雷雲が白い雲にしばし場所を譲って、夏の光が降り注いでいる。
 チャンスとばかり、蝉が一斉に鳴き始めた。

 2メートル以上の長身を誇る庭のひまわりは、葉の色がすっかり茶色くなった。頭をたれたその姿は、セサミストリートに出てくるビッグバードの老後を連想させる。
 昨夜の激しい雷雨に負けないで、赤いケイトウの花と深紫の朝顔が、元気に咲いている。

 茶尾の呼吸は、刻々と荒く速くなっている。
 夜中や夜明けに、私はちょっとした物音で目が覚めるようになった。授乳期の母性がそうさせたように、猫が立てる物音に身体が反応するのだ。
 茶尾の居場所を確認し、薄闇の中でそっと触れる。鼻先にかすかな空気の流れを感じ、おなかが速く脈打っているのを感じると、ほっとしながら泣きたくなる。

 潮が引いた夢を見ていた。
 茶尾の砂浜では、いつのまにか潮が引いていて、広々とした砂浜が広がっていた。そこで楽しそうに遊んでいたものは、茶尾の肺だったのかもしれない。

 夢から覚めたら、床で茶尾が横たわっていた。自分の身体を海水でいっぱいにしたまま、くるしそうに横たわっていた。
 寝ていた位置が1メートルほど移動していた。頑張って、またトイレでおしっこをしたんだね。
 ほめてあげたかったけど、声を出すことができなかった。泣き声になりそうで嫌だったのだ。

 癌末期の父の姿を思い出す。高カロリー点滴液を補充しながら、看護師さんが悲しげに言った。
 「こうしても、全部癌に栄養持ってかれちゃうのが、悔しいよね──」

 安楽死について、10歳のムスコが悲しそうに言った。
 「だってそれじゃ、保健所に入れちゃうのとおんなじだよ──」

 この先の茶尾の姿が想像できる私は、ムスコに相槌を打ちながら、頭の中では首を横に振っていた。
 違うんだよ、そう思うのは、‘今’だからなんだよ。
 茶尾がふっくら見えるのは、胸のまわりがむくんでいるからだと私にはわかっている。ヨロヨロと起き上がったときの、下肢の痩せ方が尋常ではないことも。上半分と下半分が別の生きもののようだ。

 何かで読んだことがある。誰の母親の話だったろうか。自分がもう助かることのない癌であると知った母親は、それ以降入院も通院も拒否し、自宅で水以外は一切口にしないという強硬手段に出て、自ら尊厳死を選んだという。潔い死に様だが、家族はたまったものではなかったろう。

 だからどうこうしたいというのではない。最期にまつわるいろんな記憶、いろんなシーンが頭の中に去来するのだ。
 犬の死、猫の死、父親の死。「死」という現実を目の前にして、結局何もしてやれなかったと悔いる自分。

 茶尾がもし、あの寒い冬の晩、私たちの家に招かれることなく野良のままで死を迎えていたら、どこが違っていただろうと想像してみる。
 暑かったら日陰に横たわり、雨水を舐めてその時を待ったのだろうか。外の環境では命をつないでおける時間が短かったかもしれない。だけどそれは苦しみから早く解放されることでもあったはずだ。
 あばらの浮き出た父の胸を、苦しそうな犬の最期の鳴き声を思い出してみても、後悔以外何も答が見つからない。
 茶尾、乳清やイオン水を飲まされて、かえって苦しい思いをしていない? ママのやってることが間違っていたり辛いのだったら、どうかテレパシーで教えて。ママはうんと鈍いから、茶尾の心の声が聞こえないんだよ。

 私はシャッターを切る。瞼に焼き付けるように、強く瞬きながらシャッターを切る。
b0080718_129539.jpg昨夜の茶尾
b0080718_1211365.jpg丸かった模様(茶)が
❤型になっていた
b0080718_12125517.jpg今日の茶尾
b0080718_12133386.jpgそばで添い寝する、
やさしい兄貴分の眠眠
ママが茶尾を衝動‘飼い’
したせいで家猫眠眠まで
保菌者にしてしまったに
違いない。
大ショックだが後悔しない


b0080718_1214554.jpgだって
仲良しだものね


 あれ、見てよ。上空で夏が手を振っている。そうか──。
 週明けからは、もう秋なんだよね。


 

 


 
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by vitaminminc | 2008-08-30 12:24 | Comments(6)

恵みの水

 ちび猫「茶尾」の栄養が心配。
 何しろ猫の大好物であるはずのマグロの刺身も鰹節でさえも食べてくれず──食べられないというのが現実なのだけど──頼みの綱の液体ミルクはとことん苦手らしく、ものすごく抵抗する。
 これでは体力を消耗するだけでなく呼吸困難を引き起こす危険がある。1、2回トライしてダメだったらいったん退散することにしていた。

 赤ちゃん用のイオン水は、ミルクほどは嫌がらない。だから今のところスポイトの1/3くらいは確実に飲ませることができてはいる。が、イオン水といっても所詮水だ。水だけで命が支えられるわけがない。

 今朝も、それこそスズメの涙ほどのイオン水を舐めただけ。
 病に臥せっている痩せた背中からは気品すら漂う。まるで癌細胞を兵糧攻めにする覚悟でいるみたいだ。

 仕事に出ていても、頭蓋骨の内側には茶尾の姿がカサブタのように貼り付いている。病より先に餓死させてたまるか。

 家に戻ってミルクを与えようとしたが、案の定拒まれた。匂いでわかってしまうのだろう。
 抵抗した後は、全速力で走った直後の人の胸のように、おなかが激しく上下する。こんなに呼吸を乱すようではまずい。今後ミルクには頼らないことにしよう。

 イオン水のみ与えた後、「抵抗するってことはまだ元気な証拠」なんだと自分に言い聞かせ、どんままさんが教えてくれた「ぎゃおす王国」をのぞいてみた。
 胸を打たれた。愛猫の命を護るため、献身的看護にあたる姿を知り、気を取り直すことが出来た。
 どんままさん、ありがとう。気分転換ができたおかげで一つひらめいた。
 乳清である。
 幸い冷蔵庫の中に買って間もないプレーンヨーグルトがある。その上澄み液を与えてみることを思いついたのだ。

 ダメもとでスポイトに取り、横たわっていた茶尾の口の横から差し込む。まったく抵抗しないというわけではなかったが、2回注入することを許してくれたのだから、これは上出来といえる。花丸印飲料だ。

 恵みの水となった「乳清」とは、牛乳から乳タンパクの主成分であるカゼインを除いたもの。水溶性タンパク質や乳糖、水溶性ビタミン、ミネラル分をたっぷり含み、英語では「ホエイ」と呼ばれている。
 乳清中にはβラクトグロブリン、αラクトアルブミン、免疫グロブリン、血清アルブミン、ラクトフェリンといったタンパク質が含まれ、これらはエネルギーや体を構成する成分として使われる──というのだから非常に心強い。

 飲んだ量は、小さなスポイトにおよそ半分強。いったいどれだけの分量を与えることが出来たのだろう?
 計量カップ(子どもが幼児期に飲んでいた市販風邪薬=アンパンマン風邪シロップについていたキャップサイズの計量カップ)に入れて計ってみた。ショック・・・わずか3~4cc。スズメとはいわないまでも、これでは鳩の涙である。
 あまり嫌われてしまわない程度に、そしてあまり疲れさせないように、何回にでも分けて与えるしかない。
b0080718_1611339.jpg


健康器具の脚=冷たい鉄の
バーに頚動脈を当てている。
発熱時には、
必ずココに首を預ける。
アイス枕を用意しても、
湿った感触を嫌ってか
もっぱらココにすがる。
私が3日坊主で放棄した
「エアー・ウォーカー」。
まさかこんな場面で
活躍してくれるとは・・・。
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by vitaminminc | 2008-08-29 15:30 | Comments(5)

がんばります!

 FeLVに感染している二、三歳期の若い猫がかかりやすいのが、「胸腺型リンパ腫」だ。これは、心臓の前方部(前縦隔)にあるリンパ系器官「胸腺」のリンパ球が「がん化」して大きな固まり(リンパ肉腫とも呼ばれる)となり、また、周辺に水がたまって(胸水)肺を圧迫し、呼吸困難となる。

 インターネットから引用した上記の文面が、ちび猫を診てもらった獣医の説明に最も近いものです。
 血液検査の結果、猫エイズは陰性でしたが、FeLVは陽性反応がはっきり出ており、私自身この目で確認させられました。陽性を示す青いドットが2個、模範解答のようにしかるべき位置にはっきりと現れていました。

 以前一緒に暮らしていた猫と犬も、今一緒に暮らしている猫たちもお世話になっている獣医は、信頼できると考えています。
 そのうちにいろいろなエピソードを交えてお話させていただく機会があるかもしれません。人に厳しく、動物にやさしい人です。

 そんなわけで、なるべく安静に、残る命の灯をありったけの愛情で見守っていこうと思います。
 
 みなさまから思いがけず温かいお言葉を頂戴し、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。どうもありがとうございます。弱虫の私にとって何よりの励みになります。

 昨日は夕方から部屋の窓を開放したところ、どこから力がわいたのでしょうか、自分で窓辺に飛び乗りました。
 虫の音に耳を傾け、ほんの一時呼吸が穏やかになったので、目やにを拭いてあげました。尿路障害が出ると涙腺にも血が混ざり、赤黒い目やにが出ます。乾き切ったその血の破片がティッシュペーパーからこぼれ落ちると、ちび猫はそれを舐め取って食べました。貧血を補おうとする本能かもしれません。
 何も食べられなかった子が、‘自分の破片’を口に入れました。それを見た私は、大急ぎで鰹節を取りに階段を駆け下りました。
 結果、3ミリ四方の細かい鰹節をわずか7、8片ほど食べるのがやっとでしたが、「生きる」姿がそこにはあって、今度は感動で泣けました。

 四六時中ずっとついていてあげたいのですが、悲しいかな、働かないわけにもいかず、頭の中にちびをいっぱい詰め込んで仕事に出ています。
 本日は会社帰りに、「貧血にはレバーだ!」とひらめきました。早速買って帰り、細かく調理して与えてみました。残念ながらダメでした。細かく切ったマグロの刺身も食べられなかったくらいです。ひと舐めもしてもらえませんでした。もっといろいろ試さなければ。
 何とかしてエネルギーを補給せねばと、とうとう鼻の頭にバターを薄く塗って舐めさせました。でもそうとう不快らしいのが見て取れましたので、この手は二度と使えそうにありません。
 今のところスポイトで口に入れる「赤ちゃん用イオン水」だけは、かろうじて口から出さずに舐めてくれます。

 今日も雨脚が強くなって窓を閉めるまで、朝からずっと窓辺にいたようです。外の光、外の音、外の匂いを感じながら、私の帰りを待ってくれていたのかな。
 お兄ちゃん猫も、のほほんとした空気を放ちながら、ちびのそばに寄り添ってくれていたのかな。

 個別にお返事できないご無礼をどうかお許しください。
 ちびと一緒にがんばります!
b0080718_1627755.jpg
私のちび猫「茶尾」です。
懸命に生きる勇姿です。
ふっくらして写っていますが、実際は骨が浮き出て
います。
河童の枕はムスコからの
プレゼントです。
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by vitaminminc | 2008-08-28 16:39 | Comments(1)

わからない

 まだわずか3才だ。
 「死」なんて言葉とは無縁だと思っていた。

 そんな心の隙を衝かれたのかもしれない。
 獣医師がレントゲン写真を見せながら言った。
 「非常に厳しい状態です」
 私は口元に薄っすらと笑いを浮かべたかもしれない。確かに食欲は落ちていたけど、昨日まで普通に──。
 「全体に白っぽく見えるのは、全部水です」
 私の口元から笑みが消えた。
 「肺はここ。本当なら──こちらが正常な肺になりますが──このように黒っぽく見えなきゃいけないのに、この子の場合、胸水で肺が押しつぶされています」
 私の口元は、震えていたかもしれない。まだ3才なのに。まだ3才です。生まれてからまだたった3年しか経っていません。

 食欲が落ちたなと思った翌日は朝からだるそうにしていて、その日の晩にはもう呼吸が速くなっていた。次の日急遽会社を休んで獣医に連れて行ったが、その時点では夏バテか何かで、注射の1本でも打ってもらえれば直に元気を取り戻すだろう、程度に考えていた。

 獣医の説明はこうだった。
 胸水を取り除くには、人間のようにおとなしくしていられない猫のこと、全身麻酔をかけなければならない。体力的にも、胸水を抜く前に麻酔で死んでしまう可能性が高い。
 また、仮に麻酔をクリアして胸水を抜いて一時的に呼吸が楽になったとしても、病気が治るわけではないから、またすぐに水が溜まってしまう。麻酔という危険をおかし、痛い思いをさせて胸水を抜くのはリスクが高すぎて勧められない。

 話を聞いているうちに、繭の中に閉じ込められたようになった。話は聞き取れないし、呼吸も苦しい。レントゲンの写真もよく見えない。
 押しつぶされた肺が自分のもののように感じられた。まだ3才だと安心していた心の隙を衝いて、ザーッと高波が押し寄せてきたのだ。
 
 「どうすれば・・・どうしてあげればいいですか」
 やっとのことで発音した声は、自分の声ではなくなっていた。

 「安楽死」・・・「呼吸ができなくなって死なせるよりは」・・・「この子の苦痛を取り除いて」という言葉が断片的に耳に入ってきた。
 
 「子どもたちが家で待っていますから」と私は言った。「お別れもさせてあげたいですし」
 そう自分が放った言葉でようやくすべてを理解したのだろう、堰を切ったように涙がこぼれた。

 先生は家族のみんなとよく相談して、何かわからないことがあったらいつでも電話をするようにと私に伝えた。

 その晩は、ちび猫にマグロの刺身を買ってきた。けれどちび猫は刺身には見向きもせず、力のない足取りで廊下に出ると、兄貴分の猫用に用意してあったごく普通のキャット・フードを3粒だけ口に入れた。
 胸水で胃も圧迫されているのだろう、食べたものが下がっていかないらしく、それ以上食べることができなかった。
 ちび猫はうちで飼い始めてすぐに血尿が出て、尿路障害を持っていることが判明。以来、獣医で出されるPHコントロール・フードしか口にすることができなかった。いつも兄貴が食べるごく普通のキャット・フードを食べたがった。目を離したすきにつまみ喰いをしては私たちに追い払われた。少しでも普通食を食べるとすぐに血尿が出てしまうからだった。

 食事でコントロールしさえすれば、ちび猫は臆病なくせにやんちゃで元気に暮らしていた。甘えん坊で、そばに人がいるだけでごろごろとうるさいくらい機嫌よく喉を鳴らした。

 何度もカレンダーで確認した。本当に、病院に連れて行く前々日まではまったく普段と変わらず行動していた。食欲の減退もたびたびあることだったし、元々食の細い子だったのでさほど気にせずにいた。その子がマグロの刺身よりもお兄ちゃんの餌を3粒だけ食べたのを見て、私は泣き崩れてしまった。
 自分が呼吸をするだけでもしんどいのに、ちび猫は発病してから一気にオトナになった。だらしなく泣いてばかりいる私や子どもたちの手を舐めて、無言で慰めてくれる。もうごろごろ喉を鳴らす音は聞こえない。

 呼吸が速くなった晩を境に、ちび猫の症状は坂を転がるように悪化の一途を辿っている。お兄ちゃん猫の餌を3粒食べたのを最後に、固形物は何も食べられなくなった。赤ちゃん用のミルクをスポイトで与えても、出してしまうようになった。

 どうしても安楽死させる気にはなれない。そもそもちび猫の大嫌いな病院に再び連れて行くこと自体できない。私たちを慰めてくれる健気なちび猫を裏切る行為だ。

 だけど、本当にこれでいいのだろうか。私はちび猫の苦しみを長引かせている。これでいいのだろうか?

 生まれてくるときの状況を考えてみる。お母さん猫のいきみに助けられながらも、ちび猫は自分の力でこの世に生まれてきた。
 この世を去るときだって、きっと自分の力で去っていけるはずだ。だからママは余計なことはしないことにする。
 
 今だって、ママは見てられなくて辛いから、こんなことをやっている。でもずっとそばにいたのでは、ちびはきっとママを慰めようとするでしょう。少しでも疲れさせないようにしなければと思ってもいるんだよ。

 もう何が一番いいことなのか、何もわからない。

 ママは本当に、悲しい。今わかるのは、それだけ。

 
 
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by vitaminminc | 2008-08-27 16:01 | Comments(4)

河童のクゥにクゥ~

 本日CATVでアニメ映画「河童のクゥと夏休み」を観た。
 去年一般公開されたのを見逃して以来、ず~っとテレビで放映される日を楽しみにしていた。 監督は原恵一。原恵一といえば「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」でニッポン中のサラリーマンを男泣きさせた監督である。

 クゥ~!! 泣けた。

 何とも言えずが美しく描かれている。

 この作品を印象づけているのは、登場人物たちのリアクションが非常にリアルな点だと思う。
 終盤、少年がクゥを送り出すシーンに登場するコンビニ店員の無愛想さは残酷なまでにリアルで、だからこそ一層少年の心もとない心境を際立たせている。

 ラスト、クゥを迎えるモノの声をガレッジセールのゴリが担当していたのだが、沖縄弁て温かい。じ~んときた。

 とにかくが素晴らしい。ぜひコチラでマイナス・イオンを浴びてってください。↓↓↓せせらぎも耳に心地いいですよ。
 「河童のクゥと夏休み」公式サイト
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by vitaminminc | 2008-08-23 17:57 | Comments(2)

読書‘乾燥’文

 私は基本的に何かしら文章的なものを書くのは好きなのだが、「読書感想文」てやつだけは昔から嫌いだ。
 読んだ本が感動的であればあるほど、そっと自分の胸にしまっておきたくなる。感動表現にもあるではないか、「言葉にならないほど・・・」って。つまり本当に面白いと感じたら、本来感想なんて書けなくて当然なのだ。ふはは。

 親しくもない相手に自分の好きな作品など語れるか。そんなことをしたら、せっかく胸に秘めた感動の余韻がどんどん薄れていってしまう。
 だから、気の置けない友に語る場合や大好きな現国の先生に提出した論文を除き、私が読書感想文用に選んだ本に面白い作品などない。作品自体が面白くないから、感想にもやる気のなさがにじみ出て、評価も冴えない。この悪循環は無味乾燥で、読書感想文というより読書乾燥文なのだった。

 さて、そんなひからびた作業から足を洗って早××年。読書感想文なんて言葉自体とうに忘れて暮らしていたら、今年小学5年生になったムスコの前に、それは突如現れた。夏休みの宿題の一つに、任意ではなく課題として出されていたのだ。(ムスメの時代は‘自由課題’の範疇だったので、私のDNAを持つムスメはもちろん選択したことはない)
 これはえらいことになった。ムスメならまだしも、ムスコは書けと言われて書くようなタマではない。読書感想文の書き方に関しては、幸い通っている塾で「コレとコレとコレさえ押さえて書けば模範的感想文の出来上がり」みたいなことを教わったので何とかなるとして、問題はどの本を選ぶかであった。
 「お姉ちゃんに借りて夏の庭(湯本香樹実/著)を読んだら?」
 お盆に入る前に、ムスコにはっぱをかけた。
 「今から~?」
 「なら今までに読んだ中でどれか好きな本にしなよ」
b0080718_0434549.jpg 「くちぶえ番長(重松清/著)しかないな」
 「よし、それでいこう」
 ムスコは塾で教わった基本に沿ってやる気のない感想文をまとめた。こんなもんを書いたばっかりに、せっかく大好きだった作品そのものへの愛着が薄れなけりゃいいがと思うほどつまらなそうに書いていた。書き上げた感想文は乾燥しきっていて縮まっていた。いくら何でも短すぎる。
 このシーンで何か感じることはなかったかと質問しいしい感想を箇条書きさせ、それをつなぎ合わせてやっとこさ2倍の長さ(400字詰原稿用紙2枚)になった。
 宿題を一つ片付け、げんなりしきった顔のムスコに提案した。

 「そしたら今度は感想文なんて書かなくていいから、夏の庭もやっぱり読んでごらんよ」
 「え~~~?」
 「ムスコと同じくらいの少年3人が出てくるよ」
 「・・・」
 「お姉ちゃんも大好きな小説だよ、コレ」
 
 その後ムスコが本を手にしたかどうかわからないまま家事をやっていたら、ぶひぶひ鼻を鳴らす音が聞こえてきた。冷房が効きすぎているのかと思いきや、いきなり戸が開いて、目を数字の「3」のようにめり込ませ、瞼を真っ赤に泣き腫らしたムスコが顔をのぞかせた。
 (3.3;)「読み終わった・・・」
 見ると夏の庭の文庫本を手にしている。
 「コレ、もう読んじゃった」
 「もう!?」
 何か言葉が続くかと思い待っていたが、ムスコの読書感想は、その後湿っぽく鼻を1、2回すすっただけで終わった。
 けれどそれは原稿用紙2枚分よりも遥かに正直で、十分すぎるほど私に伝わった。

 


それからしばらく経ったある日のこと。
「ママ、今日塾の国語の授業で、偶然夏の庭が問題に出たんだよ」
 「ほんと!?」
 「文章問題、結構難しかったけど全部解けたよ」
 ムスコは得意そうにニッと笑って問題集を見せた。
 感想の言葉一つ吐けなかったムスコだが、あの日の涙は作品の趣旨が伝わった証。ちゃんと心の引き出しから取り出すことができたようだ。
 
 文章の中に出てくるぶどうは、遠くの火事に照らされる夜の空のような色をしていて、その一文を目にしただけで私も初めて読んだ日の感動が蘇ってきた。そういえばムスメも声をあげて泣いたっけ・・・。

 空からひっそりと降りてきた秋が、地上で姿をあらわす日を待っているように、時々涼しい風が流れる。(「夏の庭」より)

 今日は「夏の庭」に流れていたのと同じ風が、うちの小さな庭にも吹いている。
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by vitaminminc | 2008-08-23 00:31 | 子ども | Comments(2)

 b0080718_15385739.jpg
前々回の、わんこが雷を恐れるという出だしの記事に呼応するかのように、昨日新聞の折り込みに「迷い犬」のチラシが入っていた。
チラシの発信元は某探偵事務所。今月初め雷に驚いて自宅を飛び出して以来行方がわからず、飼い主さんがたいへん心配しているとのこと。
名前:ラッキー 性別:オス 種類:柴犬の雑種 
年齢:12才 体長:中型80cm位 体重:10~12kg
特徴:尻尾が切れていて
5cm位。首輪なし。


 自宅の炬燵でくつろぐ姿や襖の前の立ち姿など、5点の写真が添えられている。
 「有力な情報及び居場所などのご連絡により当社において発見に繋がった場合、薄謝ではございますがお礼をさせていただきます──」

 私とムスメは後姿だけの写真やこっくりこっくり寝ている表情の写真を眺めながら、真剣に意見交換した。
 「この写真を見ただけでわかるよね、そうとう可愛がられていたってことが」
 「もう老犬だし、連日のこの暑さじゃ飼い主さんも気が気じゃないだろね」
 「家の中で飼っていたから首輪はしてなかったんだね」
 「でも誰かが一時的に保護して首輪をつけられてることも考えられるし、写真よりもずっと痩せちゃってるかもよ」
 「尾が短いって特徴があるからそれで判断できるね」
 ムスメは自分の携帯でチラシの写真を撮り、電話番号などの情報を入力した。

 途中、パソコンゲームのセーブ中なのだろうか、自室から出てきたオヤジが私たちの会話からチラシをチラ見した。‘なんだ犬か’という目つきのまま冷蔵庫の扉を開け、冷茶をグビリと飲み、今度は‘ふん、暇なヤツら’という冷たい視線を飛ばして自室へ戻っていった。こんな動物嫌いのオヤジは無視、無視。

 「いなくなった方角が学校に近いから、もしかしたら行き帰りに発見できるかもしれない」
 どうかこのわんこがどなたかに手厚く保護され、無事に飼い主さんの元に帰れますように。
 ラッキーは、以前うちで飼っていたわんことよく似た毛色、体格、雰囲気をしている。
 
 
b0080718_1632278.jpgところで、先日の雷で市内のあちこちで連日電線等の工事車両が停車している。
本日はわが家にも電気温水器のメーカーが修理に来た。完全にお湯が出なくなるわけではないが、しょっちゅうエラーコードを表示しては水しか出しやがらない。秋を迎える前に修理を依頼した。
基盤交換18000円也。
火災保険がおりるからいいが、雷のたびに熱いシャワーを浴びられなくなるのは寒い。
 「保険会社によっては証拠写真を請求するところもありますから、取り外した基盤、置いてきます」

 修理のお兄さんはそう言うと、私の脳神経より頑丈そうなくせに私よりも雷に弱い基盤とやらを玄関に置き去りにしていった。
 
 明日は電話のほうの工事が控えている。あ~ぁ。。。
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by vitaminminc | 2008-08-20 16:57 | Comments(4)

夏の刻印

b0080718_1454249.jpg波に巻かれて
背中をすりむいた。
「波に遊ばれちゃったョ」と苦笑い。
b0080718_14545015.jpg砂浜で、
海水浴。
b0080718_14553549.jpg汽水を
すばしっこく
泳ぐ小魚たち──
b0080718_14575635.jpg浅瀬に追い込み──
b0080718_14583019.jpg素手でゲット!
b0080718_14591528.jpg6ヵ所の海上から──
b0080718_1459396.jpg打ち上がる花火
b0080718_14595834.jpg13000発!
b0080718_1502733.jpg蝉の抜殻は──
b0080718_1504314.jpg自然がくれた
ブローチ❤
b0080718_1505370.jpg
b0080718_1511292.jpg夏をありがとう


             海がつくる 波の巻き寿司

          かんぴょうみたい 具にされたムスコ 

         浜に打ちつけられ すりむいた背中の傷

          カサブタがとれた跡は やけに白くて

              ほんとうに、やけに白くて

             それを見た瞬間 夏が往った



 

 
 
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by vitaminminc | 2008-08-18 15:05 | 自然 | Comments(4)

かみなリセット

 わんこは雷が嫌いだ。中には好きな個体もいるかもしれないが、少なくとも私の愛したわんこはみな異常に雷を恐れた。
 私はというと、勇壮な雷鳴、宙を裂く稲光には血湧き肉踊る。女としてかわいくないタイプである。

 が、しかーし! とうとう私も雷を恐れるようになった。女に目覚めたわけでも寄る年波のせいでもない。不便なのである。
 弱い、とことん弱い。わが家の文明の機器は、雷にめちゃくちゃ弱い。落雷で停電しても、たいていの家電製品は自主的、または家主がリセットボタンを押すことで復旧する。
 だが電話(J:com-PHONE)はいかん。コレ、いちいちモデム交換となるため、修理が必要なのだ。
 損害は当然うちだけではない。電話不通のクレームが殺到し、修理件数も半端じゃなさそうだ。だから復旧までに数日かかる。
 電話の故障に気づいたのが本日だったので、今日になって携帯からJ:comに電話したところ、本日中修理に伺うのは無理だと言われた。明日以降も時間指定は受けられず、最悪夜中に伺うこともあり得るという。
 こっちは昼間仕事に出ている身だ。いくらなんでも夜中にやって来られては困る。睡眠不足で翌日の仕事に支障が出るではないか。
 「何日以降なら、午後のまともな時間帯に来ていただけますか?」
 「21日以降になります。午後は1時から3時半まで、または3時半から6時までの時間帯になります」
 「では、21日の3時半から6時の間にお願いします」
 「かしこまりました」
 「あのぅ・・・うちこれでこの夏2回目なんですョ。もうちょっとそのぉ、雷に対する対策を強化してもらうわけにはいかないでしょうかね?」
 「申し訳ありません、落雷となりますと、どうしても今のところは修理というかたちで対応させていただいております」

 もしも携帯電話が普及していない時代だったら大変なことになっていただろう。J:comは、ユーザーの雷を喰らって黒焦げになっているところだ。

 というわけで、8月1日に交換したばかりのモデム、21日にまた交換。やれやれ・・・。

 昨夜は落雷による停電で、風呂の給湯システムが停止。エラーの解除方法は、2階の納戸へあがって取扱説明書に頼らないとわからない。面倒くさくなって、そのまま水のシャワーを浴びて入浴を済ませた。

 便利な生活というのは不便さと背中合わせなんだなぁと実感。文明の利器は雷に弱い。一喝されただけで、何もここまで縮こまることはないだろうに。
 

 
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by vitaminminc | 2008-08-17 17:20 | 自然 | Comments(2)

アダムの林檎飴

b0080718_17362998.jpg 朝からしきりに咳ばらいをしているムスコが、
048.gif「とうとうオレも声変わりか?」などと言い出した。
 ムスコは1学年上の平均身長、および生まれついての低音、それに幼稚園時代からあまり変化のない童顔の持ち主だ。
 でも体格がいいわけではない。むしろひょろりとしたもやし小僧である。声変わりと判断するのは性急というものだろう。
 咳ばらいは時々空咳を生み、ゴホゲホケッケととにかくうるさい。

b0080718_17373891.jpg「風邪でしょ」と私は変声期の可能性を否定した。
b0080718_17381738.jpg「暑いからってトランクス一丁で冷房の効いた部屋に長いこといるから。少しおとなしくして、旅行前に治してよね。海に入れなくなったってしらないよ」
 私は突き放すように言った。子どもといえども自分の健康管理ができないようではいかんのだ。

(←トランクスの柄拡大)


 昨日ムスコは地元の同級生と3人で田んぼにザリガニ釣りに行った。
 「用水路にアメリカザリガニもいたよ」と嬉しそうに語るムスコの表情は、日に焼けた肌にいっぱい汗をかいていて、溶けかかったチョコレートみたいに甘かった。
 シャワーを浴びさせたはいいが、髪の毛がびしょびしょのまま冷房の部屋にいたのがいけなかったのだろう。
 「えへん、 えへっ、えへっ、ゴホッ」
 「高音が出にくいってことは?」と聞くと、ムスコは「全然」と言って、何かのテレビCMで流れている女性の甲高い歌声を真似てみせた。
 060.gif大好きだから~ ず~っと~・・・」
 やはりただの風邪のようだ。
 喉仏=アダムの林檎が出てくるよりも、お祭りで売っている林檎飴に手が出るほうが、まだまだムスコにゃ似合ってる。
b0080718_17431294.jpg

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by vitaminminc | 2008-08-07 18:10 | Comments(4)

日々の暮らしに「ん?」を発見