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怒りの矛先

 夏の終わりのことでした。
 いつも利用している収容台数100台ほどの駐輪場に入ろうとすると、一人の挙動不審男が目に入りました。その男は、駐輪場の一番奥にある通路左端のトタン塀に向かって立っていました。 
 軽犯罪を犯す直前、もしくは最中、あるいは直後だと思った私は、敢えて人の気配をさせることで、とっととその不謹慎な行為を終わらせるべく、ドタドタと立てなくてもいい足音を立てながら、駐輪場に突入しました。
 案の定、男はギョッとした体で慌てて身繕いした様子でした。 
 朝、自転車を停めた時に記憶したはずの2桁の駐輪番号は、頭に上ったO型血液によってきれいさっぱり洗い流されました。そのため、つかつかと男のそばまで歩み寄らねばなりませんでした。なぜならマイ・チャリは、あろうことかその日に限って一番奥の列の一番左端に停めてあったからです。
 素早く番号を確認し、再び入り口付近まで戻って精算機に100円玉を投入しました。男にほんのわずかでも罪悪感や羞恥心が残っていたなら、私が清算している間に即刻駐輪場から退散していたことでしょう。
 最悪なことに、男は予想以上にふてぶてしいバカ野郎なのでした。私が自転車を取りに戻ると、男はまだ通路にいました。自分の自転車を駐輪ラックから引き出しているところでした。
 私は心の中で立小便男を激しくののしりながらマイ・チャリの鍵を外しました。自転車をラックから引き出す際、細心の注意をはらったにも関わらず、後輪が地面に流れた汚らわしい小便を轢いてしまいました。怒りで脳みそが熔解しそうです。
 しかも、まだすぐ近くに小便男の気配がします。一体何をグズグズしているのでしょう。ファスナーで何かを挟みでもしたのでしょうか。バカヤロー!
 しかし次の瞬間、頭に上ったRH+の血液は、一気に急降下しました。
 いい加減駐輪場の外に出ていていいはずの小便男が、テメーの自転車を支え持ち、出口の方ではなく、私の方を向いて立っていたからです。出入り口は道路に面した一ヵ所のみで、私が立っている方向には小便の跡が生々しいトタン塀しかありません。
 それまでは、いかにモラール星人の私であろうとも、1%くらいは同情してもいたのです。20mほど先にコンビニがあるけれど、尿意がMAXに到達し、いかんともしがたい状況に追い込まれ、泣く泣く駐輪場で放尿するしかなかったのかもしれないと。
 1%の同情心は、100%の恐怖心に変わりました。
 小便男は、薄ら笑いを浮かべて自転車と共に立っていました。狭い通路です。立ったままでいることは、立ちはだかっているのと同じでした。
 物凄く怖かったのですが、ここで立ちすくんだら負けだと思いました。幸いサングラスをかけていたので、おびえた表情など読み取られるはずもありません。私は、マイ・チャリを武器に、小便男に立ち向かって行きました。とっととどかねーかバカヤロー! さっさとどかねーと、この前輪でそのだらしない〇〇を××するぞバカヤロー!(⬅すべて心の声で、実際は無言)恐怖のあまり血の気も品位も失せました。
 男の顔から薄ら笑いがスッと消え、クルッと背を向けるが早いか、アッという間に視界から消え失せました。
 あの一番奥の通路のトタン塀には、「立小便禁止」の立て札が必要だなと思いながら自転車をこいで家に帰りました。
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 家にはまだ夏休み中の大学生のムスコがおりました。
 私は駐輪場で遭った災難の一部始終を話しました。
 するとムスコは言いました。
「わかる~~~」
「わかってくれる? とにかく怖かったの~!」
「いや、駐輪場って、なんでだかしたくなるのョ」
「え”?」
「オレも一度だけだけど駐輪場でしたことある」
「えぇ!?」
「成人式のあとの飲み会の帰り、駅の近くの駐輪場で、△△と□□(←おな中の同級生)と3人で」
「それ軽犯罪だよ!?」
「いや、時効時効。『おーぃ小便したくなったべ』『オレもしたくなったべ』『みんなですっぺ』─
 ムスコは当時のことを思い出したらしく、笑いながら❛実況❜を続けました。
─駐輪場って緩やかに傾斜してるじゃん?『おっとっと、流れてくっぺや』『おぃおぃこっち流すでねーよ』『んなこと言われても止めらんねーべ』(笑)」
 神様。私はこんなにもモラール星人だというのに、いつのまにやらムスコを変態に育て上げてしまったようです。

 もう、怒りの〇ン矛先をどこに向けたらいいのかわかりません。
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ネットで見つけたにゃんとも可愛い駐輪場の猫さんたち。こんな監視員さんがいたらいいのに。


 
 
 

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by vitaminminc | 2018-10-12 11:57 | 笑い | Comments(0)