人気ブログランキング |

レタスを買っておうちに帰ろう

「腎臓病予備軍」といわれたのは、いったい何月のことだったろう。
b0080718_11020030.jpg
もともとお水を飲むのが大好きだったので、水を飲む量が増えたことや、それに伴い尿の量も増えていたことに関しては、あまりにも無頓着だった。
今までなったことのない便秘になったために、慌てて獣医に連れていったのだった。
それでも、この時点では検査の結果、「腎臓病予備軍」と診断されて、薬は出なかった。ただ、餌を腎臓病用フードに切り替えるようにと指導された。
先生は、眠眠(♂猫10才)の下腹部を触診した。
「まだ便が詰まっているほどではないから、このまま様子を見ましょう」
ほどなくして、心配していた便通もあった。まずそうながらも、腎臓サポート食をチビチビ食べてくれ、ほっとしていた。鰹節はもちろん、大好物のレタスも与えてはいけないと言われた。腎臓用の餌以外は一切ダメですと。

冷蔵庫を開けるたびに、レタスをほしがって飛んできた眠眠だったが、数えきれないくらい望みが叶えられないことを経験して、さすがに学習したらしい。
眠眠は、レタスをあきらめた。
b0080718_11052240.jpg

夏の暑さがこたえたものか、徐々に食欲が落ちていき、動作も緩慢になっていった。
家族みんなが「眠眠も年をとったなぁ」とつぶやいた。
そのうちに、血尿が出始めた。これはいかんと受診した。
6キロあった体重は、4.7キロまで減少していた。
「慢性腎臓病」と診断され、生涯飲ませ続けなくてはいけない腎臓病の薬(水薬)が出された。
水薬の名称は「セミントラ」という。トラ猫のみんみんと相性が良さそに思えたが、シリンジ(針無し注射器)を嫌がって飲んでくれない。仕方なく餌にかけて食べさせた。
血尿に関しては、腎臓病のほかに膀胱炎の可能性もあるので、採尿して持ってくるように言われた。

採尿など不可能だ。眠眠は、便秘時の排便はあらぬところで粗相することはあっても、オシッコは必ず紙砂入りのトイレでしかしたことがなかった。
トイレをとっぱらってオシッコを我慢させるのは酷だ。そこまでして採尿することができなかった。
そうこうしているうちに、「血が出ている!」というくらい、血尿の色が深刻になってきた。珍しく、尿がトイレからはみ出ていたので、すかさずスポイトで吸い取って、眠眠とオシッコを病院に運んだ。
眠眠の体重は、4.2キロに減っていた。
膀胱炎の薬と止血剤8日分が出た。こちらの二種類は錠剤だったので、飲ませるのに難儀した。

膀胱炎と止血剤を飲ませ始めてから6日が経過。眠眠は、まったく餌を口にしなくなった。水薬をかけるのを止めても、餌皿に近寄りもしなくなった。大好きだった水さえ飲まなくなった。
そして、飲まず食わずの状態で、黄色い胃液を何度も吐いた。
獣医で測った体重は、3.9キロ。
もともと大柄な子だったので、立ち姿は物干し竿に干したカーペットみたいだ。
涙なんか流すものか。一滴残らず呑み込んでやる。
錠剤で胃をやられたのかもしれない。血尿は治まったが、眠眠の消耗はあまりにも大きすぎた。
血液検査の結果は、数値だけで判断すると「末期」。あまりにも進行が早いことに先生も驚きを隠せず、猫白血病か猫エイズを疑って再検査となった。結果は共に陰性。白血病で亡くなったおてんば猫の茶尾に噛みつかれたり引っ掻かれたりしたにも関わらず、奇跡的に陰性。
なのに、「末期の腎不全」だなんて。入院した方がより良い治療を受けることは可能だが、最悪の場合入院中に容体が急変して、そのまま死んでしまうかもしれないなんて。
「通院します」
迷わず選択した。「治る病気なら入院させたいところですが、万が一の場合、家族の誰も看取ってあげられないというのは考えられません」

幸い眠眠は「輸液」により急場をしのぐことができた。
現在、週に2~3回、「輸液」のため通院している。
まったく食べられなかった餌も、日に大さじ1杯くらいなら食べられるようになった。
「輸液」後は、便通も一時的に回復する。新鮮な水もよく飲む。
「輸液」は、ヒトでいうところの「透析」を意味する。
腎臓が機能しなくなると、いくら水を飲んでも体内を素通りしてしまい、慢性的な脱水症状を引き起こす。体内に溜まった毒素を尿と一緒に排出できなくなるため、飲み喰いできなくなるほど具合が悪くなる──簡単に解釈すると、こういうことらしい。

獣医には言えないが、餌を替えた。腎臓用のまずい餌ではなく、高齢猫用の、とても小さい粒のフードにした。こちらに替えたことで、ようやく大さじ1杯とはいえ、食べてくれるようになったのだ。
ペースト状の餌は、一口舐めただけで、二度と口にしなかった。

餓死だけは、絶対に避けたい。

今でも、オレンジを目にすると、ひどく心が痛む。
末期がんで治る見込みのない父が、病床で「オレンジが食べたい」と何度も訴えたのに、点滴に影響するといけないからと、私は拒み続けた。
死んでしまってから、どれほど自分を責めたかわからない。
どうせ死んでしまうのなら、食べたいものを思う存分食べさせてあげればよかった、と。

批難されることは承知の上だ。おまえはろくでもない飼い主だとなじられることも。
きちんと腎臓病のフードを与えて、きちんと薬も飲ませて、定期的に輸液を続けることで、小さな命を延ばすことが可能だということは理解している。
けれど、腎臓サポートフードを、ドライタイプもペーストタイプも、まったく受けつけないのだ。少しずつでも自分で食べられるうちは、強制給餌はしたくない。

幸い、腎臓病の水薬は、餌にかけなくても、シリンジで直接口に入れることができるようになった。
手足を突っぱね、顔をそらして抵抗するだけの体力が、すでになくなったせいだ。
これほどまでに弱ってしまったけれど、眠眠はどこまでも気高い。
毎晩私のすぐ横で眠っていたくせに、今はホールでひっそりと眠りに就く。
一緒にずっと触れていたいけど、眠眠の本能を尊重して、ぐっと我慢している。
排尿に関してあれほど潔癖症だった眠眠が、トイレ付近の床で失禁を繰り返るようになった。
ボケたのではない。間に合わないのだ。
床に水溜りをこしらえるたびに、律儀に小さく鳴いて教える。とても切ない顔をする。

腎臓は、一度傷ついたら二度と治らない。あきれるくらいもろい臓器だ。
私の心臓も容易には治らない。父の死から干支が一回りしたけれど、オレンジを見るたび傷口が開く。

今さっき、眠眠が悲しそうな声で知らせにきた水溜りを拭きながら、決意した。
今日、輸液の帰りに、レタスを買って帰ろう。


眠眠に、レタスを食べさせてあげるんだ。
大好物のレタスを。
b0080718_13093221.jpg

名前
URL
画像認証
削除用パスワード
by vitaminminc | 2014-09-08 13:22 | 生きもの | Comments(0)