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必笑技

ムスコは毎日部活をやって帰ってくる。
だから帰りはジャージで帰ってくる。
学生服は、学校指定のボストンバッグに突っ込んで帰ってくる。

帰ってきたら、すぐに学生服を取り出し、ハンガーにかけろと言ってある。
毎日「早く出してかけろ」と言っている。
自分からやりゃしないから、いちいち声に出して言っている。

その日もそうだった。

「毎日毎日、何度同じことを言わせるんだ! 
早くハンガーにかけなさい!」


するとムスコはこちらに背を向けたまま、私をなだめた。

「まぁまぁ奥さん、今すぐ機嫌直せるから、ちょっと待ちなさい」

そして、クルッと振り向いた。

「ぎゃはははは・・・」

笑い崩れちまった、不覚にも。

ヤツは加湿器を使い、思い切り自分のメガネを曇らせてから振り向きやがった。

君の瞳に完敗。
by vitaminminc | 2011-03-10 10:59 | Comments(2)

生き字引の独り言

朝食を食べながら、ムスコが何の気なしに誰にともなく質問した。
着やせって、どういう意味だ?」
ムスメが即答した。
奥さんみたいな人のことだよ」
ムスメのものさしは形状記憶合金でできているのか、それ以上は口を慎んでいる。ムスコはムスコで、イマイチ理解できない様子だ。
なぜ腹を立てなかったのか。そのときの自分に問いたいもんだが、まったく腹が立たなかった。
逆に、なんと的を射た答えであろうと感心し、生き字引的解説委員として、講釈まで買って出たのである。
「服を着ると実際より痩せて見える人のことだョ」
「ああ」
ムスコは口角を緩め、即座に納得しやがった。

数日後の朝。私が何か伝えたことに対し、ムスコがおざなりに低~い声で生返事を寄越した。
「mw---」
「低いよ~~」そう私が抗議したとたん、ムスコが機嫌を損ねた。
「しょーがねーだろッ!」(←普通に声が出る)
「なんで怒るの?」
「はぁ? 声が低いのはしょーがねーだろッ」
険悪ムードを感じ取ったムスメが仲立ちに入る。
「あんたがハッキリ返事しないのが悪いんじゃん」
母に加勢したのがカチンときたのだろう、ムスコはますますご立腹だ。
「声が低い、声が低いって、バカにされてる気がすんだよッ」
「バカになんかしてないよ」
ムスコは母には応えずに、そのままぷいっと玄関に行ってしまった。
腹の中では、そこまでする必要はないと思いつつも、後を追う。
「気をつけて行きなね」
「む」
「忘れ物ない?」
「む」
「いってらっしゃい」
「む」
の三連発だけ返すと、母の目も見ずヘルメットを被り、大きくチャリンコをひと漕ぎして視界から消えた。

「あいつの(怒りの)スイッチがよくわからない」
居間に戻ってムスメにぼやく。
ちょっと前までは、ムスコの声が低いことをからかうと、わざと地声よりも低い声を出して、モザイクのかかった悪徳詐欺に手を貸した人の証言VTRの声真似をして笑わせたではないか。。
声の低さだけではない。図体がでかいことに関しても、キッチンに入ってくるとすごい威圧感を感じるので、
「でかいよぉ、邪魔だよぉ、出てけよぉ」
と追い出されそうになっても、わざと上から見下ろしては、私を笑わせた。

しつこいからじゃない?」
ムスメの一言で、今度は私のスイッチが入った。「着やせ」じゃ入らなかったスキマスイッチが。

るせー!
声が低いとかでかいとか。そんなもんは、私の中では日常の挨拶のようになっていたのだ。そしてそれには、
「こんなにでかくなって・・・」
という、一種の感慨のようなものも当然含んでいたのだ。
ムスコもムスコで、
「何で奥さんそんなにちっせーの? 毎日縮んでんじゃね?」
なんて私を見るたび笑っていた。

よーしよしよし。そうくるんだな。
毎日おめーらにごはんをつくって、しつこくてごめんよ。
毎日おめーらの汚した服を洗って、しつこくてごめんよ。
謝っても謝りきれないってんだよッ。けっ!

ま。親の心子知らずとはよく言ったもんで。
実際自分も反抗期の頃は、親と自分は別世界に生きていると確信していた。
同じ釜の飯を食べさせてもらいながら、よくもそんな勘違いができたなと。

結局のところ、私の質問に「しつこいからだ」と返したムスメには、何一つ文句は言わずにおいた。
言われてみれば、でかくなったムスコの威圧感さえ喜ばしく、何度も同じ冗談を繰り返した気もする。

それぞれのスイッチのONとOFFをわきまえて、これからも私は生きていくんだ。字引としてな。
by vitaminminc | 2011-03-01 12:32 | Comments(4)

日々の暮らしに「ん?」を発見


by み茶ママ