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捨てたもんじゃない

 昨日の夕刻。警察署から電話が入った。

 拾得物を預かっているので引き取りに来てくださいとのこと。親切な方が拾って、交番に届けてくれていたそうだ。

 ムスコが財布を失くしたのは今週火曜日の夕方。涼しいのに「アイスが食べたい」と訴え、近くの店に買いに行った帰り、道に落としたらしい。
 ①アイスを買うだけなのに、ゴツイ財布を持ち出した。
 ②すぐ近くの店なのに、歩かずに自転車で出かけた。
 ③財布をバッグに入れずに、ジャンパーの浅いポケットに入れた。
 
 行きに落とさなかったのは奇跡であった。行きに落としていればレジに並んだ時点で気づいたろうに、アイスを買った後に落としたものだから、財布がないことに気づいたときは、もう夜の11時を回っていた。
 財布の中には何が入っていたのか? ムスコに確認した。
 ①千円札1枚
 ②小銭少々
 ③誕生日に伯父ちゃんから贈られた図書カードの残り1500円分
 ④ママからもらった1ドル紙幣1枚
 ⑤図書館のカード
 ⑥大宮までの電車の回数券2往復分
 ⑦東京のおばあちゃんからもらった「ご縁がありますように」の浄銭5円玉
 ⑧「アイスを買うときレジで出すように」とママから預かったお店のポイントカード
 
 ⑧はともかく、ムスコにしては大金に相当する中身である。かなり落ち込んでいるとみえ、翌朝学校に行く際「いってきます」と挨拶した声も、思い切りダークだった。

 翌水曜日の夕方、念のためお店の人や通り道にあるガソリンスタンドの人にも財布が届いていないかムスコが自ら確認しに行ったが、みな首を横に振るばかりだったという。
 「ダメもとで──」私はムスコを交番に連れて行った。正直いって、財布が出てくるとは99.9%、思っていなかった。落とし物をした時に交番に届け出る方法を社会勉強させたかったのだ。
 夕方5時前後の交番はいつになく警察官で溢れていた。4人のおまわりさんのほかに女性警察官が2人。交替のための引継ぎの最中だったのだろうか。
 「一人で行って来なさい」
 車から降りたムスコが交番に入って行くと、若いおまわりさんが話を聞いてくれた。次に、女性警察官が書類を出してくれて、ムスコが何やら書類に書き込み始めると、おまわりさんや女性警察官が代わる代わる書類を覗き込み、時々アドバイスしてくれる様子が見てとれた。

 結構長い時間かけて熱心に書き込んだあと、ぺこりとお辞儀をしてムスコが戻ってきた。
 「もしも誰かが拾って警察に届けてくれているってことがわかったら電話で教えてくれるって」
 「あまり期待はしない方がいいよ」
 うん、わかってる!と答えたムスコは、交番に届けを出したことで心のけじめがついたのか、急にしゃんとして明るい表情になった。

 で、落としてから実質3日目になる昨日。警察署から連絡を受けたというわけだ。二階の自室で友だち3人と遊んでいたムスコに、吉報を告げた。
 「すげー! オレの財布見つかったって!」
 「すげー! やったじゃん!」
 友だちの歓声も聞こえた。
 「ねえ、受付5時半までだって」
 どどどどっとムスコが下におりてきた。本来なら自分も一緒に行くべきだが、何分来客中なものでといいたげに、ムスコが両手をすり合せながら私を拝んだ。
 「引取り、よろしくお願いします~」

 電話口で教わった通り、警察署の入って右にある窓口を訪れると、担当の方が茶封筒を持って来てくれた。
 「火曜日の夕方だから」と担当者は書面に目を走らせた。「落とされてから間もなく拾ってもらえたようですね」
 「ありがたいことです」
 「そうですね、なかなか拾って届けてくれる方はいませんからね。この方の場合は以前にもほかの方のお財布を拾って届けたことがあるそうですよ」
 「いい方に拾っていただけて、ムスコも喜びます」
 財布と財布の中身が提示され、担当者の目の前で一点一点照合しながら思った。

 よかった・・・ムスコが恥ずかしいもんを入れてなくて・・・。

 私がムスコに預けたお店のポイントカードだけは、なぜかソコに現物があったにも関わらず、内容物項目の欄に記載がなかった。ふん。
 「拾ってくださった方に、お礼のお電話を差し上げたいのですが」
 担当者は拾得者の名まえと電話番号が書いてあるメモを渡してくれた。
 「お電話をして、ご迷惑にはならないですよね?」
 「ええ。拾ってくれた方には先に連絡をしてあります。お財布が、子どもさんの落とし物だったと知って、嬉しそうにしてらっしゃいましたよ。割とご年配のご婦人で、電話がいくことに関しては構わないということでした」
 メモを見ると、確かに[電話]のところに〇印がしてあった。
 「帰ったらムスコに電話させます」
 「喜ばれると思いますよ」
 「お財布が出てくるとは思っていなかったので、今回はムスコにとてもいい経験をさせることができました。お手数をおかけしました。ありがとうございました」

 早速ムスコが財布の恩人に電話を入れた。年賀状を出したいので住所を教えてくださいというと(←コレは私の入れ知恵)快く住所も教えてくださった。途中で電話を代わり、改めてお礼を伝えた。
 「5年生ですってね、しっかりしたいいお子さんですね」
 ご婦人は私にも財布を拾ったときの詳しい状況を聞かせてくださった。パソコン教室に通っていたので、その技術を生かせる仕事はないかと駅のハローワークに職探しに行った帰り道だったそうだ。
 「良さそうな仕事も見つからなかったし、早く帰りましょうと思っていたら、何か落ちているのが目に入って。拾った以上はホラ、すぐに交番に届けなければならないでしょう? 交番に寄るとしたらうんと遠回りになるので、もうそいっそこのまま通り過ぎちゃいましょうと思ったんですよ。でも前にもお財布を拾って、とても喜ばれたことを思い出しましてね。ああ、これも落として困ってる人がいるだろうなあと思ったら、見過ごすことができなくなってしまいましたの」

 捨てたわけじゃない財布あれば拾う神あり。世の中、まだまだ捨てたもんじゃない。
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by vitaminminc | 2008-11-28 19:56 | 人間 | Comments(10)

気分は‘腫れ’晴れ

 22日土曜日、午前10時。
 婦人科の受付を済ませて2階の待合コーナーへ。長椅子に腰掛け、頃合を見計らって、持って来た300ml入りペットボトルのお茶をグビリグビリと全部飲み干す。自分以外にも、時折バッグを探ってペットボトルのお茶を飲む人の気配が感じられる。真夏でもないのに、そんなに喉が渇くのか。いいや違う。超音波検査を受けに来た女性たちが、おのが膀胱を尿で満たそうと頑張っているのだ。
 「△△さーん」看護師が誰かの名まえを呼ぶ。「どうです?尿は溜まっていますか?」
 「トイレに行きたいことは行きたいんですけど」
 「今にも漏れそうなくらい?」
 「いえ、そこまででは──」
 「なら、いよいよになったら声をかけてくださいね」
 「それでは、××さーん。××さんはどう? 大丈夫そう?」
 「ええ、さっきからずっと我慢してます」
 「じゃあ中にどうぞ」

 看護師と二人目に呼ばれた人が診察室に引っ込んでしまうと、先に名まえを呼ばれた人が周りに聞こえるように溜め息をついた。
 「ああ言われてもねぇ」と横の人が同情して言う声が聞こえる。「そう都合よくはいかないわよね」
 「外に出て冷たい風に吹かれれば少しはトイレに行きたくなるかしら」
 「ほほほ・・・」

 30分経過。先程見送られた人が、めでたく窮状を訴えて診察室に消えた。

 私は自分の膀胱に全神経を集中させ、潮の水位を推し量る。まだ6割程度である。トイレに近い私が冷たいお茶を一気飲みしたにしては、かなり尿意が遅れている。自分が呼ばれるまでの時間によっては飲み足す必要があるかもしれない。かといってあまり性急に満潮状態をつくってしまうのは危険だ。
 診察室のドアには「超音波検査の方へ」という貼り紙がしてある。トイレに行きたくなったら看護師まで声をかけるよう書いてあって、いかにも優先的に診察してくれそうだが、現実はそう甘くはない。本来の順番よりはるか後の人が窮状を訴えても、結局は順番が先の人が優先なのだ。どの人も怒張した膀胱を一刻も早く解放させたいわけで、後の人に順番を譲れる余裕のある人は稀なのである。
 
 そうこうしているうちに、名まえを呼ばれてしまった。
 「みん子さーん。どうですか?」
 「まだ・・・MAXの状態とは言えないようです」
 看護師はぷっと噴き出し、次の人の名を呼んだ。‘助かった~~~’という安堵のオーラを放ちながら、私より後に来た人が私より先に膀胱を腫らして診察室へ消えていった。

 いかん。時間がもったいない。ふだんは何も飲まなくたって習慣のようにトイレに行っているくせに、こういう時に限ってなぜ尿意をもよおさないのか。
 すっくと席を立ち、1階のロビーで缶ジュースを買って飲んだ。病院に着いてからコレで650mlは体内に注ぎ込んでいる。私の膀胱の許容量ならもういい加減トイレに行きたくなってもいい頃だ。

 1時間20分経過。ようやく水位は9割に達する。いや、9.5か? 分刻みで潮が満ちてくるのがわかる。待合室で漏らしてしまう前に、声をかけるべきか。
 「みん子さん!」
 まるで私の尿意を嗅ぎつけたかのように、ドアを開けざま看護師が私を呼んだ。「中に入ってください」
 尿が溜まったかどうかの確認もせず半ば強引に引き入れられたわけは、検査の前に問診と血圧・体重測定とが待っていたからだ。
 血圧を測るときに尿の溜まり具合を聞かれたので、待ってましたとばかり、「すぐにでも」と答えた。

 しかし、検査はすぐには始まらなかった。私は目の前の壁に貼ってあるポスターを睨んでいた。

 【骨盤底筋の鍛え方】

 5秒間肛門を締めて、1回休む。これを1セットとして1日10回

 1)ベッド(寝床)から起き上がる前に
 2)歯を磨いている時に
 3)シャワーを浴びている時に
 4)お皿を洗っている時に
 5)午後のティータイムに
 6)料理をしている時に
 7)信号やバスを待っている時に
 8)夕食後に
 9)テレビを見ている時に
 10)就寝前に


 どこの世界に肛門を締めながらアールグレイを飲む婦人がいるかってんだ。
 私は椅子に座ったままの姿勢でにわか訓練を始めた。ラク太母さんから事前に教わっていたというのに1回もやっていなかった。いまさらながら悔やまれる。診察室で待つ間に、1日分のメニューをやっつけ仕事のようにこなした。が、尿はすでに頭蓋骨内部にまで浸水。脳味噌が溺れかかっていた。
 命とトイレ──どちらか選べと言われたら、命の方に未練があるとかすかに思える状況で、ようやく診察台への移動が告げられた。理性という名のテトラポッドで、黄金色の波が打ち砕かれる音を聞きながら、診察台の上に仰向けになる。哀れな私のボデーを見て、看護師が言った。
 「あらあら、ずいぶん溜めていただいて──」
 私の膀胱は外から見てわかるほど逼迫した状態にあったらしい。看護師と入れ替わりに入って来た女医も、同じことを言った。
 「おや、これはだいぶ尿が溜まっていますね。ごめんなさいねぇ」
 溜めろ溜めろというから溜めたのだ。言われなくても溜まっていることくらい自分が一番知っている。詫びなど要らぬ。寸暇を惜しんで検査にかかってくれ。

 「センセ、お手柔らかに願います・・・」と懇願する必要はなかった。
 女医は、それこそ腫れ物に触るような手つきで、力なくローラーを転がした。いかなる圧力も加えてはならぬと肝に銘じてでもいるかのように。
 「はい。大丈夫のようですね。この黒い部分は全部尿なわけですがぁ、ええ、子宮の中はぁ、こうして見る限り、問題はないです」
 繊細なローラーさばきで女医が言った。
 私の前に検査を受けていた人は、エコーの後、隣のスペースに移動して女医から詳しい説明を受けていた。
 が、私は違った。
 「ではぁ、トイレを済ませたらまたココに戻ってきてください」
 神聖な職場を洪水から守るため、余計な質問は一切挟まず女医が言った。

 トイレに行って膀胱も心も軽くなった私は、女医から改めて漏れなく説明を受け、無事帰還した。
by vitaminminc | 2008-11-24 01:00 | Comments(19)
 もしも過去にタイム・スリップして何か取って来ることができるとしたら、何を取って来たいか。
 私は漫画を取って来たい。小学生の時にノートに描いた自作漫画だ。

 小学3年~5,6年にかけて、インドア派でお絵描きが好きだった私はよく漫画を描いた。
 題名も覚えている。

 「いじ・わる子ちゃん」⇒まるで「ちびまる子ちゃん」のごときタイトルのギャグ漫画。主人公はおかっぱ頭の女の子。目は不二家のペコちゃんで、そばかすだらけのほっぺをしていた。描いてるそばからちっともおもしろくないので、即日没となった。

 「しあわせはどこに・・・」⇒幸せを探している森の妖精たちのお話。主食はクローバーの花の蜜。タイトルに自己陶酔してしまい、中身ゼロで話が進展せず、企画倒れに終わった。

 「犬の目をした少女」⇒黒い目をした少女は、いつもみんなから「犬」「犬」と呼ばれ、いじめられていた。でも本当は、ただ黒目の部分が大きいだけ。みんなは少女の目が犬のように可愛かったので、妬んでいたのだった。
 これを描いている私に向って、母は言った。
 「漫画描いてるときのみん子って、まるで百面相ね」
 そう。私は泣き顔を描いているときには自分も泣き顔になり、笑顔を描くときにはえびす顔で描いていた(らしい)。

 高学年になると事態はさらに悪化した。なんとエロ漫画にまで手を染めたのである。題名は忘れたが、男の人が、プールで溺れた女の人の胸をはだけて人工呼吸を施すという内容だった。
 成績優秀だった親友が、私の力作エロ漫画を読んで一言。
 「プロの人が描いたヤツはいやらしいけど、みん子のはいやらしさを感じない」
 そもそもエロ漫画を描いてみろと勧めたのは親友である。彼女には年の離れた兄貴がいて、ふたりで兄貴の部屋に忍び込んでエロ漫画を読んだのがきっかけであった。にもかかわらず厳しい批評を受けたワケは、私の絵がウマ下手っぽくてそそるものがなかった上に、ストーリーがバカっぽかったからにほかならない。
 しかも最悪なことに、このエロ漫画は母親に発見されてしまった。描いているところを発見されなかったのは、不幸中の幸いだった。何しろ私は怪人百面相の漫画家だ。エロ漫画を描いているときの顔だけは正視するに堪えないものがあったに違いない。
 母は作品を手にして少し疲れたように言った。
 「まだ、こういうのを描くのは早いんじゃないかしら・・・」
 今思えば母の対応は冷静沈着なものだった。もしも自分のムスメが小6の分際でエロ漫画など描いてみい。私が母親だったらとても正気じゃいられない。うろたえ悩み、育て方を間違えたと嘆き悲しみながら、読売新聞の「人生案内」に相談を寄せたことだろう。ムスメがまともで良かった。本当に良かった。

 で、これらの超駄作を取って来ようというわけだ。何のために?

 βエンドルフィンの分泌を促すために。

 「βエンドルフィン」というのは、楽しい時や美味しいものを食べたときなどに脳内で分泌されるハッピー・ホルモンの一種。「脳内モルヒネ」とも呼ばれ、痛みを和らげる作用は麻酔に使われるモルヒネの6倍にもなるという。また、免疫力を高める効果もあるので、身体にとってたいへん良いホルモンなのである。

 将来、万が一医者に見放されるようなことになったら、私は自分のしょ~もない漫画を読んで、腸ねん転になるくらい笑い転げるつもりだ。笑って笑って笑い倒して、病を克服する。
 イルカが好きなので、イルカっぽい名前の「βエンドルフィン」、ぜひわが脳内で噴出させたい。そして私に忍び寄る魔の手を、ドルフィン・キックで蹴散らしてやるのだ。ビシッ!バシッ!

 もしかしたら、漫画そのものより漫画を描いている最中の自分を連れてくるほうがもっと笑えるかもしれない。でも自分の百面相を見たら、逆に笑い死ぬ恐れもある。

 作品を一つに絞れと言われたら、断然「犬の目をした少女」だ。少女はみんなが言うように、犬と人間とのアイの子ではなかったのだ。
 犬の目をしていたわけではなく、黒目が大き過ぎて白眼が見えなかっただけというオチ意外性、そしてリアリティー。私の最高傑作である(はずもなく・・・)。漫画家を目指さなかったのは賢明だった。才能ゼロってことを理解するだけの頭はあったのだから。

 ところで、過去への入り口「笑う門」へは、どうやったら行けるんだろう?
by vitaminminc | 2008-11-19 01:41 | Comments(8)

容疑者Xの健診

 主婦健診に行った。

 ①受付
 割り当てられた時刻に地元のコミュニティーセンターへ出かけた。受付で、予め採取しておいたベンニョー及び問診票などを提出。
 横のカウンターには、場末のラブホにでも置いてありそうなローブ健診衣がLL、L、Mの順にピシッと糊をきかせてサイズ別に積み重ねられていた。しかしLサイズだけが品切れ。
 「Lがないようなんですけど・・・」というと、係員が私をチラ見しながら、
 「すみません、みなさんLを持っていかれるんですけど、たっぷりめに出来ているのでMで十分ですよ」
 簡易更衣所で着替えたら、確かにMでもダボダボだった。

 ②身長・体重測定
 朝バナナ効果で、体重は去年よりもきっかり2kg減。シマッタ、今までの体重が頭に刷り込まれていたものだから、問診票にあった「20歳の頃の体重に比べて10キロ以上増えた」という項目に、つい〇をつけてしまっていた。「やせぎみ」の判定だった昔に比べプラス8kg増で済んだのはウレシイが、身長が去年より6mmも縮んでいたのはカナシイ。

 ③視力検査
 「メガネはかけたままで結構です」
 こう言われるようになったのはいつからだったろう。学生の頃は、肉眼の視力も測ってくれていたように思うのだが。
 今となっては、使用している眼鏡またはコンタクトレンズで実際どのくらい見えているかを測定してもらっているような感じだ。かなり細かい記号まで読ませようとしていたのは、老眼の有無でも調べていたのだろうか。

 ④血圧測定
 「これまでに高いと言われたことはありますか? ハイ、先にゆっくり深呼吸してください」
 質問に答えようとしたとたん深呼吸を命じられたので呼吸が浅くなってしまった。もう一度深呼吸しなおしたあとで、高血圧ギャルと呼ばれた過去があるのを思い出し、片ほほ笑いをしながら、
 「緊張してドキドキしたときは血圧が急上昇したことがあります」と答えた。
 「ほほ、今回は落ち着いて測れたかしらね。大丈夫、正常値ですよ」

 ⑤心電図
 「よくひっかかるんですか?」
 「!? あの、‘右脚完全ブロック’は毎回出るんですが・・・(そのことか)?」
 検査員は実にあいまいに頷いただけで、それ以上何も説明しようとしなかった。だったら余計なことは言わんでほしい。
 心臓の中には“発電所”(洞結節)と、“変電所”(房室結節)、さらに電気を流す“電線”の役目をする組織があって、右脚とは心臓の右側を走る電線のこと。「右脚ブロック」は電線上で電気の流れが悪くなった状態をいうが、完全ブロックが必ずしも完全断線を指すわけではない。が、電気の流れがより悪くなっている状態であることは確か。ただし、たいていの場合、心配はないということは自力で調べて知っている。頭では血流が、心臓では電流が悪いということだ。ふっ。

 ⑥乳がんエコー検査
 「これまでにエコーの検査で何か言われたことはありますか?」
 「右側がちょっと気になる、という言われ方をされたことがあります」
 「それじゃ困っちゃいますね」
 女性係員は短く笑った。困っちゃう意味が、私の返答に対してなのか、そういう言い方をしたかつての検査員に対してなのか判然としない。「右側がちょっと気になるんですが・・・まあいいでしょう」と言った、かつての女性検査員は、ローラーを一定の箇所で何度も何度も小刻みに転がした。そして次第に眉間の縦皺を深め、考え込んでしまう様子なのがとてつもなく恐ろしかった。
 今年は検査員の表情が読み取れない角度で寝かされていたため、無用の恐怖は味わわずに済んだ。

 ⑦内科検診
 「最近身体の調子で困っているようなことはありませんか?」
 先生はやけに温かい手で私の両目を「あかんべ」しながら聞いた。
 「更年期障害だと思うんですが、のぼせがちょっと・・・」
 「生理は?」
 「1年くらい前に、だんだんフェイドアウトしていきまして・・・(笑)」
 先生もつられて笑いながら聴診器を当てていた。笑い事じゃないっちゅーねん。

 ⑧採血
 注射自体は怖くないが、針が腕に刺さるのを凝視できずアサッテの方を見る。

 ⑨乳がんの説明
 模型に触れながら、自宅で行う触診方法について説明を受ける。
 
 ⑩胃部レントゲン検査
 私ともう一人が呼ばれ、エレベーターで1階におり、外の駐車場に停まっているレントゲンバスまで移動。短い道中だが沈黙のまま歩き続けるのもそれなりにつらく、人見知りをおしてくるっと後ろを振り返り、にっこり笑ってもう一人に話しかけた。
 「紅葉がきれいですねぇ」
 「でも、あの、臭いですよね、ぎんなんて」
 「・・・あの」
 「あ、あの木は、あの、銀杏じゃないのかしら」
 「違うみたいですねぇ(赤いやん、もみじの形してるやん)」
 どちらからともなくアハアハと笑いバスに乗る。もう一人も相当の人見知りとみた。
 
 「ハイ、腕を抜いてください、腰の下から腕を抜いて、ハイ、息を止めて──ハイ、仰向けになって楽にして──今度は左を下に、少し戻って、もう少し戻る──ハイ、息を止めて──ハイ、仰向けになって楽にして──(楽にできっか)」
 でかいまな板の上でごろんごろん転がされ、半ば目を回したままレントゲン終了。髪の毛ぼさぼさ。朝から飲まず食わず。

 身体は空っぽのはずなのに、健診のあとはいつも気が重い。検査結果が届くのはいつだろう? 
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by vitaminminc | 2008-11-17 00:18 | Comments(8)

磨りヘルシー

 笑われた。ぶっと噴き出された。
 わが身に起こったちょいとした変化をカミング・アウトしたところ、職場のみんなに笑われた。
 無理もない。とうとうグルコサミンを飲むようになっちゃったのだから。あぁ、情けなや。
 グルコサミンといえば‘関節痛でお悩みの方へ’というキャッチ・コピーとセットで、高齢者の間ではもはや公認。健康食品などでお馴染みの成分である。膝などの軟骨部分の細胞を形成する重要な成分であり、動物の軟骨、カニ・エビなど甲骨類の殻に含まれている物質である。
 「なんだってまた、グルコサミンなんかのお世話に?」
 職場の仲間は、心配するというより明らかに面白がって聞く。
 「自転車の回転数に比例して、膝の関節が磨り減ったみたい・・・」
 説明すればするほどウケた。言わんこっちゃない、あんなに小さい自転車に乗っているからだ、と口々に突っ込まれた。

 そもそも16インチの折り畳み自転車を買ったワケは、収納スペースの問題もさることながら、何よりも健康的に痩せようという下心があったからだ。自転車漕ぎは有酸素運動といわれている。ならば普通サイズの自転車よりもいっぱい漕ぐ分、身体に酸素をたくさん取り込むことにより、カロリー消費量だってぐんとアップするだろうと。
 結果は太ももに要らぬ筋肉がついただけというあまり喜ばしくないものだったが、健康には良いと信じて疑わなかった。

 伏線はちゃんと用意されていたのだ。ただ私が気づかなかっただけ。お盆に実家に帰ったときに、母が言っていたっけ。
 「ともだちのダレカレが室内用サイクルを買って、ここぞとばかり毎日自転車漕ぎの運動を続けていたら、なんと股関節が磨り減って、立てなくなっちゃったんですって。怖いわね~。何事も過ぎたるはっていうけど・・・」
 ふ~~~ん、と生返事をしていたような気がする。70もとうに過ぎたばあさんがそんな無茶しちゃいけないですよ、などと適当に相槌を打っていた気もする。
 あれからわずか3ヵ月。他人事ではなくなった。知らぬ間に骨身を削っていようとは。ぃゃ、身のほうは削れていない、骨だけ。
 10日前くらいから膝に違和感。毎日変な感じなのだ。階段を上がっているときや、自転車を漕ぎ出す瞬間。踏み込むような動作をするときに、8割の確率で膝に鈍痛が走る。
 「イテッ」と声が出るほどの痛みではない。が、痛いことに変わりはない。
 「ゲッ!!・・・まさかコレは──」
 そう、クッションの役目をしている軟骨が磨り減ったことによる痛みに違いない。まだかろうじて40代だというのに。‘関節でお悩みの方’になってしまうなんて。

 「みん子さん、大きい自転車に買い換えないとだめですよ。今から膝が痛いなんて言ってるようじゃ、老後寝たきりになっちゃいますよ♪」
 「ひぃぃん・・・」
 「グルコサミンてひと月分いくらくらいするんですか?」
 「ピンからキリまであるけれど、まだ初期症状だから、Asahiのグルコサミン。うちの近くのドラッグ・ストアで2000円しない」
 「2000円を1年間飲み続けたとして24000円。自転車1台買えちゃいますョ♪ 」
 「ひぃ~~~ん(愛車チビチャリともついにおサラバか・・・)」

 先日、婦人科の女医が言っていた。
 「骨粗しょう症の予防にはぁ、カルシウムを摂ることはもちろんですがぁ、運動すること、コレが大事ですよ。よく身体を動かしますとぉ、そこの骨にはカルシウムが集まってきてぇ、骨密度が高くなるんです」

 自転車を買い換えるよりも、会社まで往復歩くようにしようか。ウォーキングで膝が磨り減ったという話は聞いたことがないし。16インチの自転車だと膝の骨が磨り減るし。こりゃとんだ磨りヘルシー志向であった。せめて20インチくらいにしておけば良かったのだ老化。徒歩ほ・・・。
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by vitaminminc | 2008-11-13 22:54 | Comments(8)

chest!!

──肘を張り、「チェストオッ!」といっせいに奇声を発して、一族はなんだか理由のよくわからん祝杯を上げた。

 ‘軍曹’(←陸自出身。右の肩甲骨から翼を生やしている薩摩男)が帰郷したときの1シーンである。十二畳の座敷の中央にデンと置かれた六畳敷きほどの屋久杉の食卓には、ありとあらゆる山塊の珍味─南国特有のゴテゴテの油料理─が並べられている。総計十万キロカロリーはあろうかという酒と料理を強姦されるがのごとく腹に詰め込まれた後は、暴飲暴食親子四代による庭先の厠の争奪戦が繰り広げられるのである。

「チェスト、兄上・・・」
「チェイストウ」
「お願いでごわす。かわってたもんせ」
「知りもはん。おいの権利でごわす。クソぐらいゆっくりタレさせてくりゃい」
「何と非情な・・・チェスト」
「クソ勘定に親兄弟はありもはん。ひやー、気持ち良か」


 ↑↑↑のちに「ラブレター」や「鉄道員」といった名作で私を泣かせた浅田次郎さんの小説「きんぴか」第3巻の一節がコレ。南国出身の方はご存じだろうが、私にゃ無論わからない。
チェストとは何ぞや?

 オレンジレンジの曲にも、「チェスト!」という曲があって、やたら「チェスト!」を連呼する。おそらくコレと同じ意味だろう。ロー・タイプの収納家具でないことは明らかだ。「チェスト」には、ほかにどんな意味があるのだろうか。
 
 鹿児島県に古くから伝わる「気合の掛け声」ということはわかっていたのだが、本日一緒に仕事に出ていた一人に薩摩おごじょがいたので、彼女の意見も聞いてみた。ネイティブな意味合いを知りたかったのである。
「鹿児島弁に‘チェスト’ってあるでしょ。意味を教えてたも」
「え・・・?チェストですかぁ?」と彼女は面白そうな目で私を見た。「うーーーーん。何て説明すればいいんだろう?」
「日本語に訳すとどうなるの?」
「一応日本語ですからね(笑) ‘さあ、行くぞ!’みたいな時に言うんですよ。私はあまり使わなかったけど、小学校のとき男の先生がよく言ってたのを思い出しました」
「体育会系の挨拶の、‘押忍’のニュアンスに近い?」
「うーーーん。それとも少し違うかなぁ。もっとこう・・・‘よし、やるぞ!’とか‘さあ、行くぞ!’みたいな感じ」
 横にいたもう一人も「不思議だよねー」と会話に加わった。「どう聞いても英語にしか聞こえない。でも、鹿児島弁なんでしょう?」

 気になる語源については、薩摩おごじょにもわからんということだった。やはり気になるので、家に帰ってからさらに調べてみた。

 「示現流の太刀はの、己れが斬られても良かぞ。肉ば斬らして、相手の骨ば断つとじゃ。─」

 由来については諸説あるようだが、‘軍曹’が甥に手合わせしてやったときの上記の台詞から察するに、キー・ワードは「示現流」にあるとみた。その結果、次↓↓↓のような説を発見。

 ①薩摩弁では、武道の気合の掛け声「えい」が「チェイ」に訛る。
 ②示現流の型稽古には、「スッ」で剣先を下げ、「トウ」で突き出す動作がある。
 これらが合わさって、何か物事を始める際には「チェェーイ!スットォォォーー!」と叫ぶようになり、その短縮形が「チェスト」になった。

 てなくらいなので、今日は仕事中、下にメモを落としたといっては「チェスト!」、トイレに行くゾと席を立っては「チェスト!」、キャンディーを差し上げるときも「チェスト!」、チョコのおすそ分けに預かっても「チェスト!」、ついでにお茶を入れてもらったからには「グラッチェスト!」を連発。
 いちいち薩摩おごじょを笑わせてばかりの悪い先輩だったのである。チェスト。
by vitaminminc | 2008-11-09 16:49 | Comments(4)

超自嘲現象

 これまで、洗濯機のフタを開けて、
 そこにあってはならぬものというのは何度か目にしてきた。

 ムスコがズボンのポッケに入れっぱなしにしておいた石ころだとか飴玉の包みだとか鉛筆だとか。
 ダンナがYシャツのポケットに入れっぱなしにしていたポケットティッシュの細胞分裂だとか出張のための新幹線の切符(←3万円が海のもずくーッと)だとか。

 そのたびムスコには「ばっかもん!洗濯機が壊れたらどーする!」と雷鳴をとどろかせ、おっかないダンナには、岩陰の蟹のようにブツブツ泡をふいてきた。

 洗濯機をかけている時から、妙だなとは思っていた。でもポケットの中には異物など入っていないはず。何しろ洗濯機の中で回っているのは、ゆうべ取り込むのを忘れた洗濯物たちなのだ。今朝の雨で、じっとり濡れそぼっていた。そのまま乾かすと大気汚染臭(?)が残ってしまうので、取り込んだのち二度洗いする羽目に。そう、昨日は洗う前に、ちゃんとポケットの中身を確認していたヮ。まちがいない。石ころなど入ってなどいなかった。なのになぜ?
 なぜあんなに大きいノイズが聞こえるの?

 うちでは洗濯用洗剤は使わず、ランドリー・リングを洗濯槽に投入している。これが意外にうるさい音をたてるので、本日もその音なんだと信じ疑いもしなかった。いつになく私の耳が冴えていて、いつもより派手に聞こえているだけだと思っていた。

 洗濯が終了したことを告げるピーピー音が鳴り、脱衣所に行った。洗濯機のフタを開け、真っ先に目に入ったもの、それは──
 ハンガーだった。(←やたらデケーんですけど)

 「洗濯機が壊れたらどーする!」
 遠くの山並からそんな声がこだましてきたが、苦みばしった自嘲笑いによってかき消された。
 
・・・・・・・・ふっ。
by vitaminminc | 2008-11-07 18:47 | Comments(6)
 大阪語が好きである。大阪語がペラペラの大阪人も当然好きである。
 大阪出身の有名人の大半が、首都東京で堂々と大阪語を話す。これは母国語に誇りを持つおフランス人とどこか似通っている。決定的な違いは、大阪人はおフランス人みたいに高ビーではない点。おそらくかの地で東京人が東京弁をしゃべったところで、「なんや、東のもんかいな」という目で見ることはあっても、「ココは大阪なんやから大阪語しゃべったらんかい」みたいに強要はしないだろう。中途半端な大阪語を話されるよりは標準語を聞いてるほうがなんぼかマシと思うに違いない。

 大阪語にはリズム感がある。音の高低・強弱といった躍動感がある。また、東京弁の「バカ」に相当する言葉が「あほ」であったり、「ダメ」に相当する言葉が「あかん」であったり、否定的な言葉に濁点を含まない分、耳にやさしい。

 頭痛に「ノーシン」などの医薬品をはじめ、あらゆる商品に「ン」で終わるネーミングが多いのは、「ン」で終わる名まえは発音しやすく覚えやすい=よく売れるから──というのを以前何かで読んだことがある。
 大阪語の発音にはこの「ン」が多いのも特徴だ。打ち消しを表す助動詞の「ない」に相当する言葉が「ン」である点など、大阪語ファンにとってはツボだったりする。「いかん」「すかん」「せいへん」「しらん」「みん」──たまらないのである。

 CATVで見る「よしもと新喜劇」は、私にとってうってつけの「テレビ阪会話講座」であった。最近は放映時間と私の自由時間とが合わず、めったに見られないのが残念である。
 また、目上の人に対する大阪語は赤井英和に、愛するペットとの愉快な阪会話はするめなラク太はんから、小学生阪会話はおーなり由子さんの「ともだちパズル」(*)から学んでいる。

 (*)本日の小学生阪会話教材↓↓↓~「学校にきた犬」より~

 始業式の日 運動場に 犬がきてん 
 ひょこひょこひょこ ざわざわざわ ひょこん 
 「なんや すわったで」
 「きちゃないいぬー」
 くすくすくす
 ボロボロの犬 ぞうきんみたい
 その時から犬は ずっと学校におるようになってん

 犬は運動場の校長室のまどのところで いっつもねそべっている
 あんまりうごかへんねん みんなも ボロボロやから あいてにせえへん

 「シッシッシ でていきなさい」
 「みてみて おいだされてる あの犬 すぐ校長室 はいろうとするんやて」
 「そういえば1年時の校長先生ってつよそうやったやん 覚えてる?」
 「わたしちょっとこわかったわ」
 「な ようこちゃん 帰りあの犬にパンやりに行こ!」

 「あかんなあ たべへん」 「おなかすいてへんのかな」
 「おまえら なにやってんねん こいつにパンやってんのかあ」
 「あれっ こいつ いつもおる じじい犬やん こいつも うヨボヨボやで まつげなんか しらがやろ」
 「そやけどこいつ エサやってもムダやで」
 「なんで?」
 「先生がもう 保健所にとりにきてもらう ゆってたもん」
 「えっ ころされる?!」 「うそっ そんなん あかんやんっ」
 「どうするのん!」
  くーん
 「こ・・・この子 学校からつれだそ!」 「そうや! 保健所の人きたら つれていかれるもんなっ」
 (子どもたちは焼却炉のそばにあった古いリヤカーに犬を乗せ、土手へ連れていくことにしました。)
 「こいつさー みんなで かおうぜ」
 「なまえ なんにする?」
 「じじい犬やから ジジオは?」
 「ジジオ!」
  くーん
 犬のなまえはジジオになってん
 耳のさきっちょ ちんぎれてる
 ぞうきんみたいなジジオ
 でも ひらひらの耳は ちょうちょみたい

 ガラガラガラ
 「このへんにしよ!」
 「わあ みて 川ひかってる」「まっぶしー」
 「みて ジジオの毛 金色やあ」
 「ジジオ おまえの家 これから ここやからな」
 (とそこへ、男の人が自転車で通りかかりました。)
 「べス べス そおにおるの べスとちがうか」
 わん!
 「やっぱり! べス!」
 「なんやなんや あいつ」「だれや」
  わんわんわん きゃんきゃんきゃん
 「やあーよかった きみらがべスをみとってくれたんやなあ 長いことでてったきりで もうあきらめかけとったんや」
 「おっちゃんその犬 つれて帰るん?」
 「こいつ ぼくの おやじの犬やからな」
 (その男の人のお父さんは、2年前までみんなの学校の校長を務めていました。前の校長先生は、ジジオが子犬のとき、よく学校に連れて行っていたそうです。)
 「ぼくのおやじな 先月死んでしもてん そのあとちょっとして こいつどっか消えてしもたんやけど おまえ そうか学校」
 「校長先生とこいつ なかよしやったん?」
 「ぼく おやじといっしょに暮してへんかったからな こいつが ぼくのかわりに おやじのそばにずっとおってくれたんや こいつはな いっつもいっしょやった」
 「ジジオー 学校きたら 先生に会えると思たんかな」
 「べス ほら もうおわかれやぞ みんなに あいさつしい」

 ジジオは さらさらのベロで みんなをなめた
 ボロボロのせなかをさすると 毛がすこしぬけて てのひらにくっついてん

 「ぼくらがかってやろうと思っとったのにな」
 「わたしらいのちのオンジンやのになあ」
 「さっさと帰りやってさ」
 「べスなんてへんななまえっ!」
 「でもあしたから もう学校におれへんねんなあ あいつ」
 「うん・・・」

 みんなの服に ジジオの毛が 金色にひかって のこっとった
 
 「あっ!みて! あの雲のかたちジジオみたい」
 「ほんまや ほんならそのよこのちっさい雲 わたしにしよっと」
 「みてみて よこにのびてく」
 「へんなジジオ──」

 ジジオが まだおるみたいやってん


 ぅぅ・・・大阪語が心にしみる・・・。
by vitaminminc | 2008-11-06 02:30 | Comments(6)

セミクジラにのって

b0080718_15192987.jpg 今日は茶尾プーの四十九日。

 閻魔大王によって、極楽浄土に行けるかどうかの判定が下される最も重要な日、「満中陰」にあたる。

 今日は忘れずに「またたび」を持って出た。極楽浄土に旅立てますように。

 ペット霊園に向かってなだらかな坂道を走っていたら、目の前に広がる空に、セミクジラの胸びれが見えた。(写真は通りがかった店の駐車場に入り、携帯で撮影。少々わかりにくいが、夕日の左下=ちょうど中央のあたりに胸びれそっくりの奇妙な雲が出ていた)

 海面すれすれに泳いでいる鯨を海の底の方から眺めたら、こんなふうに見えるのかもしれない。

 風は紺灰色の雲を鯨の一部に変え、雲は西の空を海に変えていた。

 閻魔様、どうか茶尾プーをよろしくお願いいたします。

 胸びれしか見えなかったけど、茶尾プーはあの鯨の背に乗っていたような気がする。

b0080718_02884.jpg
 
by vitaminminc | 2008-11-04 00:11 | Comments(0)
 学校から帰ってきたムスメを出迎えると、
「ちょっと奥さ~~~ん♪」と唄うように言いながら靴を脱いでいる。
 歯は口からこぼれ、目尻はとろけそうに下がり、頬は紅しょうがのように色づいている。
「くま先輩?」
「う~~~ん❤」ムスメは正解のゴングをまどろっこしく唸るだけで、なかなか核心に触れようとしない。
「初チューでもしたの?」
「あ、ソレはまだ」
「何だ、まだかい」
「それより今日くま先輩が私にこんなものをプレゼントしてくれたの❤」
 ムスメのてのひらには、乙女チックに細いムスメの手首によく似合いそうな、繊細なミサンガが載っていた。。
「ほら❤ミサンガ」
 私に「6」というツッコミを入れる隙も与えず、ムスメは独り言のようにしゃべり続ける。
「すごくない?これ❤くま先輩がつくってくれたの・・・」

 くま先輩というのは鼠先輩の親戚ではなく、ムスメの高校の先輩である。
 ムスメはこの4月に高校生になった。いよいよセイシュン真っ盛りだな、温かく見守ってやるかという親としての心積もりも万全でなかったGW明け、ムスメは二年生の先輩に告られた。
 これこそセイシュン真っ盛りだな、どれ2人を応援してやるかと腰を据える間もなく、夏休み明けにはもうそのカレと別れてしまった。
 たった1回きりで終わったデートは、「なんだか楽しくなかった」らしい。フィーリングが合わなかったのだろう。会話も続かず、テンション下がりっぱなしの光景が目に浮かぶ。そのくせ『破局』という結末を哀しんで、さめざめと泣いていた。

 限りなく自然消滅に近い別れ方ではあった。互いに2回目のデートを提案することもなく日々が過ぎていく中、よせばいいのに、白黒はっきりさせたいところのあるムスメ、自分たちの関係について問いかけちまった。そしてムコウが「ゴメン」と答えちまったことが決定打となった。結果的にフラレたカタチとなり、ムスメは必要以上に傷ついた。

「だから止めたのに」と私は嘆いた。「男と女の別れのシーンでは『ごめん』と先に謝った方に軍配が上がるものなんだよ。いっそムスメから先に‘ごめんね’と言っちゃえばよかったのに。こういうところでレディ・ファーストを発揮できないようでは一人前のオトコとは言えんのじゃッ」

 そうはいってもそれほど単純な問題ではないのだろう。ムスメの心のケアについて考え始めた矢先、今度は三年の先輩に告られた。
「嘘みたい❤」とムスメは喜びを隠そうともせずに言った。「ずっと片想いしていた先輩だったの~」
 おぃ。片想いしてたってのは、いったいいつからだ?計算が合わないではないか、と呆れる母をよそに、2人の初デートは大成功を納めた。
 デートから一週間過ぎてもまだ「楽しかった~❤」を連発するムスメに、しまいにゃムスコと2人「るせー!」と怒鳴ったほどである。
 その後も、くま先輩の自転車の荷台に乗せてもらって田んぼ道を走ったのなんの、くま先輩と初めて手をつないでショッピングモールを歩いたのなんのと、今時珍しいくらいの超プラトニック・ラブ・インin埼玉を展開中。

 それにしても、高校生になってからまだ半年足らずだというのに、2人目のカレができるなんて生意気である。
 私も高1のときに初デートもどきを経験したが、その思い出は「恥ずかしい」の一語に尽きる。話の間がもたないとイヤだからなんて、愛犬を連れて行ったのが間違いだった。
 土手を歩いているうちに、ただでさえエキセントリックな愛犬(♂)が、突如発情。カレの脛に猛然とタックルしーの、マウンティングしーの、それでも足らずに道端で大便垂れーの。と、青褪める間もなく、次には
 クソ喰らえとばかりにカレの足元めがけ、後ろ足でクソまじりの土を飛ばしーの・・・。
 私は顔からぼーぼー火を噴き、「これで終わった、何もかも・・・」と悟った。
 人格者だったカレは、発情犬の失態など意に介さずいてくれたが、何より「美しい思い出」を尊重したいおバカな年頃の私にとって、カレは一刻も早く忘れたい恥部の一部でしかなかった。
 恋に発展しそびれた恥は、たったひと夏で終止符を打たれたのである。

 私が初めてムスメのカレ=くま先輩を見たのは、家の前。その日ムスメたちは生徒会の仲間と地元のグランドでバドミントンをやっていた。家に忘れ物を取りに来たムスメが、
「外にくま先輩来てるよ❤」というので、ムスコと2人、どれどれとTVモニターをのぞき込んだ。
 2つの市をチャリをこいで渡ってきたというくま先輩は、このときも荷台にムスメを乗せ、道交法違反を犯しながらムスメに寄り添い着いてきてくれたわけだ。
 しかし肝心のくまは隣の家の方を向いて立っていて、モニターには横向きの背中の一部しか映っていない。。
「カモ~ン、くまちゃ~ん♪」聞こえないのをいいことに、エド・はるみのような口調でモニターに呼びかける。
「チッ、こっち向かないかな、顔が見えない。ムスコ、冷凍室に入っているガリガリくんを持って、外の兄ちゃんに渡してきな! 渡すとき、モニターにうまく入るように、こっちの方に誘導するように」
「わかったョ奥さん」とムスコが冷蔵庫の方へ歩きかけ、突然叫んだ。「やべーョ奥さん! コレこっちの声、全部外に聞こえちゃってるよ!」
「げっ!!」

 結局くまは立ち位置を変えずにアイスキャンディーを受け取ったので、顔を拝むことはできなかった。
 でもやっぱりムスメのカレである。実物は見ておきたい。開き直って玄関ドアを開けると、ぬっと顔出しくまに挨拶した。
「いつもムスメがお世話になっております~~~」
 くまは、詐欺師に近い写り方をするムスメとは違って、プリクラの印象そのままの好青年だった。
 いきなり母親が顔を出すなんて夢にも思っていなかったらしい。豆鉄砲を食らった鳩みたいな表情のまま、一言も発することなく、ぺこりとおじぎを返してそのまま石像になった。

 後でムスメに聞いたところによると、くま先輩は私のことを、
「おもしろいオカーサンだね」と言っていたらしい。そして「オカーサンには似てないんだね」とも。

 似てないという意味が顔の造作のことならまだいい。私にはどうも、くまが人間性を指して母親とは似ても似つかないと錯覚し、一方的に安堵したような気がしてならない。
 くま先輩は、幸いにも母親に似ずに済んだムスメのことをますます愛しく思い、揃いのミサンガまで編んでプレゼントしてくれたのだった。

「ねぇ」と私はムスメに言った。「コレ・・・くまちゃんの手編みだよね?」
「うん❤すごいでしょう? くま先輩って器用だよね~❤」
「そうじゃなくて、ソレって普通おんなの子が作ってカレに渡すものでしょ?」
「そう?」
「‘そう?’じゃねーだろ。受験生の手を煩わせてどーすんだ。おんなの子なんだから、そのくらい自分で作ってプレゼントしてあげなさいョ。どう考えても逆ですョ、逆!」

b0080718_142534.jpg「くまにも受験勉強しろと言っとけ!」
などと無粋な台詞を吐きつつも、天国にいちばん近いくま(←New彼とニヤッ?)に感謝。いくら洗顔してもシアワセの文字が消えないムスメを見ていると、こっちまで天国に行った気分になる。

ムスメを愛してくれてアリガトウ。これからも仲良くしてやってください。お返しのミサンガは、くまちゃんよりずっと下手だと思うけど、きっと心を込めて作るはずです。
by vitaminminc | 2008-11-01 14:35 | Comments(4)

日々の暮らしに「ん?」を発見


by み茶ママ