人気ブログランキング | 話題のタグを見る

哀しき後遺症

別に“私ってこんなにか弱いんです”とアピールしたいわけではない。
だから、恥をしのんで、昨日自分の身に起こった事を一晩寝かせた上で、事実として述べようと思う。

昨日は終活の一環として、不要になったR銀行とM銀行の口座を解約すべく、健康のため徒歩で駅方面に出かけた。

駅前の交差点で、それは突如として起こった。
信号待ちをしていると、向こう側に知っている人を見かけた。ドキッとした。
以前、16年間勤めた会社の女性社員だった。出勤時間はとうに過ぎている。何かの事情で遅刻しての出社なのだろう。
彼女を見た瞬間の大きなドキッを皮切りに、私の心臓は早鐘を打ち出した。呼吸が苦しくなり、眼鏡が息で真っ白になった。
向こうが私に気づく可能性は低い。何しろ私は花粉症対策として、ニットのキャスケードをかぶり、コンタクトではなく眼鏡をかけ、顔の半分が隠れるマスクをしている。
わかるはずない、大丈夫だ。それに気づかれたとしてそれが何だというのだ。もう会社はとっくに辞めた。攻撃されていないではないか。
あまりにも見事に眼鏡が白く曇ったので、まったく前が見えない。このままでは呼吸だけでなく歩行も困難になる。だが、眼鏡を外して拭くわけにはいかない。信号待ちをしている僅かな時間、立って待つ以外の行動は、人の目を引いてしまう。
マスクのノーズワイヤーを指で押さえつけ、息が上に行かないように遮断した。
歩行者信号が青になった。視界の霧はまだ晴れない。マンガみたいに白メガネの私は、その社員とニアミスしないよう、銀行に続く斜め左方向ではなく、駅に続く直線コースをとった。
当然、会社に向かって斜め右コースをとった彼女とは距離が開いた。
おぼつかない足取りで直線コースを進んでから、歩道内をバキッと直角に左折し、足早に銀行に入った。

つくづく自分が情けなくなった。
交差点の向こう側で私を呼吸困難にさせた社員は、私の天敵などではない。長年にわたり私にパワハラをした張本人ではないのだ。それどころか会社を辞める際、最後に電話でやり取りするのに指名した、自分にとって最も無害な社員である。
なのになぜ? どうして?
銀行で受付を済ませて待っている間も、ずっと私の心臓はドキドキ脈打ち、肩で息をしていた。

R銀行での解約手続きには、きっかり1時間を要した。続いて駅の反対側にあるM銀行へ。R銀行よりも規模が小さく、待ち人で椅子は満席。立ったまま待たされたが、こちらは40分で手続き完了。

スマホで時刻を確認したら、12時を少し過ぎている。会社の昼休みの時間帯に入ってしまった。
いつの間にか気温が上がっている。もう息で眼鏡が白くなることはないが、心臓に負担をかけたくないので、安全コースをとることにした。すなわち、飲食店が軒を連ねるバス通りではなく、2本入った脇道。だいぶ遠回りにはなるが、住宅街ならメシを求めて彷徨く社員に出くわすこともないだろう。
“ここまで来れば大丈夫”と思える辺りでバス通りに戻った。ようやく呼吸も平常に戻った。

いまだに車であの社屋の前を走り過ぎるたびに不快感を覚える。私を適応障害にした加害者はとうに会社を辞めて、もうあのビルにはいないというのに。
とはいえ、装甲車でなくして生身だと、ここまでヒドイとは思わなかった。まるで急性自律神経失調症である。いくら自分をなだめても、心臓がバクバクいってどうすることも出来ない。
久しぶりに歩いて汗をかいたので、帰宅後すぐに熱いシャワーを浴びた。何もかも洗い流したかった。

ついでに言うと、テレビのニュースやドラマで“パワハラ”というワードが耳に入ると、胸が苦しくなり、涙ぐんでしまう。
半ば無自覚のまま不眠症と記憶障害と思考停止に陥った当時よりも、心拍数と涙腺に限って言えば、むしろ“その後”の今の方が異常なくらいだ。

先月、忌まわしきあの職場で一緒に仕事をしていた同僚から、久しぶりにLINEが届いた。私が元気でいるかを気にかけてくれている内容だった。勤務当時は本の貸し借りをしたり、何かとLINEのやり取りをする間柄だったが、私が辞職してからはそれもフェードアウトしていただけに、少し嬉しい気持ちになった。
一番仲が良かった同僚(別の部署)とは、完全に音信不通となった。私がろくに相談もしないまま辞めたせいだ。
でも、仕方ない。会社に来なくなった私は、彼女にとっては使わなくなった銀行口座と同じ。疎遠という名の解約。

今朝見た夢は、あの悪夢の如き会社が舞台だった。交差点での発作が原因に違いない。
夢の中の私は、本社の方で中途採用されたらしい。
かつて実際感じの悪さで定評があった男子社員が、夢の中では人が変わったようにフレンドリーで感じが良かった。
まもなく私には、その理由がわかった。パワハラ上司が辞めてから、誰もが本来の性格を取り戻したのだ。職場の空気が明るく平穏になって、私は心地よく仕事をしていた。
悪夢を見てもおかしくないくらい動揺したあとで、傷心を癒すような、いい夢を見た。

酸いも甘いも知り抜いた私でさえ、いつまでたっても尾を引く、これだけのダメージ。
いじめによって、小中高の未熟な心が受ける傷の深さを思うと、本当にたまらなくなる。


# by vitaminminc | 2024-02-14 07:56 | パワハラ | Comments(6)