お祭りデート

 日本全国、この三連休に夏祭りをしたところは結構多いと思う。台風直撃で一時はどうなるかと危ぶまれた地元の祭り、なんだかんだと盛大に行われた。

 前の晩にてるてる坊主をつくって見せ、言葉でなく視覚的に祭りに連れていけと訴えていたムスコを伴い、疲れた身体に鞭打って、祭り会場目指して歩いた。駅前通りが歩行者天国になるため、駅行きのバスが途中までしか走らないからだ。
 ところが、祭りゾーンが目と鼻の先というところまで来て財布を持ってくるのを忘れたことに気がついた。ムスコの目が、流れに逆らう岩魚のように泳いでいる。
 「えっと・・・ママ? 取りに戻ろう? そうするしかないよね?」
 諦めきれずバッグの中を引っ掻き回している私にムスコが言った。決してウルトラドジな母をなじったりはしない。
 「バス代くらいならボク持ってきたからさ、今すぐ家に取りに戻ろうよ」
 ふう、と私は溜め息をついた。
 「ね? 歩いて帰ったら疲れちゃうから、バスに乗って帰ろう?」
 ムスコが恐れていたのは、このまま何も買わずにお祭りだけ見て帰りましょう、という私の一言だったに違いない。
 
 私たちはバスの臨時発着所に行った。運よくバスはすぐに待機所からやって来て、私たちを乗せると今来た道を戻り始めた。
 「ごめんね」とムスコにあやまった。
 「いいよいいよ。それにしても、バス代持ってきてよかった~」
 迷彩カラーの財布から小銭を取り出しながら、ムスコがニマッと笑った。

 家の近くのバス停では結構待った。西の空に、黒々とした雨雲が押し寄せているのが見えた。
 「『妖怪大戦争』の空みたい」とムスコがウキウキした声で言った。「お神輿、見られるかな」
 「風が強いね」」
 「いろんなお店、いっぱい出てるかな。雨降ったらヤバイ?」
 「露店は雨よりも強風に弱いかもよ。テントみたく飛んでっちゃうから」
 「どうかこれ以上風が強くなりませんように」
 「あ! バスが来た!」

 歩行者天国のど真ん中を歩いて駅前まで行くと、ちょうど神輿が出ていた。ムスコは1分で見物に厭き、露店に視線を走らせ始めている。私は1分で疲れが吹っ飛んだ。旧中山道を、町名を掲げた長提燈に導かれて次々にやってくる神輿。すっかり心を奪われていた。一基、二基、三基・・・・少なくとも六基の立派な神輿が駅のロータリーに集結しようとしている。気がつけば、歩道橋の上にも隙間なく観衆が詰めていて、たくさんの視線が空から降り注いでいた。

b0080718_23205138.jpg ある町の神輿の担ぎ手は、今風の若者ばかりで構成されていた。昔からの住宅街で、住人の平均年齢が高い分、担ぎ手の大半が外から来た若者ばかりとなったのだろうか。真っ黒に日焼けした肌。唇に光るピアス。コーンロウ(編み込みヘア)やバリアート(バリカンで坊主頭にイラストを描いたヘア)、金髪、スキンヘッド・・・。場所を変えて彼らを見たらきっと怖がったに違いないが、国籍不明に見える彼らのことをムスコは好意的に見ていた。
 「みんなうれしそうだね」。
b0080718_23213479.jpg 別の町の神輿にはひっつめ髪の細身の美人がいて、その後ろのお兄さんの鼻の下が伸び切っているのがおかしかった。
 一しきり神輿を見たあと、ムスコと二人で中仙道を舞台に繰り広げられる壮大なバイキングを楽しんだ。大たこ焼き、フランクフルト、かき氷、イカのげそ焼き・・・。歩道の縁石に座ってかき氷を食べながら、「寒い」と鳥肌を立てるムスコ。かき氷で冷えて唇が紫色になっているのか、シロップに染まっているだけなのか。
 目の前を行きかう群集をマンウォッチしながら、イカげそにかぶりつく。
 「このでかいクローケン(映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出てきたタコの化け物?)の足、ママにあげるね♪」

 空クジなしというバルーンの店では透明のプラスチックケースの中で舞うクジを摑み、結局スカ。ハズレ商品の中から青い風船刀を選んだムスコ。ダサい刀を肩にかけ、
 「ハズレでコレってすごくね?」
 なんて言う。まだまだ無邪気だ。500円出してそんな程度かい?と思う私は邪気に満ちている。

 途中、デパートの中の本屋に立ち寄ったりして涼をとってから、そろそろ帰ろうかということになった。夕飯を済ませて帰るつもりだったが、露店バイキングですっかりおなかが出来上がってしまった。ロータリーに出ると、再び神輿が動き出していた。ライトアップされた神輿はどれも神々しい。 
 「雨降ってるね。結局姉ちゃんと友達には、会えなかったね」
 「ムスコ、あの人見てごらん」
 ある神輿の横では、法被にふんどし姿で掛け声をかけているおじさんが私を笑わせてくれた。つるりとそり上げた頭にピンクのシャンプーハットをかぶっていたからだ。

 ずいぶん歩き回ってくたびれているはずなのに、祭りの余韻が私たちを後押ししたのだろうか。帰りは家まで元気に歩いて帰った。人影が途絶えた道で、ムスコが肩にかけていた風船刀を股に挟んだ。
 「ばあか」と私は笑った。絶対やると思ったら、やっぱりやった。

──ムスコ。お祭り、とっても楽しかったよ。ムスコと一緒だったからだよ。
──あとどれくらい? 来年もママと一緒に歩いてくれる? だといいなぁ。
 
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Commented by みんみん梅桜紫陽花彼岸花 at 2007-07-17 01:20 x
日本の夏、キンチョーの夏って感じやなぁ。財布を忘れても責める言葉もなく一緒にとりに戻る母子二人。夜店バイキングを楽しむ二人。最後の二行にジーンときたわ。最近、歳とともに涙腺がゆるんであかん。
Commented by vitaminminc at 2007-07-17 08:41
みん花さま。最近、上のムスメの親離れが目に見えてきたせいか、ムスコのそれを秘かに恐れている自分がいます。
こんなことではいけないとわかっているのに、まだ私よりも小さいその手をいつまでも握って歩いていたいのです。
ムスコの成長、私の子離れ。この先どう展開していくことやら。
今のうちだけだと思うと、毎日1回はムスコをつかまえ、抱きしめずにはいられません。
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by vitaminminc | 2007-07-16 23:22 | Comments(2)

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