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連れてけなくてゴメン

何年ぶりだろう。
夢で父と会った。
父が、私に行きたい所を告げた。
夢の中だからだろう。よく聴き取れない。耳に真綿が詰まったみたいに。
「名称がわからなくても、住所わかる? 住所がわかればナビ使って行けるはず」
私がそう言うと、父が今度は明確に住所を告げた。
「台東区浅草1丁目1-1」
私はナビゲーションシステムに行先の住所を入力し始めた。
すると、浅草1丁目まで入れたところで、よその車にクラクションを鳴らされた。
道路の端に車を停めていたとはいえ、ひどく道幅が狭いので通行の妨げになっていた。
「お父さん、ちょっと移動するから待って─」
仕方なく車を走らせたところで、アラームが鳴った。
夢が寸断され、現実の朝の到来。
起きてすぐ、(浅草1丁目1-1って、何があるんだろう?)と思って住所検索をした。
思いきり苦笑。
父は本所(現在の東京都墨田区南西部。下谷・浅草・深川と並び、東京の下町として栄えた)の生まれだ。浅草にも馴染みが深い。どこぞのバーで酒を飲んでいたら(寅さんで有名な)渥美清がカウンターの端で酒を飲んでいた、映画の印象と違ってとても物静かな人だったよ、などと話していたことがある。もしかしたらこのバーだったのではないだろうか。
父は生前たいそう酒好きだった。かわいい呑兵衛だったわけではない。飲めば必ず飲み過ぎて、飲み過ぎると必ず家族に当たった。最低の飲み方をする人だった。
だから私は酒が入った時の父が嫌いだった。どうして機嫌よく飲めているところで切り上げることができないのだろうと子ども心に情けなく思った。
何より頭に来るのは、正体不明になるほど飲んで帰るくせに、外では「お酒が入ると楽しい人」で通っていたことだ。
町内会や老人会、夏祭りのムードメーカーとして、憎たらしいほど人気者だった。
「〇〇さん(私の旧姓で父の苗字)が来ないんじゃ面白くない。何が何でも参加してもらわないと」
などとおだてられ、(酒が飲める)といっちゃー嬉々として足を運び、参加した。
町内会旅行では、観光バスの中でべろんべろんに酔って怪我をして帰って来たこともある。
この時も外面の良さだけはパーフェクト。笑顔で解散し、帰宅してアルコールが抜けていくに従い、「怪我」が明るみになっていった。
本人は自分の身に何が起こったか覚えておらず、解散する時、目撃者の1人に「本当に大丈夫ですか」と心配されたらしい。
その人の話では、酔っぱらってフラフラと席を立ち、走行中のバスの中を移動しようとして転倒。座席のひじ掛けに胸をしたたか打ちつけたようなのだ。
気休めに湿布を貼って寝てはみたが、痛くて夜中に何度も目が覚めたという。翌朝になっても痛みは引かず増すばかり。
家族全員に医者に診てもらった方がいいと説得され、珍しく素直に従ったところ、肋骨2本にヒビが入っていて、さらしを巻いて帰宅した。
そんなわけで、母は父と一緒に飲酒付きのイベントに参加することは全くなく、父は父で母の不参加に大賛成だった。
飲み過ぎて帰っては母に暴言を吐く父だったが、そのとばっちりは娘の私も受けた。悔しいことに、兄はこの手の被害を被ったことがない。
外で酒を飲めない日が3日も続くと、父の機嫌は確実に悪くなる。
それは「八つ当たり」という形で私にも飛び火した。
本当に、「子どもか」というような低レベルの難癖をつけられ、私の従い方が少しでも気に入らないと、父は私が最も大切にしているものに手を出した。
「ふん、ほら、どこにでも自由に行きやがれ!」
そう言って父は私の目の前で犬の鎖を解く。
「どうしてそういうことするの!?」
躾不十分な犬は私の心配をよそに、自由になれた喜びを追い風に走り出す。私が呼ぶのもお構いなしに、狂ったように土手目がけてすっ飛んでいってしまう。
(車に轢かれたらどうしよう)
慌てて追いかけて行くが、捕まりゃしない。
母が自転車で私を迎えに来る。
「あとはお母さんも探すから、みん子は学校行きなさい。遅刻しちゃうから!」
学校に行っても犬が心配で心配で、授業どころではない。
この最高に理不尽な嫌がらせを、私は少なくとも合計3回は受けた。
(父は私と同じくらい動物が好きなはずなのに、どうしてこういう真似が出来るんだろう? 本当に交通事故に遭って死んじゃったら私は父を一生許さない)
またある時は、やはり父に理不尽なことを言われ、ぶんむくれて自室に閉じこもった末、トイレに行こうと部屋を出たら、私の部屋の前にキャットフードが丸々1袋分、ぶちまけられていた。部屋の外で父が悪態をつきながら、何やらやっているとは思ったが、まさかキャットフードを撒き散らかしていようとは。
ほうきと塵取りで餌をかき集めながら、大人げないにも程があると心底呆れた。
父には父自身の幼少期の逸話も数多くあるが、それはまたの機会にでも─。

実は今朝、忽然とうずぴが消えた。
早朝、うずぴがやたら私に甘えてきた。寝ている私の右に来ては額をこすりつけ、左に回っては身体を擦りつけ、ふだんがふだんなだけに、そんなうずぴが可愛くて仕方なかった。起きた時にうずぴは部屋にいなかったが、ドアを開放してあったので、廊下や玄関を散策しているのだろうと思った。
会社に行く時もまだ姿が見えないままだった。どこかに隠れているんだろうと思い、いつでも戻って来られるように、部屋のドアを開けたまま出勤した。
ところが、仕事から戻っても、相変わらずうずぴの姿が見えない。名前を呼んだり、大好きなおもちゃの鈴を鳴らしたり、逆に掃除機をかけて脅かすことで飛び出てこさせようと試みもしたが、どこにもいないし鳴き声もしない。
以前見落としていた3段ケージの死角になる3F奥も、廊下の書棚の上も、洗濯物を干している影も、納戸も風呂場も下駄箱の下も、どこもかしこもすべて確認したが、どこにもいない!
ゴミを出しに行ったのはいつだっけ? ムスコが起きる前だ。だとしたら、ムスコを警戒することなく廊下を自由に行き来していたはず。
もしかしたら、ゴミを出しに行こうと玄関ドアを開けた隙に、外に飛び出してしまったのではないだろうか?
足もとも見えないくらい大きなゴミ袋だったから、うずぴを見逃してしまったのでは?
2階の窓から家の周りを見てみたが、姿は見えない。近所も歩いて探してみたが、どこにもいない。
うずぴのような臆病な猫は、夢中で飛び出したはいいけれど、怖くて身動きできなくなってしまっているのかもしれない。
私は半狂乱のようになり、心臓だけ無駄に早打ちさせ、途方に暮れた。
そもそもうずぴは今日に限って、早朝なんであんなに甘えてきたのか。
もしかして「お別れ」の挨拶だったのでは?
鼻の奥がつんとして、へなへなと力が抜けていく気がした。何度も何度も探して、ケージの2Fで寝ているくーちゃんに何回も尋ねた。
「うずぴを知らない?」
くーちゃんは眠そうな顔を見せるだけで、何も教えてくれない。
再び1階を探し回り、諦め切れずに外を眺め、外を歩き回り、またもや2階にあがって部屋に入ると、床の隅に茶色い塊があった!
両目の涙腺が一気に決壊した。
「うずぴ!」
うずぴは何やら(腑に落ちない)という表情で、なぜか中腰のままじっと私の顔を見ている。舌をペロペロ出し入れして、鼻をひくひくさせて、何か訴えようとしていた。
私は自分でもスんゲーバカみたいだと自覚しつつ、いい年をしてしゃくりあげながら、負けじとうずぴに話しかけた。
「どこにいたの? 心配したんだよ。よかった、よかったー、いてくれて。ホントに心配したんだよ。どこか遠くに行っちゃったかと思った、うぇっ、うぇっ」

私は断言する。
父だ。父の仕業だ。私の大切なうずぴを連れて、父はぷらっぷら歩いて神谷バーに行ったのだ。
うずぴのあの顔を見よ。
(なんでこうにゃったのかさっぱりわからにゃい)という顔ではないか。
父ならやる。動物が好きで、娘の大切なものがわかっていて、何をすれば娘が一番うろたえるかを知っている父ならば。
来月お墓参りに行くから、機嫌直してほしい。
そしてもううずぴを神隠し(神谷バーに連れて行く)に遭わせないで欲しい。
連れてけなくてゴメン_b0080718_17573813.jpg
ただいま...





Commented by g-tant at 2019-07-22 21:47
ああああ〜倒れそう
Commented by vitaminminc at 2019-07-22 23:40
★ゼペットおばさま★
なぜに?(笑)
デンキブランで酔っちゃいましたか?
ワタクシのイカレた思考回路にめまいを覚えましたか?
Commented by olion3754cona at 2019-07-23 00:15
うずぴちゃん、白い靴下履いてかわゆいこと。
お父さん可愛くないことするね~。(^.^)
そうやって面白かった?のかな。

Commented by vitaminminc at 2019-07-23 06:30
★シエルさま★
よく言えば少年(悪ガキ)の心を持ったまま大人になってしまったのですね。自分の思い通りにいかないとムシャクシャして、その人(ほぼ私)が一番困ることをしてくれちゃうのでした。
今ならそんな父の扱いなどお茶の子サイサイですが、当時は私もまだ子どもでしたからねぇ。父はただ、さみしがりやだったのだと思います。
Commented by たたこ at 2019-07-23 09:36 x
家は母が動物嫌いで 拾った犬を持ち帰る私に 面倒もみないくせに拾った所において来い と命令した その時の母が大嫌いだったわ~ 絶対面倒みたもんね!!
無口な父は 泥酔して 大きい野良猫を何度かお持ち帰りした事があります 私の動物好きは父の遺伝 決定(笑)
お父様 酷いわ~~~~~  うずぴちゃん 居てよかった❕
Commented by vitaminminc at 2019-07-23 18:47
★たたこさま★
父に何度も大切なわんこを放されたことがトラウマになって、もう他界してるにも関わらず父が拐かしたんだと妄想してしまいますぅ(笑)
実際、自由になったために車にはねられた子もいたんですよ! 運良く捻挫で済んで、この時は父が添え木して湿布しただけで治ったから良かったものの、懲りないわけですよ。

でも私が拾ってきた子猫にミルクを与えたり、捨て犬を飼ってもいいよと言ってくれたのも父。
それにしてもエキセントリックな人で、私ばかりずいぶん振り回されました。ふはは…
Commented by g-tant at 2019-07-23 19:34
本当にうずぴが家出したのではと・・・・
みんこ様の脳内にはちと怖くて入っていけません ハイ
Commented by vitaminminc at 2019-07-24 06:12
★ゼペットおばさま★
そんなこと仰らずに、いつでもお入りくだしゃんせ ホイ
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by vitaminminc | 2019-07-22 18:29 | あの世 | Comments(8)