ラブレター

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 愛するみん子ちゃん

 お手紙嬉しく拝見しました。
 「はじめまして・・・」お手紙書くのは初めてよネー。自分乍ら筆不精だったなあと反省しております。
 七月十一日~十三日は本当にありがとう。幸せをしみじみ味わったせいか、あの日から夢見が善くなりました。
 毎晩、何故か? どうしてか? 大掃除して、せっせとコンクリートを磨いている夢ばかり見て、疲れて情けなくなっていました。
 ところがです。
 みん子ちゃん、孫みん(←ムスメの名)ちゃんがきてくれてから、夢が陰から陽にガラッと変身したのです。
 物事に積極的で明るく、美しい夢を見るようになりました。嬉しい嬉しい事です。
 ありがとう!
 今日は早速朝から鳥がゆ、昼は焼きビーフンを頂きました。美味しくて、ほっぺたが落ちそうです。
 では又、これからは、せっせとラブレターを書きたいと思っています。
 お体には充分気をつけて、皆さん、仲良く元気でお暮し下さい。
 
  九月十日                  みん子母
 みん子様


 先日、91歳の母から届いた書簡である。
 原文をそのまま転記したので、一部訂正あり。私とムスメが帰省したのは、7月ではない。8月11日~13日の誤り。

 母から手紙を受け取ったのは、本人が言うとおり「初めて」とは言わないまでも、年賀状を除いたら、母の娘となって以来、通算一、二通程度。
 敬老の日用に、レンジで加熱しただけで簡単に食べられる中華粥や焼きビーフンを贈ったのだが、その礼として手紙をしたためてくれた。

 亡父は結構筆まめな人で、字もなかなか達筆だった。母は文章を書くのが苦手で、自分があまり字がきれいでないことに劣等感を抱いていた。もっとも私が知る限り、母の字は決して下手などではなかった。小学校に入学した時、学用品に書いてくれた名前なんかも、むしろ「きれい」だった。
 なぜそんなに引け目を感じていたのかよくわからない。ただ、書き慣れた文字を書く父より劣ると自認していたのは確かだろう。
 
 働き盛りで多忙を極めていた40代~50代、母は毎晩寝る前のペン習字を欠かさなかった。ペン習字といっても倹約家の母のこと、日ペンの美子ちゃんみたいな通信教育を受けていたわけではない。
 どこで調達したやら、ひらがなのお手本のようなペラ紙を横に置いて、それを見ながら広告の裏や不要になった紙に書いたり、お手本を紙の下に敷いてなぞったりをひたすら繰り返していた。
 「お父さんの字はほら、一字一字が上手いわけじゃないのよ。字配りが良いのね」
 と、母はゴミ箱から拾いでもしたのか、父の書き損じをながめてしみじみ言ったものだ。
 絵心もあった父は、字に置いてもバランス感覚に優れていたのかもしれない。それに比べて母の字は、一字一字は何年もペン習字を続けていただけにきれいなのだが、文にすると少なからず稚拙な印象を受けた。
 (ひぃぃ。PCが固まって編集機能が無効になってしまい、急遽スマホにて続きをしたためておりますです)
 母の字は、几帳面なくらい、一字一字がすべて同じ大きさで、それが敗因だったように思う。
 文(ふみ)を書くのが苦手だから字がぎこちないのか、字がぎこちないから文を書く気が失せるのか。
 結局、何年も何年も独学で続けたペン習字の成果は、生かされることなく幕を閉じたのだった。

 ここ3年くらいの間に母の聴力は著しく衰えてしまった。電話をかけても会話にならないのは日常茶飯事。最近じゃその電話の呼び出し音も聞こえないらしく、いつかけても出ないので、2階に同居している兄に母の安否を問う始末。
 私は父に似て筆まめな方なので、母の日以降はもっぱら電話ではなく手紙を書くようにしている。
 ある日、私はふと疑問を覚えた。私だけが手紙を書いて、母が「手紙着いたわ」と電話を寄越す。その電話に私が何を言おうが母の耳には聞き取れない。「ごめんなさいね、何を言ってるか聞こえなくて。でもお手紙嬉しかった」と母が締め括る。
 これではキャッチボールになっていない。頑なに返事の手紙を寄越そうとしないのは、握力が弱っていてペンが握れないからなのだろうか。それを確かめる意味もあって、私は手紙に書いた。
 「たまにはお手紙くださいな。昔、生欠伸を噛み殺しながら、あんなに毎晩ペン習字を続けていたじゃありませんか。勿体ないですよ」
 そのあと受けたのが、電話ではなく冒頭の手紙だ。
 驚いた。思っていたよりずっと筆跡も確かで、内容もしっかりしているではないか。91歳が書いたとは思えない。
 ムスメも同様の反応。
 「ご高齢の顧客の中にはペンさえ握れなくなってる方もいるからね。おばあちゃん凄い。若いね!」
 ムスコにも見せてみた。
 「まあ。なんて綺麗な字なのでしょう」⬅ムスコはクソ汚い悪筆。
 母上。貴女は私にラブレターを書くために、毎晩あんなに一生懸命ペン字を習っていたのでしょう。
 貴女の字は、かつて父が書いていた、伸び伸びとした字とは違います。どこか慎ましやかで、少しぎこちないれど、私の目には相変わらず綺麗。
 とてもとても懐かしい字です。またお手紙ください。
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by vitaminminc | 2017-09-18 12:29 | 人間 | Comments(0)

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