2008年 05月 20日
同性からの愛コンタクト
おまえってズルイって言われた」
ギョ。ムスコ、いったい何をやらかしたのだ? いじめにあうような種を蒔いちゃいないだろうね。少々心配になり、どういうことかと先を促した。
「おまえって面白いしアタマいいし・・・」
?レベルの低い話である。
「・・・髪の毛だってサラサラじゃん、て言うんだよ」
?どうも方向性がおかしい。突然ピンときた。
「ソレ言ったの、もしかしておんぶおばけくん?」
「え?」
「ほら、前に授業参観が終わった後、ムスコに聞いたじゃない、‘さっきの子だあれ?’って。ムスコにおんぶされてた子」
「ああ、そう! けどオレがおんぶしたんじゃなくて、勝手に向こうがさぁ・・・」
おんぶおばけくんは、席替する前までムスコの後ろの席にいた男子である。参観日の休み時間中、なぜかムスコの背中にベタッとおぶさっていた。どちらかというと背が高いほうであるムスコよりもさらに身体が大きいので、後ろ足をズルズルと床に引きずったまま、ずーっとムスコにへばりついていた。
苦笑いしつつも、ムスコは明らかに迷惑顔であった。後ろ手にその子を支えようともせず、自然に落ちるに任せていたが、背中の荷物は決して落ちたりしなかった。
おんぶおばけくんは、私がムスコの母親とわかっても、ムスコに密着したまま離れなかった。逆に‘この人がムスコのかーちゃんか・・・’という目で、私の目をじっと見た。その時のその子の様子が、負ぶわれるというより、背後からムスコを抱きしめているようにしか見えなかったので、あとでムスコに名前を確認したのである。
「ずいぶんムスコのことがお気に入りみたいだね」
おんぶおばけくんとは5年になって初めて同じクラスになったそうだ。
「そうかなぁ? いつも‘おんぶ~’って来るから、重くてしょーがない」
どうやら席替でムスコと別の班になってからも、おんぶおばけくんはムスコに憑りついて離れないらしい。ムスコは呆れ顔で‘ひゃははと笑った。
似たような経験が、自分にもある。高校時代の放課後、教室で仲のいい友だちと話していた時だ。
バタバタと廊下を駆けてくる足音がしたと思ったら、ほかのクラスの女子が数人、中をのぞき込んだ。
「Aちゃん見なかった?」
同じ剣道部の仲間を探しにきたらしい。
「Aちゃんたちなら少し前に帰ったよ」と友だちが答えた。
剣道部の女子が廊下を去っていく気配がして、私と友だちは中断した会話に戻った。友だちは普通に腰掛けていたが、私は揺れていた。イスの後ろ足だけを床につけ、ロッキングチェアーみたいに前後に揺らしていたのだ。すると、友だちが「え?」という表情を浮かべるのと同時に、ガタンと音を立てていきなり自分のイスが‘着地’した。
びっくりして後ろを振り向くと、私の真後ろに先程の剣道部の女子の一人が立っていた。両手で私のイスの背中を押さえ付けたまま。武道をやっているだけに、行儀にうるさいのかもしれない。学習イスをロッキングチェアみたいに操っていることが許せなかったのだろうか。でもまさか注意されるようなことはないだろう、などとあれこれ思案していると、射るような眼差しで、彼女が口を開いた。
「あなた、名前なんていうの?」
ポカンとしている私に代わって、友だちが即答した。明らかに展開を楽しもうとしていた。
「そう。みんこさんていうの」
朝香光代を若くしたような凛々しい顔で、彼女が復唱する。
そして数秒後、私がこれまで聞いてきたどんな言葉よりも衝撃的な言葉を口にした。
「私あなたみたいな人、好き」
友だちが、「わ」と「え」を一緒にしたような声をあげたのを無視して、女子剣道部員は私にだけ「じゃあね」と短く挨拶をすると、悠然と教室を出ていった。
「なに? あれ~?」
友だちが素っ頓狂な声を上げるのを聞きながら、私は軽い冗談だろうと信じて疑わなかった。
しかし冗談ではなかった。それからというもの廊下ですれ違うたびに、浅香光代が私に手を振り熱い視線を飛ばしてくるようになった。
初めのうちは、「みんこ、ココが共学でよかったね。女子高だったらエライことになっていたかもよ~」などとからかっていた友だちも、私が心底困っていると知ってからは、トイレに行くにもまず先に廊下に首を出し、浅香さんがいないのを確認してから私においでおいでをしてくれるようになった。共学校なのだから地の利を生かし、どうか異性に目を向け私のことは放っていおいてくださいと小さく祈ったご利益だろうか。その後朝香さんはストーカーに進化することなく、珍現象は沈下する運びとなった。
ムスコの髪を、「サラサラでズルイ」と言いながら撫で回しているおんぶおばけくんの様子が目に浮かぶ。
おんぶおばけくん。ムスコは超汗っかきなので、サラサラの髪なんかもうすぐベタベタになるョ。それでもキミは、「オマエのアタマってどうしてそんなにベタベタなんだ~」なんて言いながら、やっぱりムスコにベタベタするのかな。親子揃って妙~~~な好かれ方をしたもんだ。‘毛嫌い’されるよりは、ずっといいか。
母は複雑な心境で、ムスコの昔の写真を取り出し眺めてみる。
姉のおしゃれグッズを身につけるのが何より好きだった2才前。
太いベルト(腹巻ともいう)に負けないアクセサリーがゴージャス。
スッピンなのに化粧したような顔。ゲイバーのママになれる素質十分。
もしもムスコが性同一性障害だったなら、一番の良き理解者になろうと本気で心に誓ったもんじゃ焼き。
「クラスのやつに、ギョ。ムスコ、いったい何をやらかしたのだ? いじめにあうような種を蒔いちゃいないだろうね。少々心配になり、どういうことかと先を促した。
「おまえって面白いしアタマいいし・・・」
?レベルの低い話である。
「・・・髪の毛だってサラサラじゃん、て言うんだよ」
?どうも方向性がおかしい。突然ピンときた。
「ソレ言ったの、もしかしておんぶおばけくん?」
「え?」
「ほら、前に授業参観が終わった後、ムスコに聞いたじゃない、‘さっきの子だあれ?’って。ムスコにおんぶされてた子」
「ああ、そう! けどオレがおんぶしたんじゃなくて、勝手に向こうがさぁ・・・」
おんぶおばけくんは、席替する前までムスコの後ろの席にいた男子である。参観日の休み時間中、なぜかムスコの背中にベタッとおぶさっていた。どちらかというと背が高いほうであるムスコよりもさらに身体が大きいので、後ろ足をズルズルと床に引きずったまま、ずーっとムスコにへばりついていた。
苦笑いしつつも、ムスコは明らかに迷惑顔であった。後ろ手にその子を支えようともせず、自然に落ちるに任せていたが、背中の荷物は決して落ちたりしなかった。
おんぶおばけくんは、私がムスコの母親とわかっても、ムスコに密着したまま離れなかった。逆に‘この人がムスコのかーちゃんか・・・’という目で、私の目をじっと見た。その時のその子の様子が、負ぶわれるというより、背後からムスコを抱きしめているようにしか見えなかったので、あとでムスコに名前を確認したのである。
「ずいぶんムスコのことがお気に入りみたいだね」
おんぶおばけくんとは5年になって初めて同じクラスになったそうだ。
「そうかなぁ? いつも‘おんぶ~’って来るから、重くてしょーがない」
どうやら席替でムスコと別の班になってからも、おんぶおばけくんはムスコに憑りついて離れないらしい。ムスコは呆れ顔で‘ひゃははと笑った。
似たような経験が、自分にもある。高校時代の放課後、教室で仲のいい友だちと話していた時だ。
バタバタと廊下を駆けてくる足音がしたと思ったら、ほかのクラスの女子が数人、中をのぞき込んだ。
「Aちゃん見なかった?」
同じ剣道部の仲間を探しにきたらしい。
「Aちゃんたちなら少し前に帰ったよ」と友だちが答えた。
剣道部の女子が廊下を去っていく気配がして、私と友だちは中断した会話に戻った。友だちは普通に腰掛けていたが、私は揺れていた。イスの後ろ足だけを床につけ、ロッキングチェアーみたいに前後に揺らしていたのだ。すると、友だちが「え?」という表情を浮かべるのと同時に、ガタンと音を立てていきなり自分のイスが‘着地’した。
びっくりして後ろを振り向くと、私の真後ろに先程の剣道部の女子の一人が立っていた。両手で私のイスの背中を押さえ付けたまま。武道をやっているだけに、行儀にうるさいのかもしれない。学習イスをロッキングチェアみたいに操っていることが許せなかったのだろうか。でもまさか注意されるようなことはないだろう、などとあれこれ思案していると、射るような眼差しで、彼女が口を開いた。
「あなた、名前なんていうの?」
ポカンとしている私に代わって、友だちが即答した。明らかに展開を楽しもうとしていた。
「そう。みんこさんていうの」
朝香光代を若くしたような凛々しい顔で、彼女が復唱する。
そして数秒後、私がこれまで聞いてきたどんな言葉よりも衝撃的な言葉を口にした。
「私あなたみたいな人、好き」
友だちが、「わ」と「え」を一緒にしたような声をあげたのを無視して、女子剣道部員は私にだけ「じゃあね」と短く挨拶をすると、悠然と教室を出ていった。
「なに? あれ~?」
友だちが素っ頓狂な声を上げるのを聞きながら、私は軽い冗談だろうと信じて疑わなかった。
しかし冗談ではなかった。それからというもの廊下ですれ違うたびに、浅香光代が私に手を振り熱い視線を飛ばしてくるようになった。
初めのうちは、「みんこ、ココが共学でよかったね。女子高だったらエライことになっていたかもよ~」などとからかっていた友だちも、私が心底困っていると知ってからは、トイレに行くにもまず先に廊下に首を出し、浅香さんがいないのを確認してから私においでおいでをしてくれるようになった。共学校なのだから地の利を生かし、どうか異性に目を向け私のことは放っていおいてくださいと小さく祈ったご利益だろうか。その後朝香さんはストーカーに進化することなく、珍現象は沈下する運びとなった。
ムスコの髪を、「サラサラでズルイ」と言いながら撫で回しているおんぶおばけくんの様子が目に浮かぶ。
おんぶおばけくん。ムスコは超汗っかきなので、サラサラの髪なんかもうすぐベタベタになるョ。それでもキミは、「オマエのアタマってどうしてそんなにベタベタなんだ~」なんて言いながら、やっぱりムスコにベタベタするのかな。親子揃って妙~~~な好かれ方をしたもんだ。‘毛嫌い’されるよりは、ずっといいか。
母は複雑な心境で、ムスコの昔の写真を取り出し眺めてみる。
姉のおしゃれグッズを身につけるのが何より好きだった2才前。
太いベルト(腹巻ともいう)に負けないアクセサリーがゴージャス。
スッピンなのに化粧したような顔。ゲイバーのママになれる素質十分。
もしもムスコが性同一性障害だったなら、一番の良き理解者になろうと本気で心に誓ったもんじゃ焼き。
どんなに男の子っぽい服を着せても、外出先ではほぼ9割の確率で「お姉ちゃん」とか「お嬢ちゃん」とか「妹ちゃん」とか呼ばれ続けた幼稚園時代。
入園と同時に♂脳が目を覚ます。
ファミリーレストランのお子様セットについてくるおもちゃで、ウェイトレスさんに女の子用のカゴを持って来られた時はさすがに憤慨。
こんな乙女チックな面影は、今のムスコには微塵もないのだが・・・甘く危険な香りを感じてしまうのは、なぜ?
入園と同時に♂脳が目を覚ます。
ファミリーレストランのお子様セットについてくるおもちゃで、ウェイトレスさんに女の子用のカゴを持って来られた時はさすがに憤慨。
こんな乙女チックな面影は、今のムスコには微塵もないのだが・・・甘く危険な香りを感じてしまうのは、なぜ?
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みんみん梅桜紫陽花彼岸花
at 2008-05-21 19:37
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息子さんも5年生にもなると、掲載写真とは違った凛々しさも感じられているのかな・・・と思いつつ。そんなことあらへんわ。と、瞬時に打ち消している自分があります。お母さんが感じるように、私も息子さんの将来に甘く危険な香りを十二分に感じる今日この頃であります。
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vitaminminc at 2008-05-21 19:56
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みんみん梅桜紫陽花彼岸花
at 2008-05-22 00:52
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うむ?それって、ますます危険な香りが増しているんやないのかな。
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vitaminminc at 2008-05-22 15:08
by vitaminminc
| 2008-05-20 10:13
| 子ども
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