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アニデン

 数日前の晩のこと。お風呂に入っていたら、ムスコが呼びにきた。
「ママ、おばあちゃんから電話」
 母は健康オタクである。身体によい体操や食材を紹介しているテレビ番組を見ては、「今すぐ○○チャンネルをつけて見てごらんなさい」なんて電話を寄越す。
「お風呂から出たら、こっちから電話するって言って」
「は~い」

 それから15分ほどして、再びムスコが呼びにきた。
「ママ、今度はおじちゃんから電話」
「え!?」
「ママがお風呂に入ってること伝えたら、出たら電話くださいって」
 兄からの電話=不吉の象徴・・・ではないか!! 兄は非常に寡黙な人間だ。ほんとーのホントーに必要なことしか話さない。最近では、5年前の父の死を知らせる電話、翌年の一周忌の連絡、2年前に三回忌法要の連絡をくれたのが最後。目の前に喪服が浮かんでくるというものだ。

 親戚に不幸でもあったのだろうか。さっきの母の電話がそれを裏付けているようにも思える。A叔父、B叔父、C叔母・・・。誰が倒れても不思議ではない。みんな高齢になってきた。持病も抱えている。ブラックフォーマルを箪笥から出しておかねば。ムスメは学校の制服があるからいいとして、ムスコには何を着せよう? いくら何でも白のポロシャツに体操着の紺の半パンてわけにもいかないよね。ダンナも問題だ。また一段と腹回りがメタボリッキーになってきた。もしもズボンが入らないようなら、いっそのこと出張中で連絡が取れなかったということにするしかない。

 いやいや、おかしい。母と兄はひとつ屋根の下に暮らしている。二階と一階で住まいは別々だが、親戚の不幸を知らせる大事な電話をてんでんバラバラに寄越すなんてことは考えにくい。
 では!!  まさか母の身に!? 先にムスコが受けた電話、ありゃ母本人による虫の知らせで、今現在母は実家で倒れちゃっているのでは!?
 悠長に湯に浸かっている場合ではなくなった。洗い髪も乾かさずに電話の前に立った。兄の家の電話番号を押す前に、深呼吸をする必要があった。
「もしもし・・・みん子ですけど」
「ああ……」(←兄の暗い声)
 なぜ、何も言い出さないのか。自分からは言いにくいことなのか。耐え難い沈黙の後で、兄が切り出した。
「ええと……おかあさんがさ……」
「!!!!!!」
‘おかあさんが’の一言で涙が込み上げた。おかあさん、さっきすぐに電話に出てあげなくてごめんね・・・。
「みん子・・・」(←陰鬱そうな兄の声)
「うん」
「家を直すのに、300万かかるんだって?」
「?」
「オレさ、××県の家(←他県に持家有り。駅から至近で便利なので、どこぞの会社が社宅として借り上げ、兄はその家賃収入から住宅ローンを支払っている貧乏オーナー)今度外壁リフォームするんだよ。さっきおかあさんに頼まれたんだけど、みん子のとこも塗り直すらしいから、安い業者を教えてやってくれって」(←気乗りしない様子の兄の声)
「え~? なんでそーなるの?」
 5月に遊びに来た母が、わが家の外壁塗料が剥がれてきているのをジーーーッと見ていたので、塗り直すだけでは事足りないという説明をしたのだった。築年数が築年数なので、リフォームに仮に300万かけたとしても、結局次々修繕箇所が出てくる、こうなったらもう建て直すっきゃないのだ、という話を(「宝くじにでも当たったらの話だけど」は省略しておいた)したことを兄に説明した。
「じゃあ紹介しないでいいんだ?」
「はい、よいのでございます。あ~もう、おニーちゃんからの電話はホント心臓に悪い」
 喪服の似合う寡黙な兄は、『そりゃまたどーして?』と聞くこともせずに電話を切った。

 今日会社にかかってきた愚かしい電話は、やたら腰が低く丁寧だったが腹が立った。フリーダイヤルを使ってまでする選挙運動「○○党をよろしくお願いいたします」は、違法行為ではないのか。関係団体は、熱心な支援者たちにきちんと教育してほしい。そこまでやってしまっては、通話料金を相手に負担させ、かつ業務妨害をしているのと同じですからね、と。
 そこいくと私の兄はエライ。こちらの心臓に負担はかけるが、通話料金は自分もちである。
Commented by chin-papa at 2007-06-14 22:47
あー面白い!喪服の似合う寡黙なお兄さま・・・min子ねえちゃんとワシchin子が姉妹なら、寡黙なお兄さまと我が夫サバ兄もいっそ兄弟ってことでいいんじゃない?もうこの際、血が繋がっている、とかそういうことは一切問わないことにしてさ。笹川カイチョーも言ってたじゃないの。人類みな兄弟ってさ。これを少々アレンジして「タイプが似てりゃみな兄弟」だー。
それにしても何度読んでも笑えるのが 「そりゃまたどーして?」と聞くこともせずに電話を切った の件。ネタふってんのに丸っきりスルーかよ!と見ず知らずの喪服の似合う寡黙なお兄さまに思いっきり突っ込み入れたくてたまらないchin子より。
Commented by vitaminminc at 2007-06-15 08:02
chin子ちゃん、そーなんよ。なんで紹介せんでもよくなったのか、とか、なんでオリの電話は心臓にワリーのか、とか、たくさん突っ込みどころを用意してもこの調子。ニーちゃんが特別私に興味がないってわけではなく、誰に対しても無差別にこんな感じ。だから相手する方は二人分しゃべらなくちゃなりません。一人二役で会話したあとは、顎がだるくなるもんですな。
う! それに確かにchin子ちゃんとこのサバティーニとニーちゃん・・・かなり共通してるかも。わははは、兄弟じゃ、兄弟じゃ~♪
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by vitaminminc | 2007-06-13 16:58 | 笑い | Comments(2)