、寝ぼけ眼で割った3つの卵のうち、2つが
双子ちゃんというのは、相当珍しいのではないだろうか。おかげですっかり目が覚めた。

 別の日にまたしても双子ちゃん卵があったので、結局この10個入り同一パックのうち、合計3個の卵がツインズだったことが判明。3割が双子の卵=ふたまごちゃんだった。ふはは。

 双子というのは人に限らず魅力的なものである。卵の双子ちゃんも小ぶりでとっても愛らしかった。
by vitaminminc | 2008-03-17 14:15 | Comments(0)

子ども好きの鬼ーちゃん

 ムスコが電車に乗っていたときの話をしてくれた。

 
 ぐらりと電車が揺れた。

 よろけた拍子に、
 
 そばに立っていた人の足を踏んでしまった。

 「すいません」とあやまりながら、

 その足のヌシはと見上げると、

 チャ髪天を衝く、

 ピアスのヤンキー。

 どやされる!! とすくめた肩に

 舞い降りたのは、

 「大丈夫?」

 というあたたかな声。

 「見た目怖そうなのに、チョーいい人だった」


 鬼(おに)ーさん、ムスコにやさしくしてくれてありがとう

 子ども好きのお兄さん、ワタシ大好き。

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←ワタシが描いた平井堅(似てねーッ!)
           VS
 ムスメが描いたグーフィー(ディズニー)

 ※本文と無関係ですが、1秒間は笑えます。




 
by vitaminminc | 2008-03-15 19:59 | Comments(0)

歩道橋の怪

あの朝見たあれは・・・何だったのだろう。

 すぐに語るには気が引けるくらい、シュールな体験だった。
 それは、よく晴れた冬の朝に起こった。仮住まい先から学校までムスコを送るため、いつものように車を走らせていた。
 ムスコと私は何気なく、けれどほぼ同時に、左側の歩道に目をやった。一見何の変哲もない光景に見えた。それでもムスコはわざわざ口に出した。私にもそれが見えているかを確かめるかのように。
「ママ、あの子たち、どこの小学校…?」
 歩道には、ちょうどムスコと同じくらいの女の子が二人、私たちに背を向けて歩いていた。黄色い帽子、赤いランドセル。よくある通学途中の光景だった。
 「どこの学校?」ムスコが再び口を開いた。
 「さぁ…」言い知れぬ違和感を覚えながら、私は適当にかわした。「ここらへんだとA小か・・・あの歩道橋を渡るとしたら、B小かな」
 なぜあの子たちは通学班で歩いていないのだろう? そう思いながら女の子たちの横を過ぎ、少し先の信号待ちでゆっくり停車した。車の横を、女の子たちが通り過ぎていく。仲良さそうに、話しながら、普通に歩いていた。
 まもなく二人は歩道橋の手前にさしかかった。二人は国道を横断しないようだ。階段を避けるように、左手に吸い込まれて消えた。
 歩道橋の階段横に、脇道でもあるのだろう。だが、道を曲がったのなら、当然階段の手すり越しにその姿が見えるはずだ。なのに私には見えなかった。少女たちが国道を渡るか渡らないかでA小の児童かB小の児童かの判断がつく。だから目を逸らさずにずっと見ていた。消えたとしかいいようがなかった。ムスコも見ていたはずだ。が、口を閉ざしている。
 階段の柵越しに見える距離は、2mくらいか。私もムスコも二人して肝心なところでまばたきでもしたのだろうか。
 前方の車がゆっくりと動き出した。私はアクセルを軽く踏みながら、ムスコに言った。
 「左側、見てて」
 車は歩道橋の下を通過する。
 「見た? いないよね?」
 「消えた?」
 少女たちが曲がったはずの脇道は、細い一本道だった。道の両側には高い塀があった。1分も停車していなかったのだ。全速力で走り切れるわけがない。
 そこには誰もいなかった。

 説明がつかない。本当に、消えてしまった。
 そのすぐ後で、逆方向から歩道をゾロゾロ歩いてくる通学班の子どもたちとすれ違った。
 さきほどの二人の少女は、何だったのか。

 いつもは歩道を気にもしないムスコが、その朝に限って「どこの小学校?」と聞いてきた理由が、なんとなくわかったような気がした。
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by vitaminminc | 2008-03-14 19:58 | Comments(0)

 ムスメにチャンネル権を奪われて、さして見たくもないアニメを見させられ、ムスコも私も見たくないのに何でつき合わせるのだと文句を言ったら、ムスメがこう返した。
 「ならママも見れる時に見たい番組見ればいいじゃない」
 「・・・見れたらね」という私の低音と、「ひっ」というムスメの息を呑む音が重なったすぐ後で、

 「すいません、墓穴掘りました」とムスメが謝った。へらりと笑っていた。

b0080718_22205856.jpg サスペンスドラマはたま~の平日休みに、14時からやる再放送を見れたら見るという程度だが、そんな中で最もお気に入りなのが、「京都迷宮案内」シリーズだ。
 【京都の地方紙「京都日報」の社会部遊軍記者・杉浦恭介が、迷路のように入り組んだ京都の街並みを駆け抜けながら、そこに住む人々の「心の迷宮」を見つめていく物語】(新・京都迷宮案内公式サイトより)である。

 若い頃からおじさまフェチの気がある私は、杉浦役の橋爪功が大好き・・・というか、橋爪功がやっている杉浦恭介が大好きだ。けれどマメじゃないので、DVDに録画したりはしない。1シーズンに一度見られるか否かという偶然に近い‘出会い’をすごく楽しみにしている。
 しかし! 今回ばかりはどうしても見逃したくなかった。「新・京都迷宮案内」最終回スペシャル(3/6放送)のゲストは「家政婦は見た」でお馴染みの、市原悦子。ムスメに絶対にしくじるでないと念を押し、録画を頼んだ。

 すぐにでも見たかったのだが、忙しくて忙しくて忙しくて忙しくて。見る暇がなかった。ようやくプレイボタンを押せたのが、先の日曜。
 このシリーズはタイトルバックのセンスの良さも群を抜いている。それにキャストがいい。社会部担当デスクに野際陽子、杉浦との掛け合いが面白い京都府警総務部長に北村総一朗、二人の下宿先の女将に市田ひろみときている。要するに何から何まで私の好みなのだ。

 やっと作り出せた私の時間。テレビの前に座って最終回スペシャルを楽しんだ・・・半分まで。途中でいきなりまったく違う画面に切り替わっても現実を受け入れられなくて、何が起こったかを理解するのにしばらく時間がかかった。
 「ママ、これ途中で切れてるじゃん。空き時間が足りなかったんじゃないの?」
 ムスコに指摘され、改めてショックを受けた。あれほど新しいDVDに録画してくれと念を押したではないか。こんなところで放り出されるくらいなら、いっそ全部録画出来ていない方がマシってもんだ!半分まで見て打ち切られようとは! ウギャーッ!

 テレ朝さん、不幸な私のために、一刻も早く再放送願います。もう二度とムスメに録画を頼んだりしません。自分で録画します。いや、仕事を休んで白昼堂々テレビの前に陣取ります。

 
 「・・・京都迷宮案内を‘迷宮入り’ させたのは、どこのどいつだ」
 「まーまー奥さん、そう言わずに」
 反省しているとは思えないムスメになだめられながら、私は京都の迷宮に案内してもらえる日・・・そう、再放送の日を待ちわびている。
 
by vitaminminc | 2008-03-13 22:42 | Comments(0)

 見ました? 見ました? キリンレモンのテレビCM!

 今日(3/12)からオンエアされています。あの熱血スポ根アニメ「巨人の星」の飛雄馬が、大リーグ養成ギブスを装着したままキリンレモンを飲もうと暑苦しく歯を喰いしばっています。
 なんでも当時のスタッフが作画を担当し、飛雄馬、一徹、明子姉ちゃんの声もオリジナルの声優さんたちが務めているとか。超豪華版です。

 筋肉をメリメリ震わせ汗する飛雄馬。そんな息子を一喝し、卓袱台を両の拳で叩く一徹。その振動でバウンドし、ざるから飛び出すミカン。柱の陰で白糸の滝のように涙する明子。コレ、しゃべったところでネタバレもくそもありません。だって何回見ても笑えるんですから。もう、跳ね上がるミカンの1個1個にも笑えます。ハイクオリティーです。

 アニメをリアタイで見ていた私はもちろん、「アニメ名作シーン特集」などの番組でしか「巨人の星」を見たことがないムスメやムスコもバカウケしていました。

 キリンレモンは発売80周年を迎えるそうです。スゴイ。そんなにご長寿とは知りませんでした。1928年発売当初のお値段は、1本25銭!?
 
 今年の新商品は「家族」がターゲット。そのためCMには、家族の絆が描かれている「巨人の星」を採用したとのこと。

 でも、星さん一家の絆って、何だかギブスのバネでつながっていそうで、かなり痛そう・・・(笑)
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by vitaminminc | 2008-03-13 00:05 | Comments(2)

 10日くらい・・・ぃゃ一週間前だったか。寝る前に(仕事中じゃなくて、ちゃんと寝床で)、突然とてつもなく
デリシャスな語呂合わせナンバーを思いついて、携帯のロック番号を変更した。セキュリティ機能なんかに使用する4桁の番号だ。
 入れ間違いがないように、新しい番号を二度入力し、変更完了。それは我ながら最高に傑作な番号だったので、わざわざメモなど取っておく必要はなかった。

 昨日になって、操作手順の一環としてロック番号を入力する必要が生じた。
 アレ?何にしたんだっけ。落ち着け。忘れるはずがないではないか。最高傑作の番号に変えたのだから。変更だけしておいて、4桁の番号を入れる機会もないまま日を重ねていったのがいけなかった。そもそもロックを解除するのにいちいち番号を打つのがめんどっちーからと、最近ではロック機能は使っていなかったし、使う必要もなかった。ならばどうして番号を変更したのか? 最高傑作の語呂合わせを思いついたから。ならばどうして簡単に忘れられるのか? 半分寝ぼけていたせいか?

 とにかく入れまくった。コレのどこが傑作なのかというような番号まで思いつくままに次々と。
 4649暴走族か。
 5960あぁ、ご苦労なこった。
 0487脳味噌も押し花状態。
 0840グッモーニング♪
 0873桜の開花はまだかいね。
 0425尿意が頻繁。

 あぁぁ~~ダメだ駄目だ、思い出せない!

 担当者は、黒縁メガネで愛想の悪いねーちゃんだった。にこりともせずよくサービス業に携われるものだと感心した。
 黒縁オンナはリカちゃん人形のオムツ交換でもするか(するか!)のように、私の携帯のお尻のカバーを外してオムツのようなICカードを取り外し、PCとつないで秘部を探っていた。auショップのカウンターには私の免許証が載っていて、マヌケの象徴のような顔写真をさらしていた。

 ずっと無愛想な表情をしていた黒縁オンナの口元が、ほんの一時だけ緩んだ。私の携帯を手に持ち、液晶画面を見て、ピコピコ打ち込み始める一瞬前に。
 !!! もしや! 私のロック番号を見たのでは? 幻の最高傑作を!? 
 「何番になってました?」
 喉から「な」の字が飛び出そうになるくらい知りたかったが、グッと呑み込んだ。質問自体があまりにもウスノロすぎる。それに寝ぼけながら思いついた語呂合わせだ、もしかしたら最低に駄作な番号かもしれない。

 「はい。初期設定‘1234’に戻しておきましたから」
 黒縁オンナはバカを見る目をこちらに向けながら、抑揚のない声で言った。そして携帯を手渡しせず、カウンターの上に置くだけの返し方をした。バカは接触感染しないということと、キミらに支払われる給料がどこからやってくるかについて教えてあげたい気もしたが、意に反して「ありがとう」だけ言って店を出た。

 やい黒ブチ。キミのロック番号には2319を推奨する。 
 
by vitaminminc | 2008-03-11 23:57 | Comments(4)

忘Letter!

 会社に着いて、書類に日付を入れてイスから転げ落ちそうになった。
 シマッタ、ヤッチマッタ。今日はムスメの15回目の誕生日だというのに、「おめでとう」の一言どころか朝から小言をぶちまけてしまった。
 些細なことでムスメを叱った瞬間のムスメの表情・・・そうか、アレは単なる「ムッ」ではなかったのか。さみしさとやるせなさとなさけなさを押し込めた顔だったのか。
 家族の誰にも「おめでとう」を言ってもらえず、母からはブーブー野性のブタのように文句を言われ、外に出れば土砂降りで。きっとサイテーの誕生日の朝を迎えたことだろう。
 
 トイレに駆け込んで、急いでメールを送ろうと思ったが、ムスメの学校では朝自習が始まる前に携帯を集める。先生が保管している以上、今送ったところでムスメが見ることは不可能だ。結局メールで「おめでとう」も言えないまま仕事に取り掛かった。

 私はこの齢になっても、誕生日の朝には「おめでとう」と言ってもらいたい。自分が生まれた日を「おめでとう」の言葉で祝福してもらうと、なぜか素直に嬉しくなる。そんなだから、家族に何も言ってもらえない誕生日の朝の虚しさは人一倍わかっているはずだった。それなのに、嗚呼それなのに、とうとうやってしまった。愛するムスメの誕生日を忘れるなんて。母親失格だ。
 確かゆうべ風呂の湯につかりながら、午前0時にでもメールしてやるか、なんて思っていたのに、風呂から出て時計を見た途端(11:55)、メールするより「早く寝なきゃ!」と焦ったくらい。多分その時点できれいさっぱり忘れてしまったのだろう。薄情な母もいたものだ。

 叱りつけた瞬間の、ムスメの「キッ」とした表情が頭から離れなかった。後悔の海を航海しながら仕事をこなした。「ムスメを傷つけた」と嘆く私に、周りの人が口々になぐさめてくれた。
 「大丈夫よ、ケーキの一つも買って帰れば」
 「今日は誕生日だって自分からアピールしたりしないの? 出来たお子さんね~」

 本日ムスメは4時間授業。お昼を食べずに帰ってくる。ムスメが学校を出る前にどうしても「おめでとう」と伝えたくて、改めてトイレから「おめでとう」メールを出しておいた。
 仕事を終えて車を走らせながら、最近郵便受けに入っていたチラシを見て、ムスメが食べてみたいといっていたピザのことを思い出した。ピザ・ハットの「ベルサイユのピザ」である。王冠の形をした生地で、ソーセージと3種のチーズが楽しめるようになっている。ケーキは後でムスメを一緒に連れて行って、好きなものを選ばせてあげることにしよう。
 
 ピザやが早いかムスメが早いか。先に玄関チャイムを鳴らしたのはムスメだった。
 バースデーソングを歌いながらムスメを出迎えるおバカな母をちょっと睨みながら、
 「もう朝は泣きたくなった」と笑うムスメ。呪いの言葉を吐くムスメに、クラスメートが「ウチなんて小学校卒業して以来、毎年(誕生日を)忘れられているよ」と頼もしい慰め方をしてくれたそうだ。

 一緒にピザを食べて一緒にケーキを買いに行き、すっかりご機嫌になったムスメ。夜になって、出張中の父親から届いたというメールを嫌味っぽく私に見せた。ニヤッと笑いながら。
 「ほら、パパは私の誕生日ちゃんと覚えていたよ」
 ちゃんと覚えていたにしては、送信時刻が19:37などありえないだろう。
 「ママのがずっと早く思い出したョ。会社についてすぐ」
 「ほら」
 もう一通、ダンナがムスメに送ったメールも読まされた。
 『忙しくて出すのが今になっちゃったけど、パパは忘れていなかったよ』

 「何コレ。言い訳がましい。もしかして、ママが忘れてたってこと、パパに送った?」
 「うん」
 「やっぱり。忙しいっていっても、パパ夕方ブロック塀の工事の件で、何度もメール寄越してたよ」
 大人気なくも、真実を語る母。
 毎年子どもの誕生日を平気で忘れていたくせに。朝こっそりと誕生日であることを教え、「おめでとう」を言わせてあげたのはどこのどいつだ? ココのワタシだ。父親の株価上昇に貢献してきたワタシを踏み台に、何が『パパは忘れていなかったよ』だ。
 「嗚呼、14年間一度も忘れずにきたのに、15年目に忘れるなんて!」
 嘆き悲しむ母親にムスメが言った。
 「ママ・・・去年の朝も忘れていて、やっぱりメールで‘おめでとう’って送ったこと、覚えてないの?」

 忘れた。何かの陰謀だろうか。
by vitaminminc | 2008-03-11 00:19 | Comments(2)

日々の暮らしに「ん?」を発見