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ガラスなワタシ

 朝食の支度をしていると、突然、自分の携帯が鳴った。斎藤和義の「やぁ無情」のオルゴール音である。

 それは、予め自分で設定しておいたスケジュールの告知で、たった三文字、
        ガラス
とあった。
 
「ガラス?」私は挑むように東の窓ガラスを見た。そして、ガラスの向こうの朝陽に意味もなくガンを飛ばしながらつぶやいた。「ガラスって、何だ?」

 愛しさと切なさと心強さのこもった声がした。

「ガラスごみ(正しくは資源ゴミ)の日、って意味でしょ」

 振り返るとそこに、ムスメの眼差しがあった。憐憫と諦念と恐怖を丸底フラスコに入れ、アルコールランプで沸騰させてつくった蒸留水、それを点眼したような瞳が私を見ていた。

「それ以外、ないじゃない」

 すぐそばにいるはずなのに、5mくらい遠く感じる。どん引かれているせいだろう。

 携帯のスケジュール機能を使うときは、次からは、もう少し肉付けすることにしよう。

 ガラスの資源ゴミを出す日

 これがそのうち、「ガラスの資源ゴミ(勝手口にあり)を出す日」

になり、やがて、

「ガラスの空きビン(勝手口の内側のレジ袋の中)を路地出て県道を左折、50m先の集積所に朝8時までに出しに行くこと」

まで入力しないと通用しなくなるのかもしれない。

 ガラス転移したようにキンキンに凍った脳みそを朝陽で温めながら、2階に向かって叫んだ。

「ムスコー! 早く起きてー! そしてガラスを出しに行ってー!」
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by vitaminminc | 2011-01-29 11:22 | Comments(0)

目の上の両極端コブ❤

ムスメ
b0080718_872454.jpg基本的人格:石橋を安全に渡るため、耐震強度の調査会社はどこがお安く信頼できるかを調べるも、結構費用がかかるじゃん、と断念。いいや、自分で耐震強度の計算方法を学んじゃえ!でも参考書にいくらかかるかな?タイプ。左脳は父親、右脳は母親譲り。少年ガンガンやメディアワークス系のアニメ、マンガが大好き。ハリポタのスネイプ教授、「オペラ座の怪人」のエリックといったダークエンジェルをこよなく愛す。カラオケの十八番はラルクやポルノ。
b0080718_21494245.jpgみなさまご存じのように、特にセンター模試では、余程レベルを落としめない限り、滅多にA判定をもらえるものでなく。昨年秋の判定で、「やった~!初めてA判定がもらえた!」と言うので、のぞき込んだら、そこには母親(私だ)の出身ガッコ名が・・・(て、てめぇ)。「奥さんのレベル知っておきたかったもんで♪」とニヤケるヤな子。ち、違うんだ、ムスメ、あの時代は、就職率が抜群に良かっ・・・。行く気ゼロのくせに、そんなオタマ使っておふくろの脳みそを味見するってか。でも、指定校推薦で昨年のうちにキメてくれてありがとう。チミの家計貢献には感服でぃ。チュッ❤ 
ムスコ
b0080718_2213987.jpg基本的人格:石橋を叩いたのでは手が痛ぇ(←素手で叩くという発想)。だからおいら川の浅いとこ探して、歩いて渡っちゃう♪タイプ(←実際素手でアユを捕まえるのが得意)左脳はPSP、右脳は母親譲り。だから半分ゲーム脳。昨年12/25にガッコの友人5人を家に連れてきた。ムスコみたいにムッサいのが6人も集まったら、家の中はムサムサだなと怯えていたが、ダチを迎えに行って連れ帰って来たムスコは、まるで引率の先生みたいだった。ムスコ以外は、まだ小学生でも通る初々しさ。小柄(←普通の背丈)であどけなくて、超可愛かった、ムスコと違って。
b0080718_2254652.jpg三学期に入ってすぐ、中間テストがないムスコのガッコでは、成績のもとになるに大事なテストがあったというのに、前日の晩、寒風の中、駅の方までチャリで逃亡。PSPを買うために。ソフトではない。あまりにもやりすぎて、1年ともたずに本体がぶっ壊れたからだ。反抗期の倅をも泣かす、1億ボルトの母のカミナリ。PSPに使おうとしていたお年玉は没収。え? 知ってますよ。親といえども法的には子どもの貯金を奪っちゃいけないことくらい。その後、悔い改めた様子を確認した姉(ムスメ)の口添えもあって、お年玉を返してもらえると知った、172cm50kg体脂肪率10%の羽交い絞めの錬【禁】術師が、母に抱きつき言うことには、「奥さん、愛してるよ!」

みんみん

b0080718_22293010.jpg基本的にゃん格:石橋に猫パンチを食らわせたりはしない。欄干をトテトテ渡っていくタイプ。いつも奥さんと一緒に眠る。時々胸の上に乗ってくる。ごふっ。可愛いけど、6キロだと苦しくて眠れません。

奥さん
044.gif基本的人格:石橋を叩いて渡ろうにも、石橋に辿り着けないド方向音痴。ムスコたちの間で流行っているゲーム[※]のことを「ファンモン」とか言っちゃって、「それじゃファンキー・モンキー・ベイビーズだョ」と周囲にツッコまれる昭和の女。
[※]モンスター・ハンター⇒「モンハン」が正解
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by vitaminminc | 2011-01-25 22:59 | Comments(4)

15万円アワー(←泡)

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 21世紀に入って丸10年。テレビ番組で、バブル期のきんぴか光景を目にした子どもたちに、こう聞かれたことがある。
「この頃は奥さん(←私のこと)もこんな感じだったの?」
 バカ言うでない。ジュリアナ東京のお立ち台に上がるには若干齢がいっていたし、マハラジャのドレスコード(服装チェック)に引っ掛かって門前払いを食らおうにも、店の場所さえ知らなかったのじゃ。
 みんな勝手に浮かれてろ。

 80年代後半から90年にかけての私にとって、バブル景気はどこか遠い地球外の星で起こっている雑音に過ぎなかった。その頃私は、個人史上類を見ない低迷期にあった。

 親戚縁者を巻き込む挫折を噛みしめていた私は、やがて渋谷に通うようになる。私の悲運に同情した大手広告代理店のお偉いさんの口利きで、小さなデザイン事務所で雇ってもらえたのだ。
 渋谷といっても、109がある口とは反対側。駅から10分ほど歩いたところにある事務所周辺には、当時、専門学校⇒ラブホテル⇒教会⇒産婦人科医院が軒を連ねるといった環境。まるで人生の縮図だな。思わず苦笑いしたものである。
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 広告代理店のお偉いさんに連れられて、初顔合わせにいった日、事務所には2人の男性しかいなかった。猫のガーフィールドに似た目と経営コンサルタントの肩書をもつ厄年の社長、それにもうすぐ三十路の建築パースのデザイナーが1人。
 社長は眠そうな目で言った。
「今のとこ私たち2人だけでね。給料は少なくて悪いんだけど、交通費のほかに月15万。来てもらう時間は、朝10時までに入ってもらえればいいかな、終わりは一応5時。こんな条件でよければ──」
 ロザン宇治原似のデザイナーは、愛想もなく無表情。逆に気が楽だった。
「どうぞよろしくお願いします」
 社長は髭の口元を緩めると、初対面の私に事務所の合鍵を渡してくれた。口利きがあるとはいえ、信用された喜びはでかい。傷心を癒やすサナトリウムとして、その小さな空間がすっかり気に入った。地下鉄に揺られる1時間の通勤時間さえもが楽しい。
 社長とデザイナーと私は、3日とかからず打ち解け合えた。気難し屋と聞いていた社長は、
「君は私のことをバカにしとるのか!?」
 私がおちょくるたびに相好を崩し、
「ねぇ~、どうしてわかってくれないんだよぉ」
 30近いデザイナーは、昼休みのたび私を口説く。
 近くのレストランで、自分の皿に盛られたライスの半分を、デザイナーの皿にあけながら、やんわり断る。
「人と関わるのが、まだしんどいから・・・」

 朝事務所に着くと、まずはラジオのスイッチを入れる。FM横浜から流れる音楽をBGMに、トイレ掃除を済ませ、社長室と事務所にモップをかける。コーヒーメーカーに珈琲豆を入れて、いい香りが漂う頃には、デザイナーと社長が持ち場についている。
 私は、社長が下書きした報告書をワープロでまとめたり、デザイナーの版下づくりを手伝った。事務所にやってくるのは、大手広告代理店のクライアントのほかは、モップ交換にくるダ○キンスタッフ、ワープロとコピー機のメンテナンスにくるキャ○ンの営業マン、そして富山の薬売りのみ。たいへん居心地が良かった。

 半月もしないうちに、社長は私に現金を持たせると、使いを言いつけた。
「これ、駐車場代。駅前の○○銀行まで行って、振り込んで来てくれるかな」
 銀行に着いて、預かったセカンドバッグの中身を確認して驚いた。振込用紙に社長の字で記入してある数字も、入っていた現金も15万!! 私の給料と同じやないけ~。
 事務所に戻った私は、隣室の社長に聞こえないように、小声でデザイナーに尋ねた。
「駐車場、何台分借りてるんですか?」
「え? 1台に決まってるョ」
「でも、15万ですよ!」
「ぅ~ん。ここの地下駐車場を借りてるんだけど、一応、渋谷の一等地だからね」
 自分の給料でバブル景気を実感するのは至難の技だったが、同じ金額を駐車場代に置き換えれば、まさに時はバブル絶頂期だったのである。
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 個人経営の社長ほど金持ちだと聞く。ガソリン替わりにビールを注いでも走りそうな、いかつい車に決まっている。
「メルセで~す♪」
 しかも、社長が車を使うのを見たことがない。お飾りか税金対策(どんな?)だな。
「車が珈琲入れる? コピーとる? ただデンと座っているだけのくせにィ~~~」
 憤慨する私を見て、おかしそうに笑うだけのデザイナーだったが、私を口説くことは怠らなかった。
 毎日呪文のように口説かれ続けていると、さすがの私も逃げ口上を失う。仕方なく、デザイナーに勧められるがままに、「自己啓発セミナー」なるものに参加した。
 あ~。だから断っていたのに。デザイナーが絶賛するような‘効果’は、私には皆無だった。実感できたことといったら、啓発というより軽率だったの一言。名を伏せた新興宗教としか思えない、自己啓発セミナーの参加費。これがまた、お誂え向きにも、15万ときたもんだ。見事に泡となって消えてくれた。
「どうだった? 次のステップのワークショップにも、もちろん参加するよね?」
「し、ま、せんッ」
「なんで?」
「私には、合わないから」
「えぇ~~~!?」
 って、私の給料を知ってれば普通誘ったりできないでしょう? デザイナー自身が洗脳されているだけに、始末が悪い。

 それでも丸1年、この事務所で英気を養った私は、自分にとっての次なるステップ、転職に成功。無事サナトリウムを巣立つことができた。(まぁ、その後も懲りずに挫折しちゃうのだが)

 であるから、バブリー時代の思い出は、15万というキーワード以外に思いつかない。少々情けないので、子どもたちには曖昧に答えておいた。
「もともとああいう軽率そうなノリは好きじゃなかったから、ハマラナイノジャ(←マハラジャのつもり)」
 

 
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by vitaminminc | 2011-01-22 15:59 | Comments(4)

ムキムキとボキボキ

ファイブ、シックス、レディーGO!
 ホームベース、もう一度! 
 次はターンするわよ!
 スロースロー、クイッククイック、 
 そう、フラフープするみたいに~ 
 まわって、まわって、正面! 
 両手を動かすとカロリーがたくさん燃えるわよ~♪ 
 腰を上げて、アップアップ、正面!
 調子はどーぉ? 
 ラスト! 腰を左右に、アウトアウト、インイン!
 

 私の職場では、よく物の貸し借りが行われる。たいていはベストセラー本。  が、今回まわってきたのは、3枚組のDVD。

 あの女性お笑い芸人クワバタリエのウエストを85cm⇒65.4cmにくびれさせたことで有名な「コアリズム」である。  噂では、専門インストラクターについて指導を受けないと、映像だけでマスターするのはなかなか至難のわざらしい。  ラテンのリズムにのって腰を振る、超セクシーダンスで痩せられる。

 リズム感がなく運動音痴な人でも簡単に楽しくメリハリボディーが手に入る──というのだが。
 借りてきた晩、早速ムスメと二人でトライしてみた。やたら動きが速い。速すぎる。
 私の動きは、ダンスというよりトイレを我慢しているコドモに近い。
 わかりにくい人用に、親切にバック機能というのがついている。 
 インストラクターの動きを正面からだけでなく、背後から確認することができるのだ。
 背後からだと、インストラクターのムキムキボディーが際立つ。
 まるで筋肉という鎧を身にまとった女性戦士。
 
 腹斜筋がつきすぎて、くびれそこなったウエストが眩しい。 
 そんなムキムキとして硬そうなヒップを追いながらターンを繰り返していると、 
 私の硬い膝がボキボキ鳴り出した。
 横でタコ踊りのようになっているムスメとふたり、ひたすら爆笑。おかげで腹筋だけは使った気がする。
 karaの「ミスター」のヒップダンスを真似ても尻文字にしかならない私である。  DVDの「基本プログラム」から学んだことは、 まずはコンドロイチンを飲んで膝を黙らせるこったなであった。
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by vitaminminc | 2011-01-19 11:52 | Comments(0)

エキサイトブログ(に)口上言うんかい

いつもエキサイトブログをご利用いただき、誠にありがとうございます。

この度、スパムコメント(迷惑コメント)へのセキュリティを強化し、
スパムコメントのみ、自動的に承認制になる仕組みとしました。

承認制のコメントは、ブログの持ち主が承認するまで、ブログには表示されません。

スパムコメントの削除は、管理画面の「コメント管理」より、行ってください。

※マイブログへのコメントを「承認制」に設定していなくても、エキサイトブログ側がスパムコメントと判断した全てのコメントが、自動的に承認制になります。

今後ともエキサイトブログをどうぞ宜しくお願い致します。



 エキサイトブログ向上委員会から、昨年12月27日付で ↑ かような告知文が発表された。
 昨年の──特に夏以降からだったろうか──やたらスパコメが増殖し、か~な~り~ゲンナリさせられていた。それだけに、こうした対策は非常にありがたい。大歓迎である。
ぃゃ、むしろ遅すぎたくらいだ。

 効果はてきめん。自分のブログを開いて、最初にぅげッとなることがなくなった。
 スパコメを見つけた時のテンションの下がり具合は、道路で犬または猫あるいは人の糞を踏んだ状況に匹敵する。時には糞の処理だけしてブログを閉じてしまうなんてこともあったし、自分の文中の何が糞を呼び寄せたのだろうと無意味な検証に数フン分間費やしたことも。

 向上委員会委が動いた背景には、同様の被害者からのクレームが相当量に達したことが考えられる。残念ながら、私は今回の向上に一役買うことはなかった。文句をたれる気力も失せるくらい、体調が悪かったからだ。てやんでぃ。

 さて。効果を実感するには、まだまだサンプル(ブログの更新)の絶対量が少ないが、これからもエキサイトブログの向上を切に願うことに変わりはない。

 この先、また何かしら良からぬ事態になったれば、ぜひ若ぇもんが拳を振り上げ、委員会に掛けあってくれ。
 そして、わしら半世紀以上ニンゲンがいつでも快適に利用できるよう、常に目を光らせるのじゃ。

 よいな?
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by vitaminminc | 2011-01-14 17:40 | Comments(2)

ふるふるふる・・・

10日以上も前の話。
今年は初夢を見そこなった。
まーったく記憶にない。
あ~、もったいないと嘆きながら横を見ると、
まだ初夢の中にムスコがいた。
携帯を手に取り、シャッターを切る。
手もとが震えてうまく撮れない。
ふるふるふる・・・

ムスコはばあちゃんちでかい巻き布団を借りて寝た。
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←このような布団を

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←このように掛けて寝たはずなのに

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なんで頭に被っているのだ、うちのムスコは?

初夢は見逃したが、面白いモノを見て初笑い出来た。
ふるふるふる・・・
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by vitaminminc | 2011-01-13 12:45 | Comments(0)

ハナシ過多教室

 ひっじょーに遅くなりました。
 あけまして おめでとうございます。
 みなさまにとって幸多き一年でありますよう──心よりお祈り申し上げます。


 大晦日、実家に帰った。いつものようにカラオケや銭湯といった恒例イベント(小さい)をこなし、あれよあれよという間に年明け2日目。初夢も思い出せぬまま、今度は母を伴い自宅へ戻った。
 母は1926年=大正15年生まれである。早見表で齢を確認したら、ぎょぎょぎょビックリ、今春86歳になってしまう。私の中では、いっててもせいぜい83歳だったのに・・・。実家で目にした新聞記事「高峰秀子さん(86)死去」に衝き動かされたように、突然母を連れて帰りたくなった。

 自宅に戻ったあくる日、母を日帰りの天然温泉に連れて行った。左足の具合が悪いという母の腕を取って、ゆっくり横を歩いた。風呂上りの母の髪にドライヤーをかけ、ブラシで梳かしつけた。母の顔に化粧水を塗布し、クリームを伸ばした。足に恩湿布を貼り、布団の中に湯たんぽを入れた。
 その翌朝には、母に化粧を施し、映画「武士の家計簿」を観に連れていった。母はお人形さんのようにおとなしく微笑み、「ありがとう」を幾度も連発していた。
 映画館を出てすぐに、葛飾の実家まで母を送り届けた。車から母をおろし、そのまま帰ろうとする私に向かって、母は両手を合わせた。
 「ほんとうに楽しかったわ。淋しくなっちゃうわねぇ。今夜はみん子がしてくれたことを1つ1つ思い出しながら眠りに就くわ──」

 ↑ これだけ書くと自分が自分でないくらい、もんのすごい孝行娘のようだが、現実はちと違う。
 一緒にいる間、母はたいていは饒舌であった。それだけなら何の害もないのだが、母の話は十中八九聞く者に危害を加える。
 車を運転しているときなどは要注意だ。突然、こんなことを言う。
 「あら? こっちでいいの?」
 道を知っているわけでもないのに、平気でこんなことを言う。
 「運転中に道の話はしないでって何度も言ってるじゃん(怒)。関係ない話ならいくらしてくれてもいいけど、道順に関することで何か言われると、慣れた道でも一瞬『え?』って思って、頭ン中で立ち停まっちゃうんだよー。アブナイから止めてって何度言えばわかるのー(怒)」
 ごめなさ~いと笑う母に、この注意はすでに15年間繰り返している。
 さらに困ったことには、母の話は要領を得ないことが多い。蛇足つき+主語抜けなので、単に聞いていればよいというものではない。推理力並びに細かな確認が必要だ。
 たとえば、こんな ↓ 調子。実家で私が食器を洗っているそばで、届いたばかりの年賀状を眺めながら──。
 「あら。この方。今まで年賀状なんてくれたことなかったのに。ねぇ、みん子ちゃん。ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど」
 「いいよ。何?」
 「あのね、去年××会の集まりで旅行に行ったんだけど──」
 「うんうん。ちょっと待って。ねぇ、お母さん。こうやって汚れた食器を桶の中に浸けるのは止めてって何度も頼んでるじゃん。コレやられると、汚れていない食器の底面まで油汚れがまわっちゃって、汚れを落とす労力が二倍必要になるし地球に優しくないからって、もう何年も前から説明しているのに。こっちに泊まっている間は全部私が洗うから(食事の用意もな)、お願いだから、こうやって(私の子どもたちに運ばせた食器をわざわざ)桶に全部ぶち込むのだけは止めてくださらんか」
 「はいはい、わかりました」(←ちっともわかっていねー。このやり取りもかれこれ20年続いている)
 「で、旅行がどうしたって?」
 「それがね、45人乗りのバスだったかしら、ぃゃもっとかな、とにかく50人かそのくらいは乗れる大きなバス(正確に何人乗りか、はこの際どーでもええ)を頼んだのに、申し込み者の数が足りなくて、あぁこれじゃー50人に対してせいぜい30人の参加でしょ、1人あたりの負担額が嵩んでしまうってわけなのね」
 「ふんふん」
 「それで、頼まれちゃったの。『みん母さん、どなたか誘ってくださいませんか』と、こういうわけなのよ」
 「ちょっと待って。その旅行って、去年行ったんだよね?」
 「そうよ」
 「過去形だよね?」
 「そうよ」
 「なら、さっき言ってた相談て何なの?」
 「あぁ、相談ていうのはね、要するに誘ってくださいって頼まれたから、毎朝ラジオ体操で一緒になる、ラジオ体操ってのはホラY神社の──」
 「場所なんかどーでもええ(怒)」
 「あぁ、それでラジオ体操で一緒になる川向こうのSさん、この人はもう旅なれている人で、声をかけたら気持ちよく『いいわよ』って喜んで参加してくだすったの。それも、ほかにお友だち2人も誘ってくだすって」
 「それは良かった、貢献できたじゃない」
 「そうなのよ。ところが、旅行先でトラブルがあったのよ」
 「ほーお。どんな?」
 「向こうに着いて、バスを降りて自由行動に移る前に、Tさんがみんなに伝えたのよ。『それでは何時何分に電車の××停留所前に集合』って。電車といってもJRとかじゃないわよ。そこの大きな自然公園のまわりをぐるりとまわって走っている小さな電車で」
 「ああ、よくあるよね。観覧車?」
 「だからだと思うのよね。年賀状なんか一度ももらったことないのに、今年になって急に──」
 「は?」
 「いい? 読むわね。『去年の旅行は大変でしたね。今年もどうぞよろしくお願いします』って。これ、きっと私に対して、思うところがあったから、だと思うの」
 「ええっと、何の話? その年賀状をくれたの、誰?」
 「だから、会長さんよ」
 「え? Sさんじゃなくて? Tさんでもなく? 会長って、旅行の会の?」
 「旅行の会なんてないわよ。話し方教室で一緒だった人たちが、有志でつくった会」
 「知るかぃ」
 「それに、Tさんのわけないでしょう。そもそもTさんがSさんたちを辞めさせるって、この間わざわざ電話寄越したくらいなんだから。それにTさんは毎年年賀状は下さるし」
 「ならSさんは旅行に参加できなかったんだ?」
 「この前のには参加できたの」
 「この前っていつ?」
 「だから去年、私が誘った旅行」
 「(イライライラ・・・)あの~、ハナシが全ッ然わからないんですけど。いったい私に何を相談したいの?」
 「わからない? 今、順を追って話そうとしているとこなんだけど」
 「順を追ってないと思う。あっち行ったりこっち行ったり」
 「(ゴホン)え~と、そうそう、要するにSさんたちが、Tさんの話を間違って受け取っちゃったらしいのよ。園内を走る電車の停留所に集合するんだったのに、外の駐車場の、バスに乗って待ってたんだから」(←耳が遠くなっているのでやたら地声がでかい)
 「あらまー」
 「もう、大変だったのよ。人数が揃わない、戻って来ないのは誰だーって、誰かが『みん母さんが紹介した人たちが戻って来ていない』って騒ぎ出すし。もう気が気じゃなかったのよ」
 「声をかけたのはお母さんだものねぇ」
 「結局みんな40分待ったの。とうとうその観覧車の最終便が出発するって時間になったでしょ、仕方なくみんなでそれに乗って、駐車場で待っているバスのところまでまで戻ったわけ。そしたら、なんと! Sさんたち3人が、バスに乗って待ってたって、こういうわけなの!」(←最初すでにそのことに触れたことを忘れているのか? ドラマチックに盛り上げて話す母)
 「それで、私に相談というのは・・・」
 「もう、怒っちゃったのよ。Sさんが謝らなかったせいもあって」
 「誘ったのはお母さんなんだから、お母さんがSさんたちと一緒に行動してあげるわけにはいかなかったの?」
 「いや、そういうもんでもないのよ。頼まれたから声はかけたけど、あちらはあちらで親しい人たちと一緒に参加してくれたわけだから、その人たちと行動する方が気楽でしょう?」
 「ふ~ん。なら怒ったってしょうがないじゃ・・・」
 「SさんはSさんで、自分たちが聞き違えたとは思ってなかったのよ。むしろ逆にみんなのことを待っていた、くらいのつもりだったと思うわ。ほかの人に『あなたたちを40分も待ったんですよ』って言われてキョトンとしていたくらいだから。その場でしっかり謝っていれば、少しはTさんの気持ちもおさまったんでしょうけど」
 「え? 怒ってるのって、お母さんじゃなくてTさん?」
 「私じゃないわよ。私はただハラハラしてただけ(笑)」
 「主語がヌケてるんだもん。じゃあ、40分もみんなを待たせたSさんたちに対して、怒っているのはTさんなのね?」
 「そうよ。そう言わなかったかしら?」
 「言ってねーョ(怒)」
 「Tさんが、年末私にわざわざ電話してきて、『幹部会にもかけますが、次の旅行からは、Sさんたちには辞めてもらって、参加は会員だけに限らせてもらいます』って、こうなのよ。ほかにも時間に遅れてくる人たちは何人もいたのに。土産物店に停まった時には、元学校の先生ともあろうお人が、たーくさんお土産買って、バスの出発時間を15分も遅らせたり──」
 「団体行動は時間厳守でないとねぇ」
 「そうやって遅れてバスに乗って来た人たちは、その場でごめんなさ~いで済んじゃったけど、Sさんたちは何しろわかっていなかったものだから、謝り損ねちゃったのね。それでTさんが私に電話してきて、『あの方たちは後になって会長には詫びたらしいが、わたしには謝らなかった』って言うの」
 「お母さんに電話してきたってことは、お母さんを暗に責めているのかな?」
 「いえぃぇ、そういうわけでもなくて、私が謝ったら、『みん母さんが悪いわけではないので、みん母さんが謝る必要はない』って言われたわ」
 「紹介者だから、一応断わりを入れておいたのかな。でもお母さん大丈夫? Sさんたちと気まずくならない?」
 「そうなのよ。Tさんに電話であんなふうに言われて、『私はこれからもSさんとはラジオ体操で顔を合わせるんですよ』とやんわり話してはおいたけど、何も変わりそうもないわね」
 「待て待て。ちょっと待って。最初に言ってた相談て何?
 「ああ、それで、年賀状の返事をどう書こうかと思って」
 「え!? そっち!? あ、そうか。頭数を合わせる都合上誰か誘ってくださいってお母さんに頼んだ手前、こんな結果になったことを申し訳なく思って、労いの意味で年賀状をくれたわけね? 会長さんは」
 「あら、違うわよ。10人くらい誘ってもらえないかって私に頼んだのは、会長じゃなくてTさんよ」
 「なに~~!ィ?  人にそんなことを頼んでおいて、好意で参加してくれた人たちが、決して悪気があったわけではなく、聞き間違えてチンプンカンプンな場所で、それでも律儀に早めに待っていた、そのことを許せないってのはずいぶん了見が狭くはないですかい? 大体ね、『後になって会長に詫びるだけでなく全員に詫びて欲しかった』とゴネるならまだしも、自分には謝らなかったと腹立てて次から参加させないってんでしょ? その上から目線、半端じゃないね」
 「後で自分たちが間違っていたとわかったんでしょうね、Sさんラジオ体操に来ても、しばらくは気の毒なくらいショボ~ンとしていたのよ。ほかの人に、『Tさんに直接詫びに行ったら?』なんて言われてたけど、『そこまでして次も参加したいとは思わない』って。当たり前よねぇ」
 「そりゃそーだよ。そこまで厳しくするなら、もうみんなご年配なんだし、間違いがないように口頭じゃなくて、細かい時間と場所を書いた日程表でも刷って配布しないと。けどTさんてそんなにエライの? 会長よりも? なんだか会長もTさんに遠慮しているような気がする」
 「そうねぇ。実際旅行を計画して仕切ってくれているのは全部Tさんだから」
 「ふ~ん・・・」
 「あ~困ったゎ。会長さんからこんな年賀状もらって、何て書いたらいいかしら」
 「『大変でしたね』、につられてTさんの愚痴を書いたりしないでね」
 「そうね。お正月からソレはマズイわね」
 「今年もよろしく、程度でいいんじゃない?」
 「そうしておきましょう♪」
 「ホント、大変だったね(相談の内容を聞き出す私がッ)」

 ムスコの意見 ↓ 
 「あばーちゃんのハナシ、小学校低学年並みにわかんない。奥さんとの会話聞いて、ねーちゃんと二人でず~っとニヤケてた」
 母の意見 ↓
 「これじゃ話し方教室に通っている意味がないわね」(←少なくとも20年以上通っている)
 私の意見 ↓
 「通ってくれ。通わなくなるともっと恐ろしいことになるから通ってくれ」

 母娘の間とはいえ、高齢の母に対し、つい叱り口調になってしまう。そんな自分がこの上なく憎たらしく、またダラダラと長ったらしいこの文面に、呪われた血筋を感じずにはいられない年始なんであった。
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by vitaminminc | 2011-01-05 17:40 | Comments(7)


日々の暮らしに「ん?」を発見


by みん子

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