慇懃無礼なカレ

働き始めて7年だし、ギリギリ「今どきの若いもん」に入ると思いますよ、私から見りゃ。
見た目も結構ステキなわけ。スマートでスラッとしちゃって。昭和もんのスタイルとは明らかに違う。
出資額が大きいだけあって、アタマもいい。知識が豊富で、器用に何でもこなせちゃう。
しかも親切。ちょっとした力仕事ならボクがやるよ053.gifてな感じで、頼んでもいないのに素早く反応。

だけど、虚弱体質。特に環境の変化みたいのにはとことん弱い。いわゆるもやしっ子?
繊細といえば聞こえはいいけど、単に融通がきかないだけ。秀才肌の、いわゆる頭でっかちみたいで。
転居や、夏の尋常でない暑さとかで神経をやられたのか? ここ数年で仕事にも支障をきたしている。
正直いって、家族は手を焼いているに違いない。ほっぽり出すわけにもいかず、ご機嫌窺いの日々?



カレが我が家にきたとき、家族はその端正な容姿に見惚れ、歓声をあげたものだった。
ナーバスそうなカレの、心の扉を開けるには、ちょっとした労力が要るものと警戒したが、カレは違った。
軽いスキンシップだけで、自ら扉を開いてみせたのだ。何度も。何度でも。
そしてカレは、たくさんの引き出しを保有していた。
通常の冷蔵室以外に、チルド室、野菜室、冷凍室は大小2個。

カレの親切心は、狭い我が家では無用の長物。そばを通っただけで勢いよく扉が開いた。
腕が触れたといっちゃーどつかれ、肩が触れたといっちゃーどつかれる。
無駄なオープンは電力の無駄。一週間経ずして、カレのタッチセンサー機能は解除された。
思えば、この自慢の親切心が裏目に出たことが、カレの自尊心を大いに傷つけたのかもしれない。

以来、カレは黙々と働きながらも、徐々に家族に不信感を抱いていくようになる。
自分が家族に愛されていないことを、家族の会話の端々に感じ取るようになっていった。
「あ~ぁ。前の冷蔵庫が、家を建替えるまでもってくれてたら、もっと大きいのを買ったのに」
「アイス食べてない人、早く食べちゃって! うちの冷凍室、狭いんだから」

やがてカレは、神経に異常をきたすようになった。確実に、病んでいった。
まず、小さいほうの冷凍室が、フリーザーとしての役目を放棄した。
アイスが溶けてしまうのはもちろん、ケーキなどについてくるミニ保冷剤でさえ、凍るまでに三日を要す。

「野菜室がちゃんと閉まらないよ? 何かつかえてるみたい」
野菜室の、大きくて深い引き出しをギリギリまで前に出し、仕切りのトレイを外して奥を確認。
つかえているものの正体を知った瞬間、私は凍りついた。ぃや、頭の中で何かが溶けて、笑い崩れた。
野菜室の奥に、日本三名瀑の一つ「袋田の滝~冬のジオラマ」が出現したからだ。
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画像の滝は白いが、カレの作品は「霜」とは違う。透明で、扇状に裾野を延ばした、美しい滝だった。
冷凍室の小引き出しの無能ぶりを批判されたカレは、その腹いせに、せっせと滝をつくっていたのだ。
長い年月をかけ、丁寧にこしらえた純度100%の水の結晶は、非常に強固なものである。
ヤカンで沸かしたお湯をかけても、溶けやしないのである。永久凍土もまっつぁおなんである。

「頼んでもいない場所で、氷つくってんじゃないよッ!」
即刻クビにしたいところだが、そうもいかない。
電子レンジや洗濯機と違って、家庭になくてはならない必須アイテム、それがカレ。
価格、消費電力ともに、最高値の座を譲らないカレは、家庭の強い味方にして、家計にツライ敵。
滝のせいで野菜室がきちんと閉まらず、いかに電力代が嵩もうが、今、カレを解雇するわけにはいかない。

足元を見られている気がする。
出会った頃、さんざん扉でどついてきたのだって、きっとワザとだ。
いい奴ぶって、本当は無礼なだけだったのだ。


そんなカレの名は、慇懃無冷蔵庫之丞。

昭和の家電は良かった。ズングリムックリしてたって、頑固一徹、職人気質。
とにかく頑丈、ちょっとやそっとじゃ壊れなかった。。。









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by vitaminminc | 2014-09-25 10:25 | 笑い | Comments(0)

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