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揺れる

揺れる_b0080718_11234239.jpg 最近、揺れてます? 通勤電車とか震度2の地震とかじゃなくて、何かに身を任せて、揺れたりします? 心が揺れてどうするんですか。まぁ心が揺れたっていいですけど。

──ってなことを問いかけたくなったのは、遠い昔に揺られたハンモックのことをふと思い出したからだ。
 私が子どもの頃、家にはハンモックがあった。ハンモックだけではない。籐製のブランコもあった。気が向けばそれらに身を任せて、好きなだけ揺られてられた。夏の昼下がりには蝉の声を子守唄に、目を開けたまま、揺れて揺られて─夢見るように過ごしたものだ。
 なんていうと、広い芝生の庭だとか、ウッドデッキの玄関先だとか、アメリカ映画に出てくる田舎の家に育ったようだが、実際はまったく違う。ハンモックも籐製のブランコも、すべて家の中にあった。
 ハンモックは、六畳の和室(両親の寝室)。2本の柱に太いフックを取り付けて。普段は片側の柱にまとめておいて、使う時だけネットを広げる。片方の支柱バーの先の輪を、向こうの柱のフックに掛ける。
 ブランコは私の個室(1.5坪の畳部屋)。開け放った障子の上の鴨居にひっかけ吊り下げて、昼間はいつでも乗れたのだ。
 これらはすべて父の趣味。すごいセンスだが、子どもの辞書にミスマッチという言葉はない。畳の上にハンモックが渡してあろうが、障子の代わりに籐製ブランコが下がっていようが、そんなことは問題じゃない。風にゆれる木の葉のように、あるがままを受け入れ揺れる──大好きだったなぁ、揺れるのりもの。

 考えてみると、もうずいぶん長いこと揺られていない。公園のブランコに、最後に乗ったのはいつだったろう。黒澤映画「生きる」のワンシーンが蘇る。あれは確か、病気で余命いくばくもない主人公(役所の人間)が、地元住民の要望に初めて耳を傾け奔走する。市民の憩える公園をつくるために。ようやくその願いが叶った公園で、主人公は自分がもう長くないことを悟り、たった一人ブランコに揺られるのだ。ひとこぎひとこぎ、しみじみと。自分が生きた最後の証を噛みしめるようにして・・・そんな話じゃなかったか。

 自分の部屋の入り口にあった幼児用ブランコは、私が小学校低学年のうちに、もっと小さな子どものいる親戚の家にもらわれていった。大好きだったハンモックは、ある年の夏休みに難破した。兄(小6)と私といとこ(小4)の三人で、「嵐にあった船」ごっこをしている時に、悲劇は起きた。ハンモックの両端の張り木を掴んだ二人が、中の一人を振り落とすまで過激に揺らす。そんなろくでもない遊びをしている最中、ものの見事に大破した。新しいのを買ってもらえるかと期待したが、「買っても壊す」と決めつけられて、とうとう我が家から「揺れる」すべてが姿を消した。
 
 電車の揺れも“1/f 揺らぎ”らしいから、ブランコやハンモックの揺れも、それに近かったんだろう。とにかく心地よかった。心地よかったという記憶しかない。ブランコやハンモックに身を任せ、α波を放ちながら、いくらでも空想に浸っていられた。
 ブランコはムリでも、ハンモックになら大人でも乗れる。アウトドア用品のコーナーで、2000円位で手に入る。ただ、今の家の柱に吊るして、今の私が横たわったら、どうなるか。築30年を越す古家の柱。「人」という字を描きそうで怖い。家自体が揺らいでしまってはシャレにならない。心地よくもない。

 あ~ぁ、今のポリプロピレン製のネットなんかじゃなくってさぁ、あの懐かしいコットン素材の網の中、くもの巣にかかった幼虫のように、背中を丸めて目を閉じるのだ。観念しながら眠りについて、虚しくかぼそく祈るのだ─いつの日か、飛べますように─舞い飛ぶように、舞い飛ぶように、揺られながら、夢が見たい・・zzz・・・☆
Commented by 鱗のファン at 2006-07-22 20:55 x
なんだか妖しいブログに変身したみたい。
前の明るい背景も良かったのになぁ。
Commented by vitaminminc at 2006-07-24 17:37
いやホント(∩∩;ゞ ただでさえ話の内容が妖しいのに、部屋の灯りまで消したら話の出口が見つからないのなんのって。前に貼り付けた墓石(墨)が、重い軽石に見えるのを発見した瞬間、元に戻そうと思っていたところで。ご心配おかけしました♪
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by vitaminminc | 2006-07-18 11:23 | 人間 | Comments(2)