たかだか(日本人の10人に1人は所有しているという)胆石を採った程度のことで、どんだけ物語るんだ。
これじゃすき家のうな丼のタレだけで、ごはんを5杯お代わりしているようなもんだ。
そんなクレームを受けそうなので、立て続けになるけれど、言い加減最終章に持ち込もうと思う。
ふはははは。


いや~、あたしゃ驚いたね。
人間ドックを受けた先の病院では、エコー画像を見ながら、センセイがこう説明した。
くていのは、コレステロール由来の結石の特徴ですから」と。
確かに自分は10年来のコレステローラー。
ああそうなんですねと納得した。

だから周りの友人・知人には、「白い珠」の持ち主であることを公言してはばからなかった。
「少なくとも3個、いえ、4個はあるらしいの。大真珠♪」みたいに。
しかし、地トモ(地元のおともだち)のAちゃんだけは、「絶対黒よ」と言い張っていた。
「腹いヒトからはい石が採れるのよ」
「でも、エコーの画像は白かったよ!?」
「あはは、白く見えるってことは、実物は(反転するのだから)その逆ってことじゃない」
マジか!? でもレントゲン写真で見る骨格は、白いではないか。実際ヒトの骨も白いゾ。
もう、エコーとレントゲンの区別もつきゃしない。
何より医者が「丸くて白い」と言ったのだ。
清い心の私のおなかには、白い真珠があるに違いない。
Aちゃんはやさしいくせに、私をからかうことがとても好き。冗談を言ってるだけざんしょ。

とにかく、少なくとも黒じゃないことだけは確かですョ、そう信じていた。

ところが、手術を終えて肩で呼吸をしている母親の目の前に、ムスメが
029.gif「ほら、こんなのが採れましたぜ」
と見せて寄越したのは、想像していたものとは正反対
いびつな形状の、真っ黒い塊なのだった。
「え”? これ? 黒いのぉ?」
はぁはぁ呼吸しながら、なんじゃこりゃと落胆した。
029.gif「私も、こんなに黒いとは思いませんでしたよ」
ムスメも苦笑。

b0080718_11501479.png
かたちは、金平糖。
そして、見た目の色艶は、正露丸。
b0080718_11511557.png
それが、合計3個。
突起部分があるせいで、医師の目にも4個に見えたりしたのだろう。
b0080718_11525779.jpg
b0080718_11545215.jpg
ホルマリン漬けにされた、私が生み出した結晶。
3個横並びで、親指第一関節内に収まるサイズ。

翌日、主治医のM先生に「これは何由来の結石ですか」と尋ねたら、
「ビリルビン結石で間違いないと思いますよ」と即答してくれた。
「褐色だったり黒かったり、そういうふうに形がボコボコしてるのはネ」

ビリルビンとは?
どうやら赤血球の主要構成物の一つであるところの、ヘモグロビンの分解代謝物とやらを指すらしい。
これが結晶化してしまうということは、要するに私の身体の代謝能力が追い付かなかった結果だろう。
よくはわからないが、脂質代謝異常によってできる結石がコレステロール結石であるのに対し、私のは赤血球由来だと。

そういえば、リカバリールームを出た翌朝、ナースステーション前で体重を測ったら、入院前に比べて4キロも減っていた。
手術の成功以上に嬉しかったけれど、今では病院のアナログ式体重計の精度を大いに疑っている。
帰宅してから家にあるタニタの体重計で測ったら、2キロしか減っていなかった。入院中と食べる量は同じにも関わらず。
しかも、その時点で2キロ減っていたというのに、体脂肪はまったく変わっていなかった。

そしてその2キロは、静養中確実にわが身に戻ってきた。
まるでご主人の帰還を喜び尾を振りじゃれつく小犬のように。


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by vitaminminc | 2016-11-20 12:33 | 人間 | Comments(2)

え~~~~っとぉ、こちらが私のお腹から石を取り出して(オオカミと七匹の子ヤギか)くれた、
執刀医のダ・ヴィンチ先生です053.gif
b0080718_09130509.png


























違~うッ!
このダ・ヴィンチを操作して、無事に手術を成功させた執刀医はいずこに?
不思議なことに、私はその執刀医(中心となって手術をする担当医)の顔を一度も見ていない。
入院初日には、薬剤師、麻酔医が「私が担当します」と挨拶にみえた。
そして、手術当日の朝には執刀医が挨拶にみえる。
この担当医挨拶システムは、入院中、病室内で他の患者の動向を注意深く観察して学んだので、間違いない。

しかし、入院の翌日が手術だった私は、まだこのシステムを把握していなかった。
手術当日になっても執刀医が顔を見せに来ないことに、なんの疑問も抱かなかったのである。

事前処置をほどこされて、いよいよ手術室へ。ここまでは自力で歩いていく。
ド近眼の私はメガネなしではあらゆる医療機器を破壊する恐れがあった。
眼鏡は手術台に寝かされてから外した。
「おはようございます。覚えてますか? 入院した日に挨拶にいった、麻酔医の□□です♪」
ああ、かなりぼやけてはいるが、確かにあの若い先生だ。相変わらず笑顔がやさしいなぁ。
ナースマン・鈴木に告ぐ。笑顔にまさる治療なし。悔い改めよ。

「おはようございます。本日の助手を務めさせていただく〇△です」
あら~。初めて拝見しますわぁ。なんて長身でスタイルのいい、カッコイイ美人さんなのでしょう。

「今ちょっと、まだ執刀される□〇先生が来ていないんですけど─」と麻酔医と助手がドアの方を見ながら言う。
遠くでドアが開いたようにも見えたが、とにかくド近眼なので定かではない。
気づけば麻酔医が、「点滴始めます。すぐに意識なくなりますからね─」
といって、私は夢すら見えない、空白の時間へと旅立ったのである。

手術の翌朝、リカバリールームにいた他の患者の元には執刀医が回診に訪れた。
が、私の元には来なかった。
午後になって、主治医のM先生が来た。
「どう? 大丈夫でしょ?」
私の顔色を見るというより、自分の顔を見せに来た感じ。高速で去りかけたので、慌てて呼び止めて、胆石の種類を確認した。


術後三日目。痩せて神経質そうな面立ちの女医が来た。
「執刀した□〇先生が出張で来られないので、私が代わりに来ました」そう言って胸のネームプレートを見せた。
「お変わりないですか?」
無表情な顔で問診。
「はい」というと、カルテにちょちょっと記入して去っていった。

──貴女だったのですね。
ネームプレートでわかった。麻酔科と耳鼻科に内線の取次ぎを依頼するときに名乗っていたから。
呼吸困難に陥った(正確には当人は呼吸が楽になったと訴えたけど、再挿管を決行)患者の身体で胃カメラのテストを行ったのは。

あの晩、私の隣人を担当していたのは、この女医(小柄。長身ではない)と、私を執刀したのとは別の男性研修医のチームである。
わが手術同意書に記載されていた担当医師名の中に、この二人の名がなかったのは、不幸中の幸いであった。

私の手術が終わった時点で、外で待っていたムスメに説明してくれたのは、主治医のM先生一人だけだったという。
ムスメの目の前で、母親の生肉的な胆嚢を、手袋をはめた手でモミモミしながら、
「うん、大丈夫かな、うん、大丈夫そうだ」
とだけ告げ、わずか30秒で説明が終了したそうだ。
いかにもM先生らしい。
おそらく、触診した感じでは、胆嚢自体に癌などの病巣はなさそうですよ、という意味だろう。

そんなわけで、とうとう執刀医の□〇先生とは、意識がある状態での対面は一度も果たせないまま退院した。
病院HPの医師紹介ページに、私を執刀した□〇医師の名を見つけた。
誠実そうで温かそうなお顔立ちだった。
「後期研修医」となっていた。
前期ではなく後期。ということは、それなりに場数も踏んで、研修医としてはベテランに違いない。

腕はすこぶる良かった。傷を最小限にとどめることができるってことは、的確な判断力、繊細な器用さをもっている証。
痛点超敏感体質のこの私が、たった3日間痛み止めの世話になっただけで済むなんて、奇跡としか思えない。
ムスコを産み落としたあとの会陰縫合部痛(←ほんの4針ほど)の時なんて、一時死にかけましたからぬえぇぇ。

今では憎めないキャラと化したM先生はじめ、手術に当たってくださった諸先生方、お世話になりました。
先生方のチームに当たったことに心より感謝いたします。ありがとうございました。



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by vitaminminc | 2016-11-20 10:37 | 人間 | Comments(0)

入院した日。
手続きを済ませた自分を入れて4組ほどの患者が食堂で待機していると、それぞれ担当の看護師が挨拶にやって来た。
「〇〇さんですね? 私が〇〇さんの担当看護師、△△です」
そういって、にこやかに自分の胸元のネームプレートを患者が見やすいように引っ張って見せている。
私のもとにだけ、なかなか看護師がやって来ない。
それともあの看護師さんが私のことも兼任していて、あの患者さんが終わったらこっちに来てくれるのかもしれない。
勝手に一番やさしそうな看護師さんを自分の担当と決めて、おとなしく待ってみる。

すると、廊下の向こうから、一人の青年がにこりともしないまま足早に近づいてきた。
ま、まさか?
「ホゲホゲみん子さんですね? 担当のもにょもにょです─」
わざととしか思えないくらい、自分の名前のところをぼかして話しかけてきた。プレートも見せようとしない。
え? ナースマン? ほかに男性患者は何人もいるというのに? 女性患者の担当を男性看護師にやらせる?
ツイてない。
率直に、そう思ってしまった。しかも、不機嫌なんじゃなかろうかと不安になるくらい、愛想の欠片もありゃしない。
提出書類をナースマンに渡すと、食堂の椅子に座ったまま、血圧と体温を測られた。
病室に案内されるとき、荷物はキャスター付きの台でナースマンが運んでくれた。
テレビはこのリモコンで、ナースコールはそこのオレンジので、とぶっきらぼうに超簡単に説明してから、
「ホゲホゲさん、こういった入院は初めてですか?」と訊いてきた。
「はい。あ、もしかして、さっき血圧高かったですか?」
「うん、脈拍もかなり。不安なんだろうなと思ったので」
キミの冷たい態度が私を不安にさせたのだよ。
されど、患者の不安の原因を確認しようとしているわけだから、悪い人ではなさそうだ。
「今日入浴されますよね?」
「はい」
「ならあとで予約入れておきます。係りの者が案内します。それと今、お臍を消毒しておきます」
臍~!?
ツイてない。改めて痛感した。
かくして、セガレほど齢の離れた若いあんちゃんに、臍を綿棒できれいに消毒してもらう羽目に。
とほほ。何が悲しゅうて、50も半ばを過ぎた身になって、若いあんちゃんに臍など見せにゃならんのだ。
向こうだって、ケッ、見たかねーよと思っていることは疑うべくもない。ホントすみません。

昼下がり。翌日に手術を控えた私のもとに、仲の良い仕事仲間が様子を見に来てくれた。
病室ではほかの患者さんの迷惑になると思い、朝いた食堂に移動した。
「男の看護師さんだったんだよ~」と小声で嘆く。「臍の掃除されて、超恥ずかしかったよ~」

すると、ナースマンが私を見つけるや否や、険しい顔で寄ってきた。
まさか今の話を聞かれたわけではないだろう。
彼は、年配患者の車いすを押していた。
「今動くから、ちょっと待って!」
おじいさんに怒鳴る。
「ホゲホゲさん!」ついでに私にも怒鳴る。「さっきの書類、3枚足りなかったですよ!」 」
「え? でも、同意書にサインしたものは、すべてお渡ししたはずですけど」
「違いますよ! 1、2、3があるはずなのに、4しかなかったんで」
顔面オロオロの私。
「いいです、あとで取りに行くから、ちゃんと用意しといて」
それだけ言うと、おじいさん患者の車いすを押しながらナースマンが去っていった。

「なあに? あれ」
「あんな言い方ないじゃないねぇ?」
仕事仲間の二人があきれたように言う。
不思議なものである。他人に非難されるとかばいたくなる。
自分の担当看護師=自分の所有物のようなトチ狂った観念が湧いてきたのだ。
「あれでやさしい面もあるんだよ」となぜか弁護。
「血圧が高かったらしくて、入院は初めてなのかと心配してくれたし」
ちょっと荷物の中の書類、確認してくるから待っててと二人に言い残して、急いで病室に戻る。
荷物をチェックしたら、ナースマンが主張していた、「1、2、3」に該当ずる綴りが見つかった。
4の同意書のみ提出するものと勘違いして、独断で切り離してしまったのだった。
1,2,3を持ってそそくさと食堂に戻り、そこからナースステーションを物色。
仕事仲間の1人が、「こっちからのがよく見えるから、見ててあげるよ。あの子、眼鏡かけてたよね」
「さっきからおじいさんの車いすを押してずっと病棟内まわってあげてるみたいよ」もう1人が言う。「結構普通にいろいろおじいさんに話しかけてあげてた─」
怒鳴っているように見えたのは、おじいさんの耳が遠いからだったのかもしれない。
「ぶっきらぼうなだけで、根はやさいいのかもね」と私も自分に言い聞かせながら頷く。

ナースマンを発見。おじいさんを病室に戻し、ナースステーションに戻ってきたところだ。
そろりそろりと歩み寄り、「すみませんでした」と謝って、不足分の書類を手渡した。
「あ、はい」とナースマンは興味なさそうに受け取ると、そのままぷいっと奥に引っ込んでしまった。
やっぱめちゃくちゃコミュニケーション能力低いやんけ。あんなんで大丈夫なのか?
自分の甥もナースマンだが、甥は対極にいる。もンのすごく感じがイイ。そしてもンのすごくやさしい。

夜勤もあるから、担当看護師は翌日(肝心の手術の日)には朝から別の女性に代わった。
手術の翌日は、また初日と同じナースマンだった。
「体温、測ってください」と体温計を寄越すと同時に、ぷいっと後ろを向く。見てませんアピール。
頃合いを見計らって、「血圧を測ります」と言いながら私の右腕を取る。
術後の身をいたわってか、今までで一番ソフトな態度だった。
日ごろ冷淡な人が、たま~に親切な態度を見せたりすると、効果絶大。理不尽な話だ。

「身体拭きますね」と言われ、ギョッとした。まさか、あなたが? ホントすみません。
ナースマンは、蒸しタオルを取りに行ったのだろう、ぷいっと出ていった。
まな板の上の半魚人になるしかないのかと途方に暮れた。とほほ。。。
と、カーテンを開けたのは女性看護師。
さすがに女性患者の身体を拭くのは女性看護師と決まっているらしい。
しかも、女性看護師が拭いてくれるのは背中のみ。
前は自分で拭かされる。双方にとってベストなシステム。

ツンデレラボーイでぶっきら坊主のナースマン。
どこかで見たことがあると思ったら、ドラマ「鈴木先生」の長谷川博己に似ていた。
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4日目と5日目は女性看護師だった。一人は癒し系、一人は快活そうな女性だった。

そして、いよいよ今日で退院です、という朝。またこの↑鈴木先生登場。
「今日、ボクが担当なんで」と顔だけ見せると、無言で体温計を渡し、無言で血圧を測られた。
そしていつものように、シャッとカーテンを閉めて去っていった。

ほかの患者さんが退院する朝は、「〇〇さんは今日退院ですね~! おめでとうございます」とか
どの女性看護師も特別な言葉をかけているのを見てきた中、鈴木先生だけがいつも通りだった。

初日と退院日が鈴木先生に当たるのって、罰当たりに近い気がする(笑)。

家で2匹のツンデレ猫と暮らしている私だからこそ、このツンドラ的ツンデレラボーイに耐えられたのだ。
ツンデレラボーイと呼ぶには、あまりにデレ度が低すぎる。。。

鈴木先生、にやけてるよりはいいかもしれないけど、やはり笑顔って大事だとおばちゃん思うよ。
激務だろうけど、尊いお仕事。体に気を付けて、頑張ってね。





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by vitaminminc | 2016-11-19 12:35 | 人間 | Comments(0)

産科を除いて、生まれてこの方ただの一度も入院(無論手術も)などしたことがない。
だから手術を受けるまでは、自分の身に何が起こるのか想像が膨張して怖かった。
でも、終わった今となっては、私が最も恐怖を感じたのは、手術のあとだった。

名前を呼ばれて瞼を開くと、手術台ではなくベッドに寝かされていた。
ここはリカバリールーム。
手術を終えた患者だけが、一晩収容されるところだ。
「無事終わりましたからね」と看護師さんが話しかけてくれる。
私は苦しくて、「はい」と声を出す代わりに小さく頷いた。
なんでこんなに呼吸が苦しいのか。
鼻と口が、カップ型の酸素マスクにすっぽり覆われている。
足りない酸素を補っているのに、酸欠になっているとしか思えない。
全力疾走したわけでもないのに、肩で呼吸をしている。
手術のあとはみんなこんなふうに呼吸が荒くなるものなのか?
b0080718_19145673.png

朝からずっと付き添っていてくれたムスメ。
無事に母親の手術が終わってほっとしたのか、ずいぶん眠そうだ。
ムスメを家に帰してから考えた。

もしかして、過呼吸状態?(なったことないけど)
もしや、この酸素マスク、欠陥品なのでは?
放出されるべき酸素が出ていないとか。
試しに自分の手で酸素マスクを外してみる。
こっちのが遥かに楽だ。普通に呼吸ができる。
ずっと外したままでいたいと思ったが、かすかに空気のようなものが出ている。
仕方なく、もう一度はめて肩呼吸に戻す。

それだけではない。全身麻酔の副作用とおぼしき吐き気。
約20年ぶりに襲われる、「つわり」のごときムカムカ感。

ナースコール1回目
「ずっと吐き気がしていて、あと麻酔切れたみたいです。痛くなってきました」
「痛み止めと吐き気止めの、どちらを先にしてほしいですか? 両方一度は無理なので」
「い、痛み止めの方を─」
「あ、酸素マスク、もう外しますね」

酸素マスクが外れたとたん、普通に呼吸ができた。
看護師さんが抗生剤の点滴に鎮痛剤を追加してくれた。
ついでに吐き気も治まった。
あとで調べてわかったが、「酸素マスクは息苦しい」ものらしい。

鎮痛剤は創部の痛みには効き目があったが、肩、腰、背中の筋肉痛にはまったく効かなかった。
手術中、微動だにしなかったせいで、身体じゅうが痛くて仕方ない。
様子を見に来てくれた看護師さんに、肩、腰、背中の痛みを訴える。
身体の向きは自由に変えて構わないと言われ、右を向いたり左を向いたり。

身体からは、少なくとも3本のチューブが出ている。
ドレン(排液管)、導尿管、抗生剤の点滴。
慎重に寝返りを打っても、いちいち導尿管が痛い。
そうこうしているうちに、やたら暑くて汗だくになっていることに気づいた。

ナースコール2回目。
「暑くてたまらないんですけど。あと、布団がすごく重くて─」
「ああ、毛布ね。電気毛布だから重いんですよ。手術後悪寒がするという患者さん、結構いらっしゃるので。
じゃあ、この電気毛布、取っちゃいましょう。」
「ありがとうございます、お願いします」

断っておくが、ナースコールを鳴らしているのは私だけではない。
わずか4床のはずだが、さっきからかわるがわるナースコールは鳴りっぱなし。

はぁ、疲れた。お昼頃手術して、今はもう夕方過ぎだろうか。
眠りたいけど眠れない。
天井の蛍光灯が大きくて眩しすぎる。

ナースコール3回目。
「すみません、だいぶ眩しいので照明落としていただけないでしょうか」
「はい。このくらいでいいですね?」
いや、まだ明るいと言いたかったが、有無を言わさぬ調子だったので折れてしまった。

ようやくうとうとしかけた時に、無人だった隣のベッドに、新たなる患者が収容されてきた。
名前を呼びかけられている。
「ああ、はい」と辛そうに答えている。「息を吸うとき苦しいんですけど」
隣人の訴え通り、息を吸い込むたびヒューヒューという大きな喘鳴が聞こえている。
「もともと喘息やアレルギーがありますか?」
肯定するような隣人の声。
医師が、おそらくファイバースコープで口の中を確認しているもよう。
「あ~って、もっと大きな口開けてください。あ~って」
「あ”~~~~」
「あれれれ。声帯がまったく動いてないな。あ~~~って言ってみて」
「あ”~・・・」
「ムクムクに腫れている。声門浮腫だな、咽頭もだ」

別の、女医とおぼしき声がした。
「麻酔科と、耳鼻科の先生に電話して指示仰ぎます」
女医が各科の医師に内線を取次いでもらっている間、男性医師が廊下で待つ家族に説明するため出ていった。

「麻酔科と耳鼻科の先生は、いずれも再挿管が妥当だろうと─」
「ご家族に聞いたら、手術室に入る前からすでにヒューヒューいってたらしいですよ」

男性医師が隣人に話しかける。
「このままだと十分な呼吸が難しいので、もう一度肺まで管を通して空気が吸えるようにします」
「はぁ」
「管を入れるとき、苦しくないように、少し眠くなるお薬を注射しますね、麻酔じゃないんだけど」
「はぁ、でも、さっきまでより吸うのが少し楽になりました」
「う~ん、確かにヒューヒュー言わなくなったかな」

しかし女医が、「再挿管しましょう」とキッパリGOサインを出した。

「〇〇さん?」
「はい」
「〇〇さん?」
「はい」
「あれ~? こんなに薬が効かない人、初めてだな」と男性医師。

挿管していた女医が匙を投げた。
「ダメだぁ、完全にふさがっちゃってて全然入らない」
ガッ! ゴフッ! ゴッ!
隣人のむせる声。
あんなに腹圧かかったら傷口が開いてしまいそうだ。
薬、少しは効いてるといいのだけど。
「××先生、代わって!」
女医に言われて、男性医師が口ごもる。
「え? でも、一応まだ研修医ですよ?」
「いいからやって!」
ガッ! ゲッ! ゲッ!
隣人が眠っているとはとても思えない。
「あー、なんで俺の担当の日に限ってこんなことが起こるんだ」
男性医師が嘆く。
ゲフッ! オゲッ!
女医と看護師の笑い声(!!!)

隣人さん、隣人さん・・・ああ、耳を塞ぎたい。気の毒すぎる。

つい先ほどまで私を含む3人で、最低3回(←私)は鳴らしていたナースコール。
私以外は全員男性患者。
そのうちの一人は、ナースコールを鳴らし、看護師を呼びつけて言ったもんだ。
「ナースコールの音がうるさいから一般病室に戻りたい」
「無理です! みなさん、手術後は看護師の目の届くこの部屋にいていただきます!」

今は誰も鳴らしていない。
じっと息をひそめて、新入り(男性)の無事だけをひたすら祈念していたと思う。




「あ。入った」
おそらく、リカバリールームにいた誰よりも、真隣の私が一番ほっとした。

ところが、ここで女医があり得ないことを言い出したのである。
「私、胃カメラやってみたかったの。
でも私が研修受けてた頃は、胃カメラは内科の仕事だからやる必要ないって」

「今やってみます?」男性医師が促す。「管の中になるけど」
「ホント? いい?」

おい、マジか─。隣人さん、100%実験台にされている。

少しして、女医の嬉々とした声。
「よし、これでなんとなく、感覚は掴めた」
「じゃ、ICUに運びますか」
患者を除く医療従事者全員の、明るい笑い声。

おい、マジか─。ICUに運ぶレベルだったのにィ?


若き医師たちの、あくなき向上心に敬意を払うべきなのか。
いや、自分の家族にも、同じこと出来ます?

てのひらが、じっとり汗ばんでいた。


翌々日から、リハビリで病棟内をくるくる歩行するようになった。
病室ごとにネームプレートを確認してまわるのはやめにしておいた。
あの、あまりにもお気の毒な隣人の名を、見つけられないことが怖かったからだ。
カーテンの向こう側。顔も知らない隣人。
きっと、点滴を連れながら、リハビリに励んでいる。
そう信じたかった。



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by vitaminminc | 2016-11-18 19:21 | 人間 | Comments(0)

5泊6日の入院生活が終わり、自宅静養すること今日で3日。
3泊以上家を空けるのなんて、新婚旅行でオーストラリアに行って以来。25年ぶり。
もう明日から職場に復帰。
できることならずっとこのまま家にいたい。
生粋のインドア派なのだ。独りで家にいることがまったく苦にならない。
ストレスフリー万歳。何時間でも引きこもっていられる。
でも、働かないといけない。しぶしぶ明日から出勤するけど021.gif



先月半ばに、家族立ち会いのもと(といってもムスメonly)手術に関する詳しい説明を受けた。
私の正式病名は、「胆嚢結石症」である。

b0080718_07574444.png

造影剤を使った最新鋭CTディスカバリー提供のカラー画像を示しながら、主治医のM先生が胆嚢の上の管をスティックで指した。
土中の芋的なものに根が生えてるような画像である。
これが自分の体内だなんて信じられない。他人事のように覗き込む。

031.gif「これがちょっと、厄介っちゃあ厄介かな」

胆石は、尿道結石のように溶かしたり砕いたりといった治療はほとんど無効であるらしい。
それに、石ができてしまう時点で胆嚢自体が正常に機能していないので、石だけ摘出するという選択肢はない。摘出するなら袋(胆嚢)ごと、というのが通例らしい。
b0080718_07495499.png

031.gif「胆嚢上部の肝臓とつながってるこの胆管、普通はY字になってるんですよ。Y字の下の一本をカットすればいいわけだけど、これね、なんか三叉路みたいに、胆嚢にもう一本の管もくっついて見えるんですよ」
確かに、Yが横たわっているように見える。胆嚢に、接点が二か所できてしまっているように。
008.gif「あの、それはつまり──」
私の不安を押しやるように、赤ら顔のM先生が、なぜか上機嫌で見解をまくしたてる。
031.gif「胆管切るときに、ほかの切らなくていい管を切っちゃったり、それこそ癒着なんかが見られた場合はちょっと厄介なことになる可能性はあるけれど(笑)──まあ、だからといって(腹腔鏡手術から)開腹に切り替えたところで、現物を見たってよくわからないんですよ。血だらけで、実際何がどうなっているかなんて判断できないんだけどね(笑)」
008.gif「・・・」(笑えるかぃ。つまりつまり、胆管が奇怪な形状をしている私の手術は、結局どうなるわけざんす?)
031.gif「ただ、チャラ胆(笑)、簡単な(胆嚢摘出)手術のことですけど、チャラ胆のがミスが多いくらいなんですよ、舐めてかかるから。難しいケースの方が連中(←研修医のことらしい)も気合入れてやるからかえって上手くいったりします」

チャラ胆? 横に腰かけているムスメを見た。
案の定、顔面蒼白。今にも失神しそうではないか。
さっきから何度ももぞもぞ体を動かしていたのは、トイレを我慢しているからではない。
臓器、血管、神経、癒着、大量出血といった単語にめっぽう弱いからである。
目を開いたまま、耳は閉じているに違いない。

031.gif「ま、たぶん内視鏡でイケると思いますよ」
008.gif「あの、私の手術はM先生が執刀してくださるんですか?」
031.gif「いや、オブザーバーとして手術室内にはいますけど、若いもん(←研修医のことらしい)がやります」

え”ぇ~~~~!? 難解なケースっぽいのにィ~~~!? チャラ胆じゃないのにィ~~~!?
しかし、もう後へは引けないのである。
なぜだかわからないけど、もう手術を受けるしかないと感じ、気づいたら同意書にサインしていた。

赤ら顔のM先生、むやみにに明るくチャラそうだったにも関わらず、説明にはたっぷり40分時間をかけてくれた。
おかげで診察室を出るころには、ムスメの顔はほぼ白紙の状態だった。
それでも、100%耳を貸さなかったわけではなかったらしい。
「ねぇ、私の聞き間違いじゃなかったら、M先生、もしかして≪チャラ胆≫て言ってた?」
私が訊くと、
「ああ。言ってたね」
ムスメが頷いた。

かくして私は、至極計画的に手術に臨んだのである。
自覚症状がない胆石症であれば、経過観察という選択肢もある。
が、私の場合は少し違った。
下手したら二十年前から、風邪の引き始めには必ずといっていいほどみぞおちの辺りが張って痛くなるのだった。
6月に人間ドックを受けたのだって、胃に問題があるのではないかと密かに気に病んでいたからだ。
でも検査の結果、胃はまったくきれい。その代わりに胆石が複数個発見されたわけ。
たとえ自覚症状がなくたって、何十年も胆石を放っておくのはよくない。
あれこれ調べた。胆のう癌になる確率が高くなることも知っている。
採れるうちに採っておくに越したことはない。
疝痛と呼ばれる発作でも起こして、救急搬送されることになったら大変だ。
それこそ周囲に迷惑をかけてしまう──考えた末の決断。

しかし、「外科医は明るい」とはよく言ったものである。
単に明るいのではなく、「明るいオタク」だ。間違いない。

(つづく)


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by vitaminminc | 2016-11-16 22:04 | 健康 | Comments(0)

日々の暮らしに「ん?」を発見
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