高校に入学して間もなく、ムスメが生徒会に入った。
 「大学の推薦をもらう時に、生徒会で活動していたってことが書けたら有利かなと思って」
 1年次だけでも在籍しておけば内申書に色がつくだろうと下心てんこ盛りである。逞しくなったものだ。
 思えば中学時代はバカがつくくらいお人好しなムスメであった。期末試験の点数が2点ばかり多くつけられていると知るや、わざわざ職員室のドアを叩いて間違いを指摘。先生はムスメの正直な態度を静かに褒め称えつつ、
 「もっと自分を大事にしなさい」
 と諭してくださった。ムスメの前途を憂慮しての心配りに違いない。
 点数間違いに関しては、実際の点より低くつけられた場合にのみ表沙汰にすべき問題である(と私は信じている)。なのにあろうことか、正しくついていた点数を、自分の計算違いで低くつけ直してもらおうとしていたらしい。ゲロゲロ。これではバカ正直を通り越して、ただのバカである。
 「でももし間違った点数がついていたら、そんなの実力じゃないわけだし・・・」
 甘い。甘いな。その1点2点が命取りになるのだよ。先生の採点ミスで実際より多くつけられていた場合は、ありがた~く頂戴しておくように。なんでこんな悪徳廻船問屋のマニュアルに書いていそうなことまで一から教え込まねばならんのか?
 当時は親として、どう教育すればムスメの真正直さをぶっつぶすことなく、かつ処世術を身につけさせることができるだろうかと、それなりに悩みもしたのである。

 「A先輩と付き合うかもしれない」
 「ぅえ?」

 ムスメの口から意外な言葉を聞いたのは、昨晩のこと。生徒会で一緒に活動している2年生の先輩だという。ムスメに好意を持ったのか、4月当初から個人的にメールをくれていたらしいことは聞いていた。が、まさか本格的に交際モードに突入するとは。ぅわぁ、セイシュン。

 いい人なのか? 断わったら悪いからという理由だけで付き合ったりしたら、お人好しが仇になる。後でもっと申し訳ないことになるのだゾ。
 ムスメはA先輩から頼まれて、携帯に保存してあった自分の写真を送ってもいた。
 「いったいどれを送ったの?」
 「あんまり写りのいいやつは送ってない。現実とのギャップが大きいって思われたらイヤだから」
 「え! でもコレを送ったの? コレだったら実物の方がよっぽどカワイイのに・・・」
 ムスメがA先輩のために選んだ写真は、妙に眉毛にチカラの入った妙な顔の一枚だった。嫌われるために選んだとしか思えない一枚である。それでもA先輩のムスメに対する気持ちに変わりはないということらしい。

 そうかそうか。本当にいい人なのだな? ならば自由にするがよい。ただし、ママもムスメのカレの顔くらいは知っておきたい。
 そうせがむと、「親に見せる」ということはもちろん伏せて、早速メールでA先輩に顔写真を要求してくれた。
 「別に特別カッコイイとかいうんじゃないからね」とムスメが前置きして言う。
 「わかってるって。今までムスメが好きになった子たちからしてそうでしょう」
 しかしその晩、特別カッコイイとかいうんじゃないA先輩の顔写真を拝むことはできなかった。
 「何枚も撮り直しているうちにめげたのかな?」
 私が意地悪を言うと、ムスメはあっけらかんと笑った。
 「あはは、違うよ、きっともう寝ちゃったんだよ」

 ムスメの予想通り、翌朝ムスメのメールに気づいたA先輩から画像付きでメールが届いた。ムスメが「なんでよりによってコレ?」と笑いながら見せてくれたA先輩の写真とは・・・。

 札勘する銀行マンのように、扇状に並べた札束を手にしている。確かこんなふうに羽根を広げて求愛する鳥がいたっけか。

 「生徒会室で撮ったんだと思う。A先輩、会計やっているから──」

 少年、あたしゃ気に入ったョ。諭吉の扇子を持って、ニッコリほくそ笑むそのセンス。ムスメをよろしく。
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by vitaminminc | 2008-04-28 18:54 | Comments(2)

無駄口 一葉

 土曜の昼下がり。仕事から戻った私は、上半分視界が狭まった状態でぼんやりとテレビを見ていた。日本語クイズの番組で、助数詞に関する問題が出ていた。

 ハガキの数え方は、何も書いていないものは一、二枚と数え、文字などを書いたものは一、二通と数える。配達という二次的要素が加わる場合も同様。だが、ハガキにはこれら以外にも数え方があるという。さて、それは何でしょう?

 「葉書」と書くくらいだ。一、二葉だろうと予想した。
 当たってはいたものの、読みを間違えていた。単位の「葉」は‘ハ’ではなく‘ヨウ’だった。
 そしてこの「葉」は、特に思い入れのある内容が書かれている場合に使うのだそうだ。
五千円札の肖像画が頭に浮かぶ──樋口さん・・・貴女ってお人は・・・そうだったのですね──感動した。
 美しい葉を愛でて鑑賞するように、思いが込められたハガキは一、二葉。思い入れの深い写真や絵も一葉、二葉と数えるらしい。ひゃ~! 初めて知ったヨウ!

 興味がわいた私はネットで「みんなの知識・ちょっと便利帳」というページを見つけた。その中の作品に出てくるものの数え方〔助数詞〕のコーナーがお勧めである。ここでは、「葉」など助数詞が使われている小説の一節を紹介している。ほほ~、こんなふうに使うのか。聞きなれない助数詞であっても、その使い方を学ぶことができるのだ。

 <例>太宰治 「猿面冠者」より
 ──そこへ、ほんとうに風とともに一葉
   手紙が彼の手許へひらひらと飛んで来た。

 世の中は変わった。入魂メールも一葉、二葉と数えてもらえるのだろうか。ちなみにこのような「ブログ」の数え方は、『メインの部分+下位ブログの全部=1ウェブログ』というらしい。なんかピンと来ない。今回は葉っぱ数枚分は思いを入れている。いや、もうちょっと葉が茂った感じ。1茂みとでもカウントしておくか。
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by vitaminminc | 2008-04-26 18:53 | Comments(2)

みんな元気

 新しいおうちで、みんな元気にやっています。

b0080718_8274798.jpg 浜木綿の、「浜 ゆうじろう氏」。私のお部屋在住。
なんと鉢植え‘人’生40年。冗談抜きで、ご神木に近い神々しさがある。亡父の形見の一つゆえ、引越しの際は業者に頼まず私の運転する車の助手席に、しっかりシートベルトをしていただき搬送した。

b0080718_8284396.jpg ♂猫の眠眠(みんみん)。私のお部屋在住。
午後の西日による室温上昇を抑えるため、極力下げてあるシャッターの隙間からお空を飛ぶスズメを眺めて心臓をドキドキいわせるのが好き。「喰う寝る遊ぶ」のイメージそのもの。

b0080718_829538.jpg ♀猫の茶尾(チャオ)。私のお部屋在住。
爪を立てずに人の顔の上をマッサージしながら歩くのが得意。
1袋6700円する獣医処方の血尿対策pHコントロールフードより、1袋600円の眠眠のキャットフードをかすめ取ることに全神経を集中。こちらも全神経を集中させて食べさせないよう苦労している。

b0080718_8304498.jpg 金魚の銀ちゃん。2階のホール在住。
およそ10歳。近所のおっちゃんが、自分ちの池で孵った金魚の稚魚を20匹ほど持ってきたうちの唯一の生き残り。
なぜか色素が抜けてアルビノ化。今ではプラチナブロンドのウロコが美しい銀魚となった。私を発見するたび(餌を求めて)過換気症候群に陥る。

b0080718_83198.jpg 海老根のエビちゃん。推定30歳。ベランダ在住。
高校時代、級友の知人が所有する群馬県の山で椎茸狩りをさせていただいた時に椎茸と一緒にお土産にもらった。まあその株の末裔になるが、これも殆ど亡父が育てていたので、形見の一つ。大切にしている。
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by vitaminminc | 2008-04-25 09:00 | Comments(4)

マルワ三兄弟

 今年もアノ季節がやってきた。思えばコレについて初めて語ったのが2006年4月、そして再び語ってしまったのが2007年4月。それでも懲りずにどうにも厭きずに、今度(こたび)で三度目である。

b0080718_16562549.jpg そう、もはや親戚づきあいをしているに等しい、愛しい丸和太郎くんについてカタルシス。
 これまで私は太郎くんに関して、実のところあまり友好的ではなかったかもしれない。駄菓子だのダメ尻だの堕天使だのと言いたい放題だった。

 だが、今回は違う。2008年4月版の今回、私は太郎くんの家柄について考えてみた。そもそも、なぜ丸和 太郎という名前なのだろうか。記入見本ならば「山田 太郎」とか「さな田 虫太郎」でいいではないか。なぜで、なぜなのか? 少々不思議に思えたのである。そしてハタと気がついた。
 そうか「丸和」というのは、丸和家の肛門ぃゃ家紋にちなんで付けられたに違いないのである。


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←丸和家の家紋(※)

 丸があって輪がある。羞恥心が和むように「丸和」という姓が生まれたのであろう。それでは、「太郎」という名前からは何がうかがえるだろうか。
 坂東太郎(ばんどうたろう)、筑紫次郎(ちくしじろう)、四国三郎(しこくさぶろう)といえば日本の三大河川。丸和家も大河に負けじと太郎の次にははろう(貼ろう)が、「はろう」の次にはとろう(採ろう)が控えているに違いないのである。
ぎょう虫卵検査三兄弟ココに(ドコにだ)現る、である。

 いや~、太郎くん。私は理解した。キミがいかに由緒正しい家柄の出で、キミの後には「はろう」と「とろう」が間髪入れずに職人技を見せるってことを。

 ※写真は「はろう」と「とろう」が活躍する前に撮影されたものです。指紋のほかは、肛門ぃゃ肛紋など一切不純物は写り込んでおりませんので安心してご覧いただけます。
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by vitaminminc | 2008-04-22 17:35 | Comments(2)

裁き

 15年前の93年5月9日夜11時頃。広島市内でスーパー「フレスタ西山本店」の店長・中岡雅文さん(当時38)が殴殺され、売上金など約600万円が奪われた。この強盗殺人事件の時効が来月9日に迫っているということを本日テレビで知った。

 当時6才、4才、2才だった3人の娘は、現在21才と19才と17才。ご両親は、子煩悩だった働き盛りの息子が、3姉妹の成長を見ることも出来ずに殺されこの世を去らねばならなかったことが、かわいそうだと辛い胸の内を語っておられた。

 凶悪殺人には時効を適用していない国もある。なぜわが国には殺人という罪にまで時効を設けているのだろう? それも15年という短さで。
 時の経過は人々の記憶も現場の証拠も風化させ、捜査が困難になるという理屈はわかる。それでも、法によってわざわざ犯人を解放してやる必要が、どこにあるというのだろう? 
 時効がなければ、逮捕にいたらなくても、「捕まるかもしれない」という恐怖感は与え続けることができる。その足枷を外すことは、犯人の罪を正当化するようなものだ。私にはまったく理解できない。

 年号が平成になってから20年。この20年、私にとっては矢が飛ぶように過ぎた。
 犯人にとって、この15年は、短かったのか長かったのか。そして遺族にとって、この15年は、短かったのか長かったのか。

 何の罪もない人を殴り殺し600万円を強奪した犯人。9日までに捕まることなく、のうのうと生きたとしても、絶対あの世では、正当な裁きが待っている。
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by vitaminminc | 2008-04-18 23:33 | Comments(4)

珍人研修

 早いもので、「新人類」という言葉が1986年に流行語大賞を獲得してからもう20年以上になる。この言葉、尽くして艶・・・あ~ら失礼、でもチョット捨てがたい変換・・・筑紫哲也が当時編集長をしていた雑誌「朝日ジャーナル」で、若者たちと対談した際に使ったのがきっかけで世に広まったという。ご存じの通り、これまでとは違う価値観をもった若い世代を指していう言葉だ。

 「新人類」という言葉が流行った頃、入社5年目を迎えた私の友人は、転勤・異動にも歯を喰いしばって応じ、新入社員研修などで新人等の指導に携わっていた。
 彼女は当時人気企業ベスト10には必ずランクインするといわれた某大手損保会社の社員。5年の間に年収は私の軽く2倍は超え、ついにはオンナだてらにまだ20代という若さでマンション購入に踏み切った。
 「会社の住宅ローンに申し込んだら、『不動産を買う女=結婚を諦めた女』という目で見られた」
 お局の風格を漂わせてニヒルに笑う友人を、私は頼もしく感じていた。
 そんな友人が、新人研修を終えて間もないある日、買ったばかりのマンションに私を呼んでくれた。
 「今年の新人、まさに‘新人類’って感じの新人だったよ」
 研修には彼女と彼女の上司があたっていたのだが、研修期間中にたった一日だけ、どうしてもコレだけはこの日のうちに教えておくべきということがあって、1時間の残業となる旨を伝えたところ、そこの支店に3人(女子社員2名+男子社員1名)来ていたうちの1人(男子社員)が、
「どっひゃ~!」
 と叫んだのだそうだ
 「どっ・・・ひゃ~?」
 あまり冗談がお好きでない上司が小声でつぶき復唱するのを聞きながら、友人の目をさらにテンにしたのは、一緒にその場にいた新人女子2人の態度。自分たちの同期=一流大学出の男が、マンガの台詞のようなリアクションをやってのけても、何事もなかったかのように無表情のまま次の指示を待っていたらしい。
 「あんまり非常識だとかえって笑えないのはわかるけど、せめて眉をしかめるとかさぁ・・・」
 その後しばらくのあいだ、私と友人の間では「どっひゃ~!」が小さな流行語になった。

 さて、今週月曜日。私の勤務先にも他部署から8人ほど新入社員が研修にやってきて、朝礼で挨拶をした。
 どこにでもいるものである。毛色の変わった珍人類が。7人が非常にオーソドックスで無難な挨拶を述べたあとで、トリを務めた男子社員の挨拶とは──。
 「あのー、やさしくしてもらうと好きになってしまうほうですので、どうかみなさん、やさしくご指導願います❤」


 オイ。状況をよく見極めてものを言ったらどーなんだ。おばさんばかりの部署だぞ、オイ。

 フロアには熟女の忍び笑いが、洞窟でこだまする海鳴りのように、いつまでもいつまでも尾を引いたのであった。
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by vitaminminc | 2008-04-16 19:41 | Comments(2)

号泣ムスメ⇔爆笑ママ

 「号泣」の反対語が「爆笑」かどうか怪しいものだが、先月下旬、私ら母娘はコレを実践した。
 普段は私の百倍以上モノの管理がしっかりしているムスメが、引越しが間近に迫った日曜の昼下がり、突然遠吠えを始めた。

 「ぅお~ん困った~、ない~、どこにもない~」から始まって、
 「ぅお~んやっっぱりココにもない~、ダメだ~ない~」と続き、
 「ぅお~んもうおしまいだ~、アレがこのまま出てこなかったらどうすりゃいいんだ~」da capo(はじめに戻る)

 実にうるさい。あんまりうるさいので、一体何をなくしたのか聞いた。
 「入学式の日に担任に提出する書類一式」
 「高校の?」
 「そう、高校の」
 「ママが書いてやったあの‘自宅から学校までの’力作の地図も?」
 「そう、全部。全部どこかにいっちゃって出てこない」
 「もう箱に詰めたんじゃないの?」
 「まだなんだけど。念のため中を確認したけど入ってない」
 「あっちにある、もう(ガムテープで)閉じてある分も見た?」
 「あっちには絶対入れてないはずなんだけど」
 「でも一応見てみなよ。でないと安心できないでしょ」
 
 ビリビリビリ・・・・ゴソゴソ・・・ガサガサ・・・
 「ぅお~んないよ~」
 ビリビリビリ・・・・ガサガサ・・・ゴソゴソ・・・
 「ぅお~んない~」
 ビリビリ・・・ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・
 「ぅお~んないない、ないったらない~」

 「あー、うるさいな。最悪本当に見つからなかった時のために、明日先生に事情を説明して書類を一式もらってくるとか」
 「ぅお~んそんなカッコ悪いことできないよ~」
 「提出日に提出できない方がカッコ悪い。箱は全部開けてみた?」
 「ぅお~ん開けたけど、入ってなかった~、もう少し探してみる~」

 私は私で荷造りに没頭。どうも隣の部屋の様子がおかしい。ムスメの‘ぅお~ん’の遠吠えがおさまって静かになったと思ったら、へらへらと奇異な笑い声が聞こえてきたのだ。気でもふれたかと心配になって隣の部屋に行くと、ムスメの両目から熱血アニメのように滝が流れていた。我ながら不謹慎だとチラッと思ったが、チラッの‘ラ’あたりでもう爆笑していた。
 「ひどい~、人がこんなに苦しんでいるのに~」とムスメが号泣しながらなじる。号泣しているのだが、号泣しながらしゃべるので、やはり口元がヘラヘラ笑っているように見える。私ももらい泣きした。ただし、笑いすぎて涙が出ただけである。
 「あ゛~、新学期早々問題児だ~」
 ムスメが滝の涙を流しながら嘆いている。
 『まだかろうじて中学生をやっている今のうちに、中学の担任の先生に、高校提出用の書類をもらい直しなさい』←これだけ言うのにだいぶ時間がかかった。笑いながら話したせいだ。挙句の果ては、ムスメが口を開くたびに腹筋がよじれそうになるので、耳をふさぐ薄情な私。

 ムスメの書類は出てきた。ムスコの塾の袋に入れておいたのを、母娘二人して忘れていたのだ。
 「あ~、よかった」と今度はニコニコ笑いながらムスメが言った。「もう死ぬかと思った」
 「あれだけ号泣したら、さぞかしスッキリできたでしょーよ」
 
 私の方はスッキリとはいかず尾を引いた。何度も思い出してはバカ笑いするので、しまいにはムスメに叱られた。
「ママうるさい!」
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by vitaminminc | 2008-04-13 00:26 | Comments(0)

なんのこれしき入学式辞

 いや~。風邪と花粉症でテンション↓↓で、PCに立ち向かえずベッドに直行する日々。久しぶりにPCとご対面したら、自分のパスワードを忘れかけていて、思わずこめかみに冷たいものがツーー。

 風邪をひいた。大した症状ではない。けれど、花粉症とダブルで襲われるとクスリの方もダブルで応戦せねばならず、早い話がひたすらおネムだった。
 風邪は8日の日曜日にもらった。あの暴風雨の日に。
 その日はムスメの高校入学式。会場は2000人規模のでかい体育館。本来なら春の息吹=思春期フェロモンが立ち込め、むせかえったであろう空間が、春の嵐のせいで4月とは思えないほど冷えていた。

 しかし! その温度をさらに下げたのが、ほかでもない、校長先生の式辞だった。いや、お話の内容はとても良かった。室温を下げたのは、冒頭の時候の挨拶のみ。校長先生は、開口一番、こんなことをおっしゃった。

 頬を伝わる風も爽やかに、満開の桜の花が咲き誇る、春爛漫の本日──

 凄い。これほどまでに実況とかけ離れた挨拶はそうザラに聞けるものではない。外では北風が唸り声を上げ、激しい豪雨が窓ガラスに打ち付けているのである。
 しかも式が始まる前、横殴りの風を受けながら我々が目にしたものは、前夜からの暴風雨で一枚残らず花を落とした桜の木。見事に禿げ上がっていた。

b0080718_049279.jpg

 凄い。きっと校長先生の心臓には紅白の芝桜が生えていて、

b0080718_050425.jpg頬の産毛は暴風雨を爽やかに受け止めるテトラポットで出来ているに違いない。

 悪天候は前日には承知していたはず。アドリブが利かない体質というよりは、生徒の気分を盛り上げようと、春たけなわの挨拶を押し通したと見るべきか。
 その度胸、その潔さに感動するあまり、鳥肌が立って風邪をひいた。

 なんのこれしき入学式辞。

 
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by vitaminminc | 2008-04-12 00:59 | Comments(2)

若夫婦に学ぶ

 あれは2月の厳冬期。
 仮住まい先のアパートからほど近い某イタリアン系ファミレスに行ったときのこと。
 
 我々のテーブルの後ろの席では、2才くらいの女の子を連れた若夫婦が、メニューを見ながら仲良く相談していた。
 やがてウエイターがオーダーを取りに来ると、若いツマは何の曇りも感じさせない明るい声で言った。
 「えっとー、以前お願いした店ではやってもらえたんですけどォ、この××スパゲッティのパスタをペンネに換えてもらえます?」
 「はぁ、具とソースはこのままで、パスタだけをペンネに換えるということですか?」
 「ええ。この子ペンネじゃないとうまく食べられないもんで。前の店ではやっていただけたんですけど」
 「かしこまりました。ただいま確認してまいります」

 まもなく先程のウエイターが戻ってきた。
 「お待たせしました。ペンネでお作りするとのことですので」
 「ほんと? ありがと~! ペンネにしてもらえるなら、具なんてハムなしでもいいくらいですから♪」

 「言ってみるもんだな」と若いオットが言うのが聞こえた。
 「なんだぁ、やれば出来るんじゃん!」
 若いツマはなぜか不服そうだった。
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 きちんと希望通りに対応してくれた店に対し、若いツマはなぜ不服そうだったのであろうか?
 その謎は店を出たあとで、うちのムスメが解き明かしてくれた。
 「すごいね、あの人たち」
 「何が?」
 「だって‘前の店では断わられたけど、ダメモトで言ってみよう’とか話してたんだよ」
 「ホント!? じゃあ‘前の店ではやってくれた’っていうのは作り話?」
 「そうだよ」
 なるほど。ツマの不満は前に断わった店に対して向けられたものだったのか。
 「やるね」私は若夫婦に感心した。「ムスメ。アナタもあの夫婦を見習って、賢く世渡りするように」
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by vitaminminc | 2008-04-06 22:35 | Comments(2)

 3月28日に新居に引っ越して以来、なくしたら困る「家の鍵と車の鍵」を迷子札のようにジャラジャラと首から提げ、日々ダンボール箱と格闘してきた。
 もともと整理がド下手なので、疲れてくると殊更非建設的な作業しか出来なくなる。たまたまダンナが休みで家にいる時、そうした状況に陥った現場をバッチリ目撃された。
 「ただ右のモノを左にやって左のモノを右に移すだけじゃ、いつまでたっても片付かないだろーが」
 まったくその通りである。でかいダンボール箱の中身を小さいダンボール箱2つに詰め替えていた私はその件については反論しなかったが、一応事実関係だけは伝えておいた。
 「こっちは朝(=ダンナが目覚めるはるか前)からごはんの支度をしたり、洗濯しながらですんで(片付けに専念できねーっつの)」
 その後ダンナは片っ端からダンボール箱の中身を出していった。
 「ほら、納戸の押入用収納ケース、空にしてやったから、そこにママの
ガラクタ入れるように」


 一方、首からパンダの財布を提げたムスコ。本日デパートの駄菓子売場で、小銭と格闘していた。
 駄菓子やさんのレジのお姉さんは、そんなムスコの様子をこぼれんばかりの笑顔で見守っていた。ムスコが頬を紅く染めながら、見るからに取り出しにくそうなデザインのパンダ財布から小銭をつまみ出し、
 「あれ? まだ足りない」
 などとつぶやき再び指を突っ込むと、お姉さんはもう我慢ができませんとばかりに口を開いた。
 「うふふ♪え~と、あと・・・」
 「13円」
 「ふふ♪そうね、あと13円かな♪」
 そして本当に‘かわいくてたまらない’という笑顔でじっとムスコを見つめるのだった。いや、親バカでなく本当に。

 実はこのパンダ財布、必殺母性本能アイテムなのである。コレを首から提げられると、私なんかつい小銭をあげたくなってしまう。扱いにくい財布の奥まで手を突っ込んで、必死で小銭をつかもうと下を向いて格闘するムスコの姿を見たくてたまらなくなるのだ。
 支払いを済ませた後もレジのお姉さんは、ムスコとパンダ財布の両方に、母性本能メロメロといった熱い視線を投げかけ見送ってくれた。
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by vitaminminc | 2008-04-06 00:26 | Comments(0)

日々の暮らしに「ん?」を発見