ドキュメンタリー/我が家の節分

今年の節分は、珍しく家族全員揃って家にいた。
ならばコンビニが仕掛け、今や全国区に定着してしまった恵方巻きを作らねばなるまい。しかし、なにゆえ関西の風習を真似せねばならんのだ。こちとら埼玉に住んじゃいるが、江戸っ子なんでぃ。てやんでぃ。
浅ッい歴史の渦の中、くるくる踊らされながら、くるくる海苔を巻くのかい。まくといえば、豆まきの豆も買い忘れているではないか。いかんいかん、豆まきだけは欠かしたことがないというのに。
観念した私は、徒歩10分ほどの所にあるコープみらいまで、豆と太巻の具材を買いに行った。

卵、サーモン、海老、カイワレ、沢庵(干瓢の代役)などを並べ、一気にくるんと巻いた。
手加減が馬鹿力級だったので、4匹並べた海老の内、左端の1匹がロケット噴射して床に落ちた。
ヘラッと笑いながら拾って水洗いして、ピッピと水を切り、ぐいっと太巻の端に捩じ込んだ。我ながら雑ッ!
作る過程がいかにひどくとも、見た目はきれいな恵方巻きちゃん。
皿に盛り付け、大きな子ども2人を夕飯に呼んだ。
ムスメ「恵方巻き作ったんだ、いいね~♪」
そしておもむろに食べ始めた弟に向かって、姉が言った。
ムスメ「南南東に向かって願い事をしなきゃダメなんだよ」
ワタシ「南南東はどっち?」
全員ムスメが指差す方──つまり、それまで通りテレビを見ながら、そしてテレビ番組の進行に集中力を妨げられながら何かしら祈りつつ食べた。
本来は物言わず一気に祈りを込めて食べるものらしい。歴史がないくせに、なぜか作法はしっかりある。
しかし、我が家は我が家流を貫くのみ。一口食べては醤油皿に太巻の先をちょんちょん浸しながらいただいた。甘く煮込んだ干瓢がキライなので、味付け役として沢庵を抜擢してはみたものの、歯応えしか演じてくれなかったからである。
恵方巻きを食べ終えたムスコが、さっさと自室に引き揚げようと居間のドアに手をかけた。
ワタシ「ちょっと待って。豆まきしてよ」
ムスコ「俺が?」(⬅白々しいにも程がある)
ワタシ「毎年やってくれてたでしょ」
ムスコ「え? そうだっけ?」(⬅精一杯の抵抗か)
ムスメ「やってたやってた」
不思議なことに、こうしたことには従順なムスコ、私から豆が入った器を渡されると窓を20cmばかり開けた。年々細くなる。
そして、地声より半オクターブ低い声で、「鬼は外」と不気味につぶやき、力なく豆を外にピッとまく。それを見てムスメが吹き出した。いっそムスメが口から飛ばした方が勢いがありそうだ。
ワタシ「あ、家の中にはまかないで、福は内の分は口に入れちゃって(後片付けが面倒だから)」
ムスコ「福は内、ポリポリポリ…」
ムスメ「あはははは…」
この、アングラ劇場の一幕のような豆まきが終了したあと、ムスコが言った。
「腹減った。夕飯何?」
おい。豆まきをする前、おまえは確かに2階に引き揚げようとしたよな。それは、《夕食を終えた》ことを認識したからだよな。なのに豆まきをした後、おまえはすでに空腹を覚えている。あの奈落の底よりも低いテンションで、一体どれだけのエネルギーを消費したというのだ──というようなことを私が頭の中で思っている最中、ムスメが弟に言っていた。
「え? 今の恵方巻きが夕飯だよ。私は十分足りたよ」
しかし、恵方巻きを作りながら、一抹の不安はあったのだ。
(これで足りるかな、ムスコ)
純粋な休日を与えられていないブラック企業よりスーパーブラックな主婦。ここ季節の分かれ目にきて、エネルギーが切れかかっていたのである。恵方巻き以外作る気にならなかったんである。
ムスコ「なんかない? スープみたいのでいいから」
ワタシ「なら、卵スープ作ろうか?」
ムスメ「あ、卵スープがいい♪」
ムスメは私が定時に帰れるよう私の肩をもってくれていたはずの手のひらを返すと、今度は私の残業の後押しをした。
温かいスープを飲みながら、今年の節分も幻聴を耳にした。
寒いのに窓をいっぱいに開ける音。
「鬼は外、福は内!」と叫ぶ可愛い声。
外の地面に、家の床に散らばる豆の音。

15年以上前の、懐かしい音。








[PR]
Commented by g-tant at 2018-02-06 11:47
我が家もオットドッコイ氏が両親の疎開のせいで浅草生まれのはずが埼玉生まれの埼玉育ちになってしまったので・・・何かと江戸っ子になるんです
そんなわけ恵方巻きは一切登場せず、まあ歳も歳ですので誤嚥を起こさないためにもいいのかなと

家族揃っての食事の思い出、お父様のレザージャケットを照れながら来ている息子さん子供のいない我が家にとっては羨ましい限りです
Commented by vitaminminc at 2018-02-06 23:14
☆ゼペットさま☆
うちの子供らは当然私のことをリーダーなんて思っちゃおりません。飯炊き&洗濯ババアと思っております。
ワンコかニャンコどちらに近いかと言われたら、でかい猫のようなもんです。しかも猫みたく可愛くじゃれないくせに、猫より部屋を散らかすのであります。
躾がなってなかったことも「だって猫だもの」で諦めがつきます。
居間にやたら私物を置いていますが、縄張り意識のマーキングと思って諦めております。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
by vitaminminc | 2018-02-04 03:31 | 人間 | Comments(2)

日々の暮らしに「ん?」を発見


by みん子