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母─後日談

今週月曜の晩─つまり、母が私のところに一泊二日した翌日の晩、母から電話がかかってきた。
「今日届いたわよ、本! 本ッ当に嬉しい、ありがとう!」
土曜の晩に楽天ブックスに発注した、佐藤愛子さんの大ベストセラー「九十歳。何がめでたい」が届いたという知らせだ。
「とってもイイんですってね。みんなが言うから図書館に借りに行ったら、2000人も待っている人がいるって言われたの」
「なら丁度よかっ──」
「順番がきても、借りに来たことを忘れちゃってるかもしれませんねって、図書館の人に言われて。だからよかったわぁ」
「うん、丁度よかった、読みたかった本だったみたいで。私も同じ本を読みたくなって、一日遅れで自分用に買い足して──」
「お年寄りだけじゃなくて、子どもから若い人から、みんな読んでるらしいわね」
「そうだね。私もおかーさん世代の人の考えとかもっと知りたくて、自分でも読んでみようと──」
「本当にありがとう!」
「うん。毎晩少しずつ読んでみて。私も届いたら一緒に──」
「お土産(スノー・ドーム)もありがとう!」
「おかーさ──」
「夢のような二日間でしたわ」
「おかーさん!」
「なあに?」
「風邪、引かなかった?」
「引いてないわ。ちょっと喉がイガイガするくらいで」
でしょうね。そんだけ(こちらの話を聞こうともせず)一方的に大声張り上げてりゃ喉も嗄れますがな。

母は、先の週末の2日間のあいだに、かつて図書館で叱られたことが余程印象的だったのか、二度も語った。
1回目は私が迎えに行った車中。2回目は、ムスメと私と3人で、和食ファミレスでの食事の最中。
いずれも、話す声がデカ過ぎます、もう少し声のボリュームを落としてくださいと頼んだ直後。まるでもれなくついてくるおまけのように話すのだった。
「Gさんと図書館で話してたら、図書館員さんに注意されちゃったの」
そりゃそーだろ。図書館は閲覧の場であって、話をしに行く場所じゃない。
「それも、二度もよ!」
ゲッ!! 何がキライって、あたしゃ公共マナーを守れないヤツが嫌いなんだよ。それを我が母が・・・。
二度も注意されたということは、一度言ってもわからんちんだったってことではないか。恥ずかしい。
「こっちは迷惑をかけないように、小声で話してたのにねぇ」
ゲッ!! 絶対大声だったに違いない。小声でだって、図書館で話なんかするんじゃねー!
「筆談にしろや」
と私が言うのを、冗談として受け取り笑う母。あたしゃ本気です!
この時だって、ファミレス中のお客さんが振り向くくらいのボリュームで話すから、慌ててムスメと2人でたしなめたばかり。
「おばーちゃん、声が大きい」
なのに、ちっとも小声になっていやしない。
五百歩譲って、ボリュームを気にせず好きなだけ声を張り上げ話してもらうとしよう。
ダメダだめだ、絶対に駄目! 
なぜなら母は大声で話すのと連動して、必ず呼吸が荒くなる。
ままままま、そんなにコーフンしないでいいからっっっと止めずにはいられない。

基本的に、私は声が大きい人が苦手だ(特に♂)。
静かに、ゆっくり話す人が好きだ(オダギリジョー的に)。
女性も然り。
子バカになるが、母は40、50代の頃までは、割ときれいな声の持ち主だった。
もちろん、大声で話すような人ではなかった。
母の年齢頃の自分にはない品の良さが、母にはあった(ような気がする)。

幼児といういきものは、やたら声を張り上げる。
甥と姪が小さい頃、何度思ったことだろう──そんなに喚かなくていいよ、ちゃんと聞いてるからね。
母は、我が母は、聴力が未発達な幼児と同じようになってしまったことであるなぁ。
大きな違いあり。幼児の声は可愛いが、母のしわがれ声は可愛くない。
だからこそ、母には筆談を勧めたい。
常にノートとペンを持ち歩く。
相手の言葉が聴き取れないときは、相手にも書いてもらえばいい。
喉も酷使しないで済む⇒風邪と勘違いして不要な風邪薬を飲まずに済む⇒健康保持
「ほほほ、いつも書くもの持ってないとダメねぇ」
ダメだこのリアクション。実行する気、ないでしょう?

昨日楽天から届いた本「九十歳。何がめでたい」を5話ほど読んだ。
著者の佐藤愛子さんは私の母より多分3歳年上。娘さんは私より8ヵ月月上。
同世代母娘とあって、尚更興味深い。愛子さんの言葉を我が母の代弁として、噛み締めながら読んでいる。
『若者は夢と未来に向かって前進する。
 老人の前進は死に向かう。』
ドキッとくる一文が目に飛び込んでくる。
大丈夫、母だけじゃない、私だって誰だって、生まれた瞬間、死に向かっているんだと自分に言い聞かす。
佐藤さんのエッセイからは、高齢者の開き直り的「けっ!」という舌打ちが聞こえてきて、実に小気味よい。
明るくて、元気になれる。
母もちゃんと読んでくれてるといいなぁ。
母─後日談_b0080718_16581958.jpg









 


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by vitaminminc | 2017-11-15 16:59 | 人間 | Comments(0)