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消えた昆虫標本セット

 昨夜、季節はずれの花火なんかをやったせいだろうか。セミたちの終末を想ううちに、かつて怖~いシロモノがこの世に、それも子どもの手の届くところにあったことを思い出した。

 小学校低学年の頃。
 近所の駄菓子やでは「昆虫標本セット」が普通に売られていた。値段だって子どもの小遣いに毛が生えた程度。セットの内容は、軟質プラスチック製ピンセット、脱脂綿、防腐剤、そして注射器だったように思う。
 驚くなかれ、注射器である、注射器。私の記憶に尾ひれがついてなければ、太めではあったが、ちゃんと注射針がついちゃった注射器だった。
 ジッ!ジジー!!と鳴いて暴れるアブラゼミを左手でつかみ、右手でセミの腹に針を刺そうとする兄に、私は両手ですがった。
「セミは一週間しか生きられないんでしょ、やめようよぉ、そんなこと」
 だが、兄にはジキル博士が憑りついていた。
「腐らせないためだ」とかなんとか言っちゃって、職務を遂行してしまう。当時セミなど、いない木を探す方が厄介なくらい、それこそ‘腐るほど’たくさんいたというのに。

 今の世の中、もしもこんなオモチャの標本セットが売られていたら・・・? 考えただけでもゾッとする。境界線を知らない子どもたちや、境界線を超えた大人たちが増えている。筋弛緩剤殺人をまねて、虫ではなく弱い者に針を向けないとも限らない。数人で1人を取り囲み、押さえつけて、不衛生な注射針を腕に突き刺し、粗悪品の防腐剤を注入──そんな光景が頭に浮かんで、空恐ろしくなる。
 子ども相手にあんなアブナイものが売られていたなんて、今では考えられない。当時、死人は出なかったのか。怪しげな防腐剤、誤って人に刺しても致死量とはならないにしても、さっきまで元気だったセミは死んだ。大事に至る前に製造および販売中止になったのかもしれない。
 それでも昔の子どもの思考回路は、今の人々よりアンゼンだったように思う。単純だったのかもしれない。なんとなく、やっていいことといけないことの区別が、本能的に備わっていたような気がする。環境なんかもひっくるめてだが、何かを悪用するという考えが頭をよぎらないように、目には見えないストッパーが働いていたように思う。
 昔子どもだった大人と、今の子どもたちを様々な犯罪に駆り立てるのは、いったい何なのか。キケンな標本セットが何食わぬ顔をして駄菓子屋で売られていた背景には、当時の人々の思考回路が基本的にアンゼンにできていたという事実があって、それが規制の甘さにもあらわれていたのだと思う。そう断言したい。

 なぜ、‘ストッパー’が作動しなくなったのだろう?
 意識を宇宙の果てまで飛ばすと、地球が脱脂綿に思えてくる。私たち人間は、自分たちで調合した粗悪な防腐剤に浸り、呼吸し、ときに注射針を刺し合っては硬直を急ぐ。

 何かの標本になろうとしているのかもしれない。
消えた昆虫標本セット_b0080718_16491028.jpg
 
                (写真/Nautilus様より拝借)
Commented by nikuちゃん at 2006-09-10 23:22 x
あったよね~、うちも持ってたもん。兄と昆虫採集に行く時は三角パラフィンの入った缶を腰に下げて、蝶なんか捕ったらすぐに羽に傷つかないようにパラフィンに入れて持ち帰りよ。
家では防腐剤を注射して、虫ピンでコルクの敷かれた最終箱に指しておしまい。
虫取り網だって三段つなぎの大きいやつよ。網の部分はちゃんとバネが入っていて、今みたいにチャチな網じゃなかったわ。
子供が生まれた時、網と採集セットを探したけどなかった。昔は近所のデパートで普通に売られていたのに・・・。
Commented by vitaminminc at 2006-09-14 15:53
最終箱っていうから「棺」のことかと思ったら、採集箱ね? 最終箱の方がシュールでいいね! 今は採集セットといったら、マニア向けの本格的なものしかないみたいです。
Commented by Cialis generic at 2018-04-18 18:04 x

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Commented by GerryUrits at 2018-04-19 04:01 x

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by vitaminminc | 2006-09-08 14:43 | 昆虫標本 | Comments(4)