二転院三転院

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 上の写真は、2月12日に、B病院に入院中の眠眠を見舞った時のもの。入院二日目。腎臓の数値が悪化して食欲が失せたため、緊急入院を勧められた。24時間体制で血管点滴を行うこと三泊四日。結果、一時的に回復した。
 といっても、かつてのように元気になったわけではない。毎晩の在宅皮下点滴は続き、毒素の排出を助ける2種類のサプリを飲ませる日々。食欲が戻ったとはいえ、発病前みたいに量を食べられるわけではない。減った体重が300g増えたのも束の間。やがて食欲は徐々に落ちていき、サプリの1つを飲むのをひどく嫌がるようになった。
 退院してから、2ヵ月もたなかった。素人目に見ても、2月の入院前より更に具合が悪そうだ。病院に連れて行けば、前回のように即日入院となることは必至。それを覚悟の上で身支度を整え、担当医がいることを確かめるために、病院のホームページを開いた。
 その日は、眠眠を担当した甲先生(若い女医)と乙先生(ベテランの女医)両名の出勤日に当たっていた。しばし頭を抱え込む。
 というのも、はじめに眠眠を担当したのは若い甲先生だったのだが、一度出勤日を見間違えて、甲先生が不在の日に診てくれたのが、ベテランの乙先生。治療上、両先生の説明が食い違っていることがわかり、私は乙先生の言い分に従うことにした。甲先生は、かなり早い時点から、眠眠の症状を見ながらというよりは、段階的に輸液量を増やしていき、その都度増量の善し悪しを判断するため、一週間後に血液検査をするという計画だった。その増量が私には「一気に増やす」印象で、100ml⇒150mlに増やしましょうと言われた時には、怖くなって抵抗してしまい、「末期になると320ml(←これではもはや猫というより水!)点滴する子もいますよ」という説明を押しのけ、「せめて140mlで試したい」と主張した。
 乙先生に診てもらった時点で、眠眠の輸液量は140ml。若い甲先生には、近いうちに160mlに増やしましょうと言われていたので、乙先生に、「そろそろ160mlにした方がいいでしょうか?」と尋ねると、ベテランの乙先生の回答は意外なものだった。因みに、カルテには160mlの件は記入されていなかったと見える。
「いえ。無暗に増やしても、循環器系に影響して心臓に負担がかかりますから。今140ml点滴しているのなら、そのままでいいでしょう」
 乙先生のこの一言で、私は甲先生から乙先生に鞍替えを決めた。甲先生の治療計画に関しては、何だか告げ口するようで気がひけたので、敢えて乙先生には伝えなかった。
 指名して、乙先生に二回目の診察をしてもらった日、眠眠の腎臓は、2月の入院前と同様の数値を示していた。それでも乙先生は、直ちに入院を示唆することはなかった。そこで私は、乙先生に正直に家計の事情を訴えた。ペット保険に加入していないこと。まだまだニンゲンのムスコの学費がかかること。夜勤も始めたが、点滴セットとサプリ代で毎月6万円の出費は、相当深刻であることなど。
「お子さんは、高校生くらいですか?」
「はぃ」
「(ペットの)保険も、発病してからだと人間のと同様、入れませんからねぇ──」
 乙先生は言葉少なに心からの理解を示してくれた。結局、入院を勧めることもなく、また点滴の輸液量を増やすでもなく、栄養剤入りの点滴を(いちいち噛まれ防止のカラーをつける→)甲先生よりもはるかに手際よく済ませると、足りない保水液やサプリ、注射セットを確認して用意してくれた。乙先生の方針は、あくまでも眠眠の具合を見ながら、対処療法的措置を行っていくというものだった。

 だから今回、甲先生が不在で乙先生だけが都合良く出ている日に当たっていたら、私はB病院に眠眠を連れて行き、さすがに今回は入院を提案され、それに応じていたことだろう。
 でも、両名の診療日ということから、私は二の足を踏んだのだ。B病院は、最新の医療設備を誇る大きな病院で、獣医師を何人も抱えている。また、案内専門が1人、受付専門の女性は常に2人いる。
 獣医師を指名できるというのは患者側にはありがたいシステムだが、途中で指名を替えた場合、両医師が鉢合わせるようなシーンの気まずさといったらない。
 診察だけならまったく問題ないが、入院となると話は別だ。もしも入院中、乙先生が不在の日があったら・・・。はたして甲先生は快く眠眠の世話をしてくれるだろうか。
 ただでさえ精神的にいっぱいいっぱいなのだ。余計な気疲れはしたくない。何もかも面倒になった私は、B病院を切り捨てた。そして、以前お世話になったA医院に連れて行くことにした。

 A医院は、隣町にある。大先生と弟子の女医さんの2人だけで切り盛りしている小さなペット診療所だ。採算を度外視しした超良心的診療で知られている。
 私はこの小さい医院で、マイ(♀猫・享年18歳・死因:ほぼ老衰)、ぽぽ(♀犬・享年15歳。死因・悪性リンパ腫)、茶尾(♀猫・享年3歳・死因:猫白血病)の3つの命を見守っていただいた。       先生は凄腕で、入院が当たり前の手術でも、可能な限り日帰りさせてくれることで定評がある。私の子たちは手術は受けていない。先生は、治る病気や怪我以外はメスを使わない。極力日帰りさせる理由は、患者の精神的ストレスを出来得る限り軽減させたいという一心から。
 そんなにいい先生なら、なぜ発病当初からそこに行かなかったのか? 話は長くなるが、理由はただ1つ。A医院は残念なことに、まあ、いろいろ考えあってのことと推測されるが、ノラ猫ちゃんの避妊手術の協力医ではない。しばらくの間、家の周囲のノラにゃんに避妊手術を受けさせることに奔走していた私は、費用の面で折り合いがつかず、二匹目からは市内のC病院を利用するようになった。何匹かその病院に連れていって、相場の半額以下の医療費で避妊手術を施してもらったことから、「義理立て」したのだ。
 しかし、当時私が心配していた眠眠の「血尿」とは別に、血液検査の結果、「腎臓病になっている」と言われ、その説明が今思うとかなり不明瞭で、病気に対してまったく正しく理解できなかった。コミショー丸出しの先生が口にしたことは、入院すればあるいは良くなる可能性はあるが、ここまで悪化しているといつ死んでもおかしくない。もしかしたら入院中に死んでしまうかもしれない云々。
 こんなことを突然言われて、誰が眠眠を病院に置いて行けよう。よくわからないまま点滴をしてもらった眠眠は、血尿のため止血剤を処方されたが、胃をやられて飲ませた途端激しく嘔吐。しかも猫相手に採尿など不可能。四六時中はりついていられる専業主婦ならまだしも、打つ手がないままいたずらに日が過ぎるばかりだった。
 やがて痛みと頻尿でトイレが間に合わない状態になり、床に失禁。それをスポイトで吸引して病院に持参したが、きちんと検査してもらいたいので、「こちらで採尿してはもらえませんか?」と尋ねたところ、新入りの女医さんがいきなり眠眠の膀胱をひねり上げ、眠眠は痛みでもんどりうって唸り声をあげた。しかも、尿は一滴も採れず、点滴の針が抜け落ち、私のバッグが水をかぶる始末。
 頭にきた私は、これを機に在宅点滴に切り替えた。しかし、この期に及んでも、なお「腎臓病」より「血尿の痛み」の方に危機感を募らせていた私は、確実に「採尿」して検査をしてくれると知り、B病院に替えたのだった。
 設備が整っているだけあって、眠眠は即日ありとあらゆる検査を受けた。そしてその結果と今後の治療方針について詳しく説明された。エコー画像には、いびつなかたちに歪んだ眠眠の腎臓と膀胱、尿管が浮かび上がり、そこかしこに点在して血尿の原因となっている数個の結石も認められた。位置と大きさ、眠眠の体力から、外科的手術で結石を取り出すことも、腎臓病を抱えていることから薬剤で石を溶かすことも不可能であることを知らされた。
 若い甲先生ではあったが、病気の説明は簡潔でたいへんわかりやすく、霧が晴れるように理解出来た。その後眠眠は、自力で小さな血のりのついた塊を尿と共に排出し、それ以降、血尿と痛みは治まった。もちろん、結石はまだほかにも存在していたので、最も悪さをしていた石がなくなったというだけだが。
 それからは、「眠眠ちゃんのために、腎臓病の進行をいかに遅らせるか」という呪縛でがんじがらめになっていくのである。
すなわち、治るわけではなく少しずつ悪化して行くしかない腎臓のエコー画像を5000円もかけて撮られて「もうすでにここまで腎臓が縮んでしまっています」と前回の画像と比較し説明されても、絶望感しか抱けない。どうにかしてこれを遅らせてやらねばという強迫観念に駆られ、とにかく必死になるしかなかった。

「毎晩点滴してあげてもねぇ」と平屋建てのA医院の先生が言った。
「結局全部腎臓を素通りして外に出てしまう」そう、本来臭いがキツイはずの眠眠の尿は、まるで水道水のように無色透明。無臭なのだ。「点滴は、筋肉と皮膚の間に結構な太さの針を刺すわけだから、この子がおとなしくしていたとしても、実際はこれね、かなり痛いんだよ」
 コクコクと頷くだけの私に、小さな医院の凄腕先生は続けた。
「入院すれば、その時は一時的によくはなります。ただ、腎臓病は、絶対に治りません。一時的によくなるために、血管に注射針刺されて、24時間拘束されて、でも、それが2ヵ月に1回だったのが毎月になり、毎週になり、毎日になる。この子のことを考えたら、私は入院は勧めない。若い子と違って、この子くらい、10歳過ぎてからの発病は、どんなに数値が悪くても、中には身体が慣れる場合もある。まあ、具合が悪いことにはかわりはないけどね。若いうちの発病は、それはもう重くて、黄色い胃液を泡を吹くように吐き続けて、とても見てられないくらい。私が唯一安楽死を勧めるのは、若いうちに発病した腎臓病くらいなもんです。わかりますか? 腎臓病というのは、それくらい、治らない病なんです。入院は延命措置でしかない。高いお金を払って入院させるくらいなら、この子の苦しみを受け入れて、一緒にいる時間を大切にするのも選択の一つといえます。少し肩の力を抜いて、この子の病を受け入れてみてはどうですか」
少し肩の力を抜いて──私は泣いてしまった。凄腕先生には、金銭的苦労は何も伝えていなかった。
「この子のために、毎晩点滴してあげなくちゃとか、入院もさせられないようじゃひどい飼い主だとずっと思っていたから──」
「そんなことは、ありません!」
 先生は一時口調を強めたけれど、どこまでも優しい目をしていた。
「飼い猫は確かに長生きの子もたくさんいます。この子はもう10年生きた。この子にとっての寿命は10年だったということです。好きなものを食べさせてあげてください。猫は頑固だから、具合が悪い時にまずいものなんか絶対食べません」
「かつお節が好きなんですけど、かつお節もあげていいですか?」
「あげてください。この子が生きてて楽しいなと思えるように」

 先生、救ってくれてありがとうございます。先生にも腎臓病は治せないことはわかりましたが、先生は腎臓病の猫を想ってビョーキになりかけていた飼い主のアタマを治してくださいました。

 眠眠は、かつおの刺身もまぐろの刺身も食べてくれず、乾きもののかつお節のみ、仙人みたいに少し口にする。口のまわりを舐め上げる体力がないのか、かつお節を舐めたあとは、顎にかつお節の髭を生やしたままだ。
 昨日からまた具合が悪くなって、やけに鳴き続ける。寒いのに、どこにそんな力が残ってるものやら、風呂場の扉を押し開け、浴室に蹲ることが多くなった。
 今日もまた凄腕先生のもとに眠眠を連れて行った。
「水場に行きたがるということは、脱水症状のあらわれでしょうか。前に白血病で死んだ子も最期の方はやたらお風呂場に行きたがってたんです」
「本能で(水を)求めているのかな」
「輸液量、少し増やしてもいいですか?」
「今70だっけ? 140までならいいよ。でもここまで痩せてる(かつて6キロあった体重が、すでに2.5キロに)と、あまり(輸液で)おおきなコブになると、首の皮膚がひっぱられて結構きついから、様子を見ながらね」
「はぃ」
 凄腕先生は、「何も処置してないから」と診察代を一銭も受け取らなかった。
 医院の受付は、弟子の女医さんか介助の看護師さんが兼任している。
 何度も礼を言って医院のドアを閉める直前、奥の診察室からもう一度凄腕先生の大きな声が聞こえた。
「お大事に!」
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Commented by どんまま at 2015-04-20 19:39 x
みんみんー

先生の言葉に泣いちゃったよ。
そうなんだよね。その子にとっての天寿があって、それを無理やり伸ばすことは、本人が望むことなんだろうか、と私もいつも思います。飼い主の度量が試されるんだよね。自分がこの子の立場だったらどうしたいか、と考えて決めるしかない。

動物病院については、今回色々考えました。今度書こうと思います。

みちゃまま、辛いと思うけど、みんみんが毎日少しでも楽しいと思えますように。
Commented by vitaminminc at 2015-04-22 09:37
❤どんままさま❤
どんちゃんを天国にお見送りして間もないどんままさんには、今の私の心境が嫌になるくらい伝わることでしょう。
眠眠は、もはや好物のかつお節すら食べることができなくなり、私がシリンジで水を与えている状態です。
階段から転げ落ちるのを防ぐために、私と眠眠の部屋をサナトリウム化して、閉鎖病棟にしています。
ヨロヨロと起き上がり、健気にトイレでチーをする姿を見るたび、胸が締め付けられます。
眠眠が天寿を全うするため頑張っているので、私も腹を決めて
寄り添っています。

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by vitaminminc | 2015-04-20 16:11 | 生きもの | Comments(2)

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