私は狂っている

   ♪ 狂ってる坊主、てる坊主

          あーたし 元気に しておくれ・・・


仕事中に、席を立った。

近くにいた同僚に、事務処理のやり方を確認するためだ。

私の質問をすべて聞いた後で、同僚は少女のように笑った。

「ごめん、みん子さん、服、裏返し・・・」

私は、つむじ風のようにその場から消えた。

電話ボックスをトイレに替えて、クラーク・ケントのように素早く着直す。


身だしなみを整えた私は、席に着いて仕事を始めた。

さきほどの同僚が、笑顔でやってきた。

「さっきはどーも!」と私は笑いながら言った。「教えてもらって助かったー」

「いぇいぇ、それよりさっきの質問の件だけど・・・」

すっかり忘れていた。そういえば、質問しに行ったんだった。ふはははは。


仕事の帰りに、手作りパン屋に寄った。

トレーに7種類もパンをのせ、レジに立つ。

「ちょうど1000円になります」

「すみません、お財布忘れてきました」

引っ掻き回したバッグの中を恨めしげにチラ見して言うと、

お姉さんは「ひゃ」と短くつぶやいた。

そして両てのひらを耳の横まで挙げて、驚いたしぐさで静止。

それどころじゃないのに、「お。可愛い」なんて思いながら、口では

「すみません、いったん引き揚げます」

退散することを発表した。

「では、これらはいったん(陳列台に)戻しますか?」

お姉さんが私の目に問う。

「いえ。取り置きをお願いします」

さっきのお姉さんのびっくりリアクションが気に入ったので、何が何でも買ってやる。


20分前にびっくりして見せたお姉さんに、今度はにっこり見送られてパン屋を出る。

「ありがとうございました♪」

可愛い笑顔に後押しされた私は、そのまま近くのレンタルDVD店へ寄った。

先日借りたDVDのパッケージに、「開高健も絶賛!」とあったのを人に話したら、

「彼はすでに死んでいる」といわれた。しかも、映画が公開される19年も前に。

オーパ! じゃあ一体誰が絶賛していたんだ? 

真意を確かめたくなった。自分は何を何と勘違いしたのだろう? 興味を抱いた。


先日借りたときと同じ場所に、そのDVDはあった。

パッケージを手にとって、隅から隅まで目を通した。

どこにも「開高健」の文字はない。

「絶賛」の文字すらなかった。

思わず頬に手をあてた。

キツネにつままれた痕をなぞるように。


たぶん私は、狂っている。でなけりゃ、そうとう長い夢を見ている。
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by vitaminminc | 2010-03-31 16:08 | Comments(8)

卒業式当日に学んだこと

①安全ピンの安全性は奥が深い

たとえば、2年前に買ったフォーマルスーツ。

それに対し、2年間甘やかされ自由奔放に育った我が身。

余裕でおさまらなくなったものの、かろうじてスカートのホックがハマッたとしよう。

いつ弾け飛ぶかわからないホックの軽薄さに対し、心得のある人は、安全ピンで釘を刺す。

「弾けてんじゃねーぞ、こら」

ホックのバックアップ的補強に採用して思う。

もしや、安全ピンの「安全」て、単にピンの尖端をカバーしているから付いたわけじゃないかも?

ホントはもっと危機的状況における暗躍、安全安心を約束して精神面をもケアしてくれる、

その功績に対し「安全」という名の紫綬褒章が与えられた、

偉大なるピンなのではなかろうか。

ただし、前提としてのホックがハマらないのに、

無理して生地のみ安全ピンで橋渡しした場合、

その安全性は保障されない。


②赤子の腹巻百まで

たとえば、ムスコが小学校を卒業した晩、偶然懐かしい腹巻を見つけたとする。

赤ん坊の頃、おなかを冷やさないようにとムスコの腹に巻いた、

小さな水色の、伸縮性に富んだ腹巻である。

本当は、靴磨きの布として、第二の余生を送る運命にあった。

それが、倅が小学校を卒業した晩。

春だというのにやけに寒い、みぞれの降りしきる晩、母親の目に止まった。

腹巻は、靴磨きから一転、どのような余生を送ることになったろうか?

そう、腹巻は、ネックウォーマーとして、母親の首に巻かれ、その夢に付き合うことに。

「倅」という字は、「人」が「卒業する」と書く。

腹巻を首に巻いて(←ダサイ)、私も、ムスコからの卒業。
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by vitaminminc | 2010-03-25 16:53 | Comments(4)

てやんでいdream believer

春分の日の振替休日の22日。

ムスコが仲間5人と、小学校生活最後となるチャリ旅に出た。

インドアのゲーム遊びには露骨に嫌な顔をする私だが、アウトドアには気持ち悪いほど協力的。

せっかく仕事休みで朝寝坊ができると思ったのに、チャリ旅と聞いては眠ってなどいられない。

朝6時半に起きて、品には欠けるが具沢山のどでかむすびを、ムスコのために2つこしらえた。

沸かした甜茶をペットボトルに詰めて渡しながら、

「何時に帰ってくるつもり? あまり遅くならないようにしなさいよ」

と、質問だか詰問だかよくわからない言葉をかける。

「自分を見つけ次第」

とだけ、ムスコは答えた。

気取ってやがる。

夢見てやがる。

無性に羨ましくなる。

さらば、小学生のムスコ。
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by vitaminminc | 2010-03-24 18:31 | Comments(4)

無粋ズ・アン・アルバム

b0080718_1628617.jpg昨日、ムスコが卒業アルバムを持ち帰った。

卒業おめでとう!

ちょっと待て。まだ卒業してないではないか。卒業式は、5日後。24日である。

先生は、別に説明もなく配ったそうだ。

なんでやねん? 

想像①⇒卒業式当日は、忘れ物があっては困る。なるべく身軽に帰らせた方がいいから。
想像②⇒卒業式の前にじっくりアルバムを見る。楽しかった6年間に思いを馳せらせるため。
想像③⇒卒業式当日に欠席した児童が出た場合、アルバムを届けに行く手間を省くため。

②は、かなり好意的見方をした。ただし、うちのムスコには無効。まだ卒業していない身では、アルバムにそう何度も目を通す気にはなれない。

「まだ卒業してねーし。」

道具箱や図工の作品。ただでさえ持ち帰る品が多いところに、卒業アルバムときた。思い出というよりも、「重いで」のアルバム。

卒業アルバムというのは、卒業式が終わって、最後となる教室に集まったときに、配られるものではなかったのか?
ページをめくっては歓声をあげ、白紙のページには、みんなで寄せ書きとか・・・。

卒業の5日も前に配って、その日に持ち帰らせる。意図がわからない。
おそらくこれは、学校が決めたことではなくて、卒業関係のPTA役員による判断かもしれない。
卒業式に出られなかった児童宅へのアルバム手配など、厄介なことはわかる。
でも、あまりにも効率重視、事務的になりすぎちゃいないか?

まったく、無粋なことをしてくれたもんだ。

国民の祝日が、本来の記念日から「ほぼ月曜日」に変わった。その時感じた、喪失感にも似た違和感。同じような感覚を味わった。
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by vitaminminc | 2010-03-20 16:55 | Comments(6)

受粉

b0080718_2046962.jpg新雪に、目をかっ開いて、思い切り顔面ダイブ。
ジュッ! という、目玉の冷やされる音を聞きたい。

b0080718_20481696.jpg落差世界一のエンジェルフォール級の勢いで、
かっ開いた目に、目薬を点したい。


b0080718_2132396.jpgいっそのこと、
目玉おやじに
なりたい。
そんでもって、
風呂の茶碗の
湯を、
アタマから
浴びたい。




痒い。
痛痒くて、
毎晩眠れやしない。
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by vitaminminc | 2010-03-16 08:47 | Comments(14)

緊急事態発生

先日の朝、ちょいと雨模様だったので、会社へ行くのにバスを利用した。
バスの真ん中より後ろにある、2人掛けシートに腰を下ろして、ぼんやりと曇った窓ガラスを眺めていたら、すぐ前の席の女性が緊迫した声で、
「大丈夫ですか!?」
と腰を浮かせたではないか。
見ると、彼女の前に座っていた男性が、通路側に倒れかかっている。
私の前の女性はガバッと席を立ち、その男性が通路に倒れ落ちる寸前のところを両腕で支えた。
目が1.5倍になった。生まれて初めて、人が痙攣している場に居合わせた。シートの背もたれで、男性の顔は見えない。ただ、右腕だけが、不自然に捩れ、ふるえながら宙を突き刺していた。
男性を1人で支えるのは大変だ。男性が座っていたすぐ前の席の女性も立ち上がって、2人がかりで男性の上体を支えた。

緊急事態を察知したバスの運転手(女性)が、路肩にバスを停車させた。
通路を挟んで男性の真横に座っていた若い女性が、携帯で119番通報。運転手が電話を代わって、バスの位置を説明したが、彼女は気が動転していたらしい。バス停の名を挙げて、その近くだと告げたが、通りを1本間違えられたため、慌ててどのバス通りの、どのあたりであるかを説明し直した。
「いえ、お年寄りではなくて、まだ若いです──30前の男の方です」
男性の2つ前の席に座っていた20代の女性が、
「てんかんの発作に似てますね」と補足。
そのこともバスの運転手は119番に話した。
痙攣が治まると、今度は異常なほど大きなイビキをかき始めた。まさか、脳卒中!? みんなの表情が険しくなった。
「すみません、応急処置として何かすることはありますか!?──はい、衣服を緩めて、楽にしてあげるんですね? わかりました」
電話を切った運転手が、自ら男性のベルトを緩めながら、大きな声で乗客に言った。
「お急ぎの方は、もう次のバスが見えてきていますから、このバスを降りて、後ろのバスに乗り換えてください」
それを聞くが早いか、バスの真ん中より前にいた人たちは、大急ぎでバスを降りていった。

私は、降りることが出来なかった。
男性の上体は通路側に倒れており、2人の女性が通路に立ってそれを支えている。まして脳卒中だとしたら、動かすのは厳禁。そこをかき分け降りるなんて、とてもできやしない。非人道的すぎる。
私の心臓はバクバクいっていた。狭い車内。見守ることしかできない。見守るといっても、見えるのはシートの背もたれと、そこからはみ出た男性のかすかな背中と肩のみ。
2人の女性に混じって我が腕もと差し伸べる姿を想像し、腕に力を込めた。無駄な努力である。

すると、イビキが止んだ。意識を取り戻した男性が、自力で上体を真っ直ぐに立て直すのが見えた。

緊急停車中につき、駅への到着時刻が大幅に遅れる旨会社に報告し終えた運転手が、男性のもとに近づいて話しかけた。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「痙攣起こして意識を失ったので、救急車を呼んだんですよ」
「いえ、大丈夫です」
記憶がないせいか、男性はケロッとしたものだ。
冗談じゃないですョというように、運転手が眉間に縦皺を刻みながら言う。
「今日はもうお仕事は無理だと思いますよ」
「いえ。大丈夫」
「でも、もうすぐ救急車が来ますから」
「いえ、大丈・・・」
ここで、さっきまで彼を支えてあげていた女性を筆頭に、何人かが口を挟んだ。
「大丈夫じゃないですよ」
「そうそう」

普通に会話ができる以上、脳卒中の可能性は消えたが、脳梗塞の疑いは残る。仮にそうでないにしても、別の意味で新たなる緊急事態が発生していたのである。
男性は、このままバスに乗って、駅のロータリーで人ごみの中を降りるより、救急車で運んでもらい、搬送口から救急病棟に担ぎ込まれる方がいい。
乗客の誰もが、口にこそ出さないが、男性のためを思って心からそう頷いていた。

男性が、やさしいみんなの助言に従うことを確認するや否や、バスの後方にいて降りるに降りれなかった私を含む8人ほどが、急いでバスを降りた。後続のバスはとっくに行ってしまった。さらに次のバスが来るまでには20分待たなければならない。第二陣の我々は、駅目指して走るしかなかった。

私は、願うのである。
彼の記憶に、乗客たちが途中でバスを降りなければならなかった緊急事態が刻まれなかったのと同様、搬送先の病院でわかる緊急事態も記憶されなければいいなと。

あの時点では、彼自身はまだ気づいていなかった。自力で起き上がったときに、頭の上にのっていたものが、大きくズレたことを。
本来の正しい位置が12時の方向だとしたら、手の甲サイズの物体は、2時を指していた。物体というのは、茶色の人工毛のことである。

彼の発作は、おそらく癲癇によるものだったのだろう。意識が戻ってからの当人の反応が、あまりにも「慣れていた」からだ。
直接の知人ではないが、前に癲癇の持病がある方の苦労話を聞いたことがある。その方には幸い、元看護師の献身的妻がいて、移動の際は必ずご主人に付き添うという話だった。いつ襲ってくるかわからない発作に備えるようになったのは、駅のホームを1人で歩いていて、突然意識を失って線路に落ち、危うく命を落としかけて以来だという。

ちょっと切なくなった。
若い男性を支えて、「大丈夫ですからね、大丈夫ですからね」とやさしく腕をさすり声をかけてあげていた私のすぐ前の女性は、50代後半だろうか。男性の母親くらいの年齢だった。
私のムスコだって、そのうちすぐ20代になる。外見を気にする一方、健康管理の方はどうだったのだろう。発作を抑える薬、毎日きちんと服用できていたの? 飲み忘れじゃないとしたら、ストレスが溜まっていたんじゃない? 寄り添ってくれるような彼女はいないの? 
もっと自分を大切にしてほしい。自分のムスコに重ね合わせて、心からそう思った。

そして、ちょっと情けなくなった。若い彼に対してではない。乗り合わせた男性客らに対してだ。女性客より男性客の方が多かった。にも関わらず、男性客の、見事なくらいの存在感の無さ。
一声でも発したら、巻き添えを食いかねないとでも思ったのだろうか。会社に遅刻するわけにはいかないのは、男に限ったことではない。
発作を起こしたのが女の人だったのなら、身体に触れることを遠慮するのは理解できる。でも、彼は男だ。ズボンのベルトを緩めてあげるくらい、手を貸してあげたらよさそうなものを。あまりにも冷たい。

それとも、緊急事態に直面したとき、男とは、かくも弱い生きものなのか???
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by vitaminminc | 2010-03-05 17:15 | Comments(6)

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