関わってしまった

 ムスコが通っている塾から、帰宅時に関する通達があった。

 それによると、今月に入ってから市内の路上で中高生による恐喝事件が何件も発生しており、遺憾ながら当塾生も被害に遭ったとのこと。塾としては、最終退館時刻を厳守し指導を強化するとともに、警察とも連携して、授業終了時には講師が塾周辺の安全確認を行う旨記されていた。
 そのほか注意すべきこととして、下記の内容が挙げられていた。
 ①不必要に居残ったり、寄り道をしないようにする。
 ②帰宅時は薄暗い道やひと気のない通りを避けて、できるだけ大通りを選んで帰る。
 ③通塾時は貴重品や高額の金品を持ち歩かないようにする。

 実はこれより2日前、ムスコが恐喝未遂事件に巻き込まれた。
 ひと頃、「おやじ狩り」なんて言葉が聞かれたものだが、今では帰宅が22時を過ぎる塾通いの中学生が標的になっているのだろうか。
 勉強に明け暮れてひ弱になっているとでも?  おやじ狩りから「もやし狩り」に鞍替えかい。

 その日、ムスコが塾生のBくんと2人で地下にある駐輪場から歩道に出ようとすると、目の前を自転車に乗った同じ塾生のAくんが歩道から車道に出ていくのが見えた。
 奇妙なことにAくんは、帰るべき方向から塾に戻ってくるかたちで歩道から車道に出ると、また凄い勢いで帰るべき方角に走っていった。
 するとその直後、今度は自転車に乗った見知らぬ少年4人が縁石の切れ目のところ(つまり塾の真ん前)でいったん停まり、Aくんが走り去った方角を振り返りながら、こんなことを言っているが聞こえた。
 「クソ、なんだよ」
 「めんどくせーヤツ」
 「いいよ、行こうぜ」

 この時点でBくんがどう思ったかは知らない。が、安穏に生きているムスコの目には、その4人がAくんと同じ中学の《トモダチ》かなにかで、呼び止められはしたものの、帰宅を急いでいるAくんが上手にかわしたのだろう、くらいにしか映らなかった。なにしろこの日まで「もやし狩り」が頻発しているなんて想像もしていなかったのだ。

 ところが、しばらくBくんと一緒に自転車を走らせていると、右前方のひと気のない公園付近で数人の少年が《立ち話》 をしているような光景が目に入った。
 さして気に留めることもなく通り過ぎようとしたら、
 「××! ××!」
 と自分の苗字を呼ぶ声がする。緊迫した声の主がAくんとわかった瞬間、ムスコとBくんは状況を把握した。
 Bくんはフェイドアウトし、名前を呼ばれたムスコは不承不承助太刀に走った。正確には、スタンドを使ってきちんと自転車を停めて、ゆっくりと歩いて近づいた。

 後で思い返してわかったことだが、この時Aくんに直接手を出していたのは2人。残りの2人は少し離れた場所に《見張り役》として立っていた。先ほど見かけた4人だった。いったん逆方向に去ったと見せかけ油断させておいて、猛スピードで左折を2回繰り返し、先回りして執拗にAくんを追ったわけだ。

 ムスコは無言のまま、Aくんの身体と自転車を押さえ込んでいる1人の腕をバシッと片手で払い除けるやいなや、Aくんが背負っていたデイパックをこじ開けようとしていたもう1人の急所=脛を蹴った(←窮カピバラ猫を噛むの図)。

 見張り役の1人が言った。
 「ヤベーよ、ほかのヤツにしようぜ!」
 言うなり、そいつが自転車で遁走すると、条件反射のように残る3人も慌てて自転車に跨り走り去った。
 ほかの3人が、「ヤベー」の意味を「誰か来た!」と解釈したのか、それとも敵陣にたった1人で乗り込む、ミリタリージャケットに身を包んだ大柄なムスコを狩れないオヤジと判断したのかは不明(多分前者だろうけど)。

 途中までの道をAくんと並走しながら、「さっきのヤツら、知ってるの?」とのムスコの問いに、当然のことながらAくんは「知らない」と答えたという。「同じ中学じゃないし、見たこともない」。
 ムスコとAくんは、途中で1人になったBくんの身を案じつつ、それぞれの帰路についた。

 家に帰るまでの間、ムスコはAくんの言葉を受けて、あることに思い当たっていた。「ヤベー」と言った見張り役の少年──どこかで見たことがあるような気がしていたが、ムスコと同じ中学の、1学年上にいるヤツではないかと。

 休み時間、男子トイレの窓から校庭を見て、サッカーをやっている上級生がミスする度に、
 「下手クソ~!」と叫んではパッと窓の下に隠れる。そんなスリルとサスペンスに満ち溢れた遊び(←バカ)をしている時に見かけた、ミスった先輩の1人だった気がすると。あぁ、母さん心臓の毛が脱毛しそう。

 「だから、そいつが《ヤベー》って言ったのって、オレが同じ中学ってわかったからかも」
 ゲロゲロ。報復されたらどーすんだ。
 「明日学校で顔合わせたら気まずくて嫌だな」
 ゲロゲーロ。そんな甘いもんじゃなかろ。口封じとか称してボコされたらどーする。
 「とにかく」と私は言った。「顔を合わせることがあったとしても、まったく気づかないふりを決め込むこと!死ぬ気で演技しろ」
 「塾や学校には言わないでよ」
 「今のところは言わないでおく。その(見張り役の)子が同じ中学だという確証もないし。Aくんに名前を呼ばれた以上、同じ中学だとしたら名前から面が割れる可能性がある。くれぐれも用心しなさい」

 それにしても意外だった。ムスコに正義感らしいものがあるらしいことは知っていたが、不本意ながらも(?)それを発揮するのに必要なだけのチカラらしいものがあるらしいってことが。
 ムスコは伊達に勉強してないわけではなかった。そして伊達に部活の大会で敗退しているわけでもなかった。勉強してない時間はゲームで指先を鍛え、部活ではもっぱら基礎トレーニングのみが糧となり、腹筋が割れ体脂肪1桁をキープ。自称「腕相撲はクラスで1番」である。

 しかも、考えてみれば父親譲りの凶暴性がないわけではないし、天性の武器もある。

 恐喝少年たちに告ぐ。ムスコには、いや、すべての人たちに卑怯な手を使うのはやめろ。私を本気で怒らせないでくれ。キミたちが少年院に入るのは仕方ない。が、私はまだムショに入るわけにはいかんのだよ。

 後日塾から配布された通達は、おそらくAくんの保護者からの報告を受けて作成されたものだろう。ムスコが先の一件に関し、講師陣から何ら事情説明を求められなかったのは、賢いAくんが、いかなる理由にせよムスコに一切の迷惑がかからないよう配慮した結果にほかならない。

 私は心配になってムスコに言った。
 「これからは塾まで車で送迎するよ?」
 「いや。大丈夫」
 だが今日になって、ムスコが使用していない柱時計の「振り子」を武器として隠し持っていることが判明。やはり報復に備えているではないか(涙)。
 でもその振り子が、笑ってしまうほどしょーもなく華奢なので、私はこれから護身用に何かイイものはないか情報収集にかかる所存である。
 中学生が護身用として所持するのに適したもの──使えない防犯ブザーなんかじゃなくて──ムスコ! 塾に行く時は、必ずゴーグルとマスク、それとコショーを2つ、忘れずに持って行きなさい。いや、マジで。

 



 
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Commented by ビリーママ at 2011-10-30 19:34 x
手に汗握って拝見しました。
息子君無事でよかったですね、
テレビドラマなんかではよくあるシーンですが
実際そんなことが起こるなんて、
私なら護身用に手榴弾でも持たせるわ
こしょう? もいい手だね
催涙スプレーとかもあるし
しかし、下手なもの持たせても今度は
息子君が警察なんかに呼び止められてもね
いやな時代ですね。
Commented by vitaminminc at 2011-11-01 21:43
❤ビリーママさま❤
そうなのです、そこが問題なのです。メリケンサックは痒いアゴをかこうとして、はめてることを忘れて自分で自分をアッパーカットをお見舞いしかねませんし、スタンガンは多人数が相手だと取り上げられて自分に電流を走らせるようなもの。
それ以前に武器を所持していたがために正当防衛が認められなくなる可能性大であります。
何か煙幕みたいなものはないものか。とりあえず常に傘を持ち歩くべきか。
悩みます。とほほ。
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by vitaminminc | 2011-10-30 12:41 | Comments(2)