独り進歩ジウム

 一昨日の就寝前。
 いつものようにベッドに寝ながら時代小説「居眠り磐音江戸双紙」の20巻目を読んでいると、いつになくふたりがキャッキャとはしゃぎながら、逃走犯と追手役を交代しては8畳洋室の空間を最大限活用して走り回っていた。
 あんまり走り回るものだから、エネルギーが有り余ってるのだなと解釈した私は、部屋の温度が急激に下がるのも致し方なし、と部屋のドアを開けることにした。猫が走り抜けられるように、爪とぎをドアストッパー代わりに挟むと、まずくーちゃんがトトトトッと廊下に出ていった。うずらも数秒後に、こちらは一目散に廊下を出てすぐのところにある階段を走り下りていく気配。
(うっひゃ~、寒い!)私は慌てて布団に潜り込み、廊下から容赦なく入り込んでくる冷気に負けじと再び文庫本を手にした。
 が、間もなく分厚い布団を介して、足もとと腹の上に重みを感じた。
「なんだ、もう戻って来たんかい」
 私は部屋の中にふたりが戻っていることを確認すると、廊下の電気を消してドアを閉めた。もともと部屋から出たがらないふたりだが、部屋の外のあまりの寒さに耐えられなかったようだ。
 かくして、ふたりの捕り物が再開する中、私は江戸時代にワープしたのであった。
「イデ!」
 顔面と左手に鋭い衝撃を受け、私は上体を起こした。
「何をするんですか!」
 となぜか丁寧語で悪態をつきながら、鼻梁から少なくとも流血はしていないことを確かめホッとしつつ、左手の親指の付け根の下3cmの手のひらから流血していることを確認してハッとした。
 1階の洗面所の鏡で顔を確認しながら推理した。
 ベッドの端からジャンプしたうずらの前足は、私が手にしていた文庫本の上(その真下は私の顔面)に着地し、後ろ足は文庫本を手放して宙をさまよっていた私の左手の腹を捕らえつつ踏み台に使われたようだ。目撃したわけではないが、こういう瞬間的無意識の暴力は、ほぼ100%犯猫はうずらなのだ。なぜなら、くーちゃんはわざとゆっくりと私の腹の上を踏みつけて歩いてみたり、どっしりと私の胸の上に箱座りしてこちらを観察する、意識的な「御覧あさ~せ」タイプだからだ。
 文庫本のお陰で、顔面は痛みの割に無傷であったが、皮の薄い手のひらにはくっきりとうずらの爪痕が刻まれ、血が出ていた。
 水道水で洗い流してティッシュで圧迫して止血したあと、消毒スプレーを噴霧した。
 そして、懲りずに小説の続きを読みながら、
(日曜になったらふたりとも動物病院に連れていって、爪を切ってもらわねば)
 と決意したのだった。
 で、今朝。
 起床してすぐにフレンドリー効果フェロモン「フェリウェイ」を仕掛けた。お恥ずかしい話、朝とか言いつつ、起きたら10:26だった。
 あぶねーあぶねー。おちおちしてたら動物病院の午前の部が終わっちまう。
 前回は、捕獲30分前にフェリウェイをコンセントに差した。時間が短かったからだろう、うずらの凶暴性は前より少しマシになった程度で、相変わらずコブラだった。
 今回は、コンセントに差し込んでから遅い朝食を済ませたり身支度したりで、優に1時間は揮発させた。部屋中友好フェロモンで満たされていたに違いない。
 私がキャリーバッグや洗濯ネットを手に部屋に入ると、いつもなら殺気づくふたりが、「嘘~~~ん」という表情で、さてどうやって逃げようかしらと品よく思案しているのだった。
 あのうずらが、シャーシャー言わなかった。これをフェリウェイ効果と言わず何と言おう。
 おかげで、ふたりともそれなりに抵抗したので、それなりに手間取りはしたものの、いつもの半分以下の時間&恐怖感で捕獲に成功。
 玄関までキャリーバッグを運んで行ったところで、ふと思った。
(いつもよりずっと穏やかに捕獲できた今、私自身が爪を切るのもアリなのではないか?)
 そう、これまで私以外の誰にも爪を切らせなかった初代飼い猫マイを筆頭に、迎える猫という猫の爪を自ら切ってきた私。うずらとくーちゃんという強敵を前に、爪を切ることが出来ない自分の不甲斐なさに、どれほど傷つき情けなく思ったことか。
「私、自分で切ってみる!」
 思わず叫んでいた。
 試験期間中なので、自室で勉強してる(と信じたい)ムスコが、「え”」と不思議な声で応えた。ヤツは少し前、まさにくーちゃんを捕獲している最中、突然私の部屋を開けて、「朝飯出来てる?」と訊いた。
「フライパンにできてるよ!」
「なに、猫捕まえてんの? どっち?」
「白黒! くーちゃん! ふたりとも医者に爪切りに連れてくの!」
 ムスコは私の手元を見た。遊具のトンネルに逃げ込んだくーちゃんを捕らえるため、トンネルの一方の出入り口を壁に押し付け、もう片方の出入り口にネットを被せ、じりじりと蛇腹状のトンネルを折り畳み、縮めているところだった。
「ほんとに猫、こん中入ってるの?」
 ムスコが信じらんねーという顔で言うので、私も冷静になって手元のトンネルを凝視した。
 トンネルの縦幅は、今や25cmほどまで折り畳まれ縮まっていた。しかし、はみ出ていいはずの白黒の毛がまったく見えない。
 ムスコがトンネルの上からわしわしと素手で確認した。トンネルはぺしゃんこになった。
「入ってねー!」
 ギャハハギャハハと大笑いしているムスコの腰を小突きながら、私も笑った。
「いつ逃げたの~? さっきまでちゃんと入っていたのに、あんたが邪魔するから~」
 イリュージョンをやってのけた引田天くーは、ドレッサーの椅子の下に、仲良くうずらと一緒にくっ付き合うようにして隠れていた。
 フェリウェイのフレンドリー効果、侮りがたし!

 そんなわけで、一度玄関まで運んだキャリーバッグをえっちらおっちら部屋に戻すと、まず手ごわいうずらをネットに入れたまま床に引っ張り出した。
 ネットごと抱っこして、動物病院で先生がやるように、狙いを定めた足の近くにファスナーの開け口をうまいこと移動させ、片方の前足のみ引き出した。
 フェリウェイとネットの助けを借りて、難なく5本の爪を切ることができた。続いてもう片方の手。次にアンヨ。途中いやいやをするうずらの額をネットの上から撫でて、バスタオルを顔にかけて視界を塞ぐと、観念したようにおとなしくなった。
(足の爪は4本だよね? 狼爪と呼ばれるのが退化してるから、4本でいいんだよね?)
 切り残しがないように、何度も1本1本確かめ、無事に両手両足を切り終えた。

 お次は引田天くー。意外とくーちゃんの方が手こずった。
 くーちゃんは後ろ足からスタート。
 まん丸の身体に似合わず、アンヨは小さく可愛い。うずらより1周り半ほど小足である。
「くーちゃんは爪まで小さいんだねぇ」
 それでも気力と体力がある分、くーちゃんは何度ももがく。
 動かれるとくーちゃん自身が怪我をしてしまう。
「ごめんなさいね、ごめんなさいね~」
 キレると怖いくーちゃんを崇め奉り、額をゆっくり撫でてはご機嫌を取った。

 ヤッター!
 上級者向き野生猫ふたりの爪切り、とうとうやり遂げやした!
 もちろん、目標はネットなしで切れるようになること。
 まあ、ネットに入っていた方が当猫たちが落ち着くというのもあるから、あまり無理はしないでおくか。
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爪切りを終えた直後のうずら。一気に10歳老けてしまった。痩せてるくせに団子に見えるのは、ストレスで毛が総毛立ってふくらみ、固まっているせい。
ムスメがこの画像を見て「なんだ? いつものうずぴの顔じゃない!? ガーフィールドみたい」と笑った。耳を伏せていないのがせめてもの救い。額のコブラ柄、今回は出る幕なし。胸中何を思っていることやら・・・。


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同じく、爪を切り終えた直後の若返った感のあるくー様。背後のベランダに残る雪のように真っ白な白い毛。太っているくせにスッキリ。ネットに入れられ爪を切られた屈辱より、解放され自由を得たという直近の喜びからか?


 

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Commented by g-tant at 2018-01-31 23:43
二匹は大変ですね〜
何故か以前の子達は大人しく一緒に寝てたのですけど(と言っても金縛り状態)
ペロは朝早く起きてからドタドタと走り回り最後は助走をしてジャンピングアタック
5キロのやつの全力アタックは効きます
爪切りは先生にお任せ何しろ豪腕なんで
Commented by vitaminminc at 2018-02-01 16:19
☆ゼペットさま☆
うちの5キロ級のくーちゃん(白黒女子)も、怒らせると牙が凶器になるし、ビビリのうずらは毎回コブラになって死に物狂いの抵抗をして、鎌と化した爪で何度流血したことか。
え? ペロ様はここまでじゃない?
しかし、ようやく光が見えました。フェロモンなどでズルしちゃいますが、医者に行くストレスは受けずに済むのだから許してチョという感じです。
実際、許された雰囲気を実感いたしました。
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by vitaminminc | 2018-01-28 13:55 | 生きもの | Comments(2)

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by みん子