2008年 08月 30日
雲間から、夏が手を振っている
チャンスとばかり、蝉が一斉に鳴き始めた。
2メートル以上の長身を誇る庭のひまわりは、葉の色がすっかり茶色くなった。頭をたれたその姿は、セサミストリートに出てくるビッグバードの老後を連想させる。
昨夜の激しい雷雨に負けないで、赤いケイトウの花と深紫の朝顔が、元気に咲いている。
茶尾の呼吸は、刻々と荒く速くなっている。
夜中や夜明けに、私はちょっとした物音で目が覚めるようになった。授乳期の母性がそうさせたように、猫が立てる物音に身体が反応するのだ。
茶尾の居場所を確認し、薄闇の中でそっと触れる。鼻先にかすかな空気の流れを感じ、おなかが速く脈打っているのを感じると、ほっとしながら泣きたくなる。
潮が引いた夢を見ていた。
茶尾の砂浜では、いつのまにか潮が引いていて、広々とした砂浜が広がっていた。そこで楽しそうに遊んでいたものは、茶尾の肺だったのかもしれない。
夢から覚めたら、床で茶尾が横たわっていた。自分の身体を海水でいっぱいにしたまま、くるしそうに横たわっていた。
寝ていた位置が1メートルほど移動していた。頑張って、またトイレでおしっこをしたんだね。
ほめてあげたかったけど、声を出すことができなかった。泣き声になりそうで嫌だったのだ。
癌末期の父の姿を思い出す。高カロリー点滴液を補充しながら、看護師さんが悲しげに言った。
「こうしても、全部癌に栄養持ってかれちゃうのが、悔しいよね──」
安楽死について、10歳のムスコが悲しそうに言った。
「だってそれじゃ、保健所に入れちゃうのとおんなじだよ──」
この先の茶尾の姿が想像できる私は、ムスコに相槌を打ちながら、頭の中では首を横に振っていた。
違うんだよ、そう思うのは、‘今’だからなんだよ。
茶尾がふっくら見えるのは、胸のまわりがむくんでいるからだと私にはわかっている。ヨロヨロと起き上がったときの、下肢の痩せ方が尋常ではないことも。上半分と下半分が別の生きもののようだ。
何かで読んだことがある。誰の母親の話だったろうか。自分がもう助かることのない癌であると知った母親は、それ以降入院も通院も拒否し、自宅で水以外は一切口にしないという強硬手段に出て、自ら尊厳死を選んだという。潔い死に様だが、家族はたまったものではなかったろう。
だからどうこうしたいというのではない。最期にまつわるいろんな記憶、いろんなシーンが頭の中に去来するのだ。
犬の死、猫の死、父親の死。「死」という現実を目の前にして、結局何もしてやれなかったと悔いる自分。
茶尾がもし、あの寒い冬の晩、私たちの家に招かれることなく野良のままで死を迎えていたら、どこが違っていただろうと想像してみる。
暑かったら日陰に横たわり、雨水を舐めてその時を待ったのだろうか。外の環境では命をつないでおける時間が短かったかもしれない。だけどそれは苦しみから早く解放されることでもあったはずだ。
あばらの浮き出た父の胸を、苦しそうな犬の最期の鳴き声を思い出してみても、後悔以外何も答が見つからない。
茶尾、乳清やイオン水を飲まされて、かえって苦しい思いをしていない? ママのやってることが間違っていたり辛いのだったら、どうかテレパシーで教えて。ママはうんと鈍いから、茶尾の心の声が聞こえないんだよ。
私はシャッターを切る。瞼に焼き付けるように、強く瞬きながらシャッターを切る。
昨夜の茶尾
丸かった模様(茶)が
❤型になっていた
今日の茶尾
そばで添い寝する、
やさしい兄貴分の眠眠
ママが茶尾を衝動‘飼い’
したせいで家猫眠眠まで
保菌者にしてしまったに
違いない。
大ショックだが後悔しない
だって
仲良しだものね
あれ、見てよ。上空で夏が手を振っている。そうか──。
週明けからは、もう秋なんだよね。
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えむ
at 2008-08-30 18:48
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どんままさん経由でおじゃましました。初めまして。
同じような思いを何度もしてきた者として、お気持ちが痛い程にわかります。
昨年癌で亡くなった父は以前に、腫瘍ができてどうしようもなかった猫に付き添い、猫がその場所に居たいと言ったからと脱衣室に毛布を持ち込み3晩付き添いました。
そういう親を見ているので、妙な慰め方かもしれませんが、
何もできないと悔しがる必要はないと思います。
ちび猫ちゃんが過ごしたい場所を理解し、そっと見守ることは、
一緒に時間を過ごして、好きなことも嫌なことも知っている、
家族だからできることではありませんか?
お写真を拝見して、猫ちゃんはとても安心して過ごしているように感じます。
最高の看病をしていると思いましたョ。
同じような思いを何度もしてきた者として、お気持ちが痛い程にわかります。
昨年癌で亡くなった父は以前に、腫瘍ができてどうしようもなかった猫に付き添い、猫がその場所に居たいと言ったからと脱衣室に毛布を持ち込み3晩付き添いました。
そういう親を見ているので、妙な慰め方かもしれませんが、
何もできないと悔しがる必要はないと思います。
ちび猫ちゃんが過ごしたい場所を理解し、そっと見守ることは、
一緒に時間を過ごして、好きなことも嫌なことも知っている、
家族だからできることではありませんか?
お写真を拝見して、猫ちゃんはとても安心して過ごしているように感じます。
最高の看病をしていると思いましたョ。
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at 2008-08-31 03:00
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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みんみん梅桜紫陽花彼岸花
at 2008-08-31 21:49
x
茶尾、がんばれ!お姉さん、身体をこわさらいように・・・。
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vitaminminc at 2008-09-01 11:32
えむさま。やさしいお父様だったのですね。
これでいいのだろうか、これでよかったのだろうかと、
こうしている間にも、茶尾を見つめてる間も、
いつも自問ばかりしていました。
もう何も問わなくていいんだと、そう思えそうです。
看病に専念するための切替スイッチを教えてくださって、
ありがとうございます。
これでいいのだろうか、これでよかったのだろうかと、
こうしている間にも、茶尾を見つめてる間も、
いつも自問ばかりしていました。
もう何も問わなくていいんだと、そう思えそうです。
看病に専念するための切替スイッチを教えてくださって、
ありがとうございます。
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vitaminminc at 2008-09-01 11:34
鍵※さま。わかってますとも。十分すぎるくらいです。
いつもありがとう。
いつもありがとう。
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vitaminminc at 2008-09-01 11:37
by vitaminminc
| 2008-08-30 12:24
|
Comments(6)