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猫霊(ねこだま)

 苦しそうに横たわって必死に呼吸している茶尾を見ていると、何だか茶尾のすべてが自分の身体の一部に思えてくる。

 もしかしたら私は、あの世にいる猫からメッセージを受けていたのかもしれない。

 日頃呑気に暮らしている私が愛猫茶尾の異変に気づいたのは、先月25日頃。それこそ何の前触れもなしに突然発病したようなものだったが、今から思うと茶尾のSOSは、本人(猫)からも、そして‘第三者’からも発せられていたような気がしてならない。

 というのも、茶尾プー(うちではヤンチャだった茶尾のことを愛情込めてこう呼んでいた)はうちに来てから1年ほどの間は、それこそノラ育ちの逞しさでもってやりたい放題だった。兄貴分の眠眠が寛大な性質なのをいいことに、自分の寝場所は自分のもの、眠眠の寝場所も自分のものというように、あれもこれも自分のものにしたがった。
 自分の体格の半分しかないチビ猫茶尾に引っ掻かれ、追い立てられるようにしてしぶしぶ寝ていた場所を移動する眠眠が哀れだった。
 それでも推定年齢満2才を過ぎる頃には茶尾もだいぶ落ち着いた。眠眠に対し、少しはやさしさや気遣いを見せるようになってきた。
 私たちはそんな茶尾の変化に目を細め、ようやく茶尾もクソガキから乙女に成長したのだと微笑んだものだった。

 その後茶尾はどんどん私たちに甘えるようになっていった。拾った当初は「どうしよう?」と思うくらい険しかった悪相は、柔和で女の子らしい顔立ちに変わり、暴力的だった行動もすっかり落ち着きを見せていた。たまに寝ている私の足を齧ることはあったけれど、それはかまって欲しいという合図で、とにかく起き上がって茶尾のそばにいてやるだけで、うるさいくらいにゴロゴロと機嫌よく喉を鳴らすのだった。
 過剰とも思える茶尾の甘えっぷりは、自分の身体に対する不安の表れだったのかもしれない。

 と同時に、私自身にも妙なことが起こり始めた。
 8月のお盆過ぎ頃から、茶尾や眠眠の名をしょっちゅう言い間違えるようになった。茶尾のことを眠眠、眠眠のことを茶尾と呼び間違えるのならまだしも、突然、以前飼っていた猫「マイ」の名を口にするようになったのである。
 マイが享年18才で他界してから、かれこれ9年にもなる。
 4年前に眠眠の里親になり、3年前に茶尾を保護してからは、私の唇が「マイ」という名を発音することは殆どなくなっていた。だから猫の名を呼ぶ時に、「マイ」と言ってしまう自分が不思議でならなかった。子どもたちにも何度か指摘され、とうとうボケたかと自嘲したほどである。

 妙なことはそれだけではなかった。
 実は現在PCが設置されている部屋は、生前マイが寝起きしていた部屋(建替える前の家)と同じ位置にある。
 その部屋でPCをいじっていると、何かちょうど猫くらいの大きさの生きものが立てるような物音が聞こえることが度々あった。それもやはり8月のお盆過ぎ頃から。
 チェストに猫が飛び乗るような音がして、パッと振り向くと何もいない。思わず立ち上がってチェストの引き出しを開けてみたりしたが、移動したり音の出るようなものなど見当たらない。音源となりそうなものは何一つないのだった。
 音というのは、ネズミのような小動物が立てるには重量感があり過ぎて、まさに猫がよく立てる物音そのものだった。

 物音を聞いたのは私だけではない。同じ物音をムスコも同時に聞いたし、眠眠がキャッチしたこともある。私と同時に音に気づいた眠眠は、レーダーのように耳を動かしながらトコトコ部屋の中を行ったり来たりして、音の正体を探ろうとし、ムスコもチェストの引き出しを開けて中を確認した。結局音の正体はいまだに謎のままだが、私にもムスコにも眠眠にも共通して言えることは、結構しっかりした音であるにもかかわらず、不思議と‘怖い’という感じは受けなかったということ。

 自分が無意識に「マイ」の名を口にしていたことといい、するはずのない物音(猫が移動する時に立てるような物音)がしたことといい、あの世でマイが私たちに茶尾の危機を伝えようとしてくれていたような気がしてならない。

 ちょっとぉ、そんなふうに呑気にしていると、今にチビ猫がコッチに来ちゃうよ

 なぜって、茶尾の病気が判明して以降、私が「マイ」の名を口走ることも、この部屋で不思議な物音がするという怪現象も、パタッとなくなったからだ。

 天国に行ったら、マイが茶尾を迎えてくれるだろう。

 呼吸のため激しく脈打つ茶尾の腹を、毛の生えた自分の心臓に触れるように撫でながら、私はマイという白猫のことを茶尾に話して聞かせた。
 真っ白くて尾の長い猫で、自転車の前カゴに乗せても平気で、玄関チャイムが鳴ると2階から駆け下りて出迎える、わんこみたいな猫だったんだよ。
 きっとやさしくしてもらえるからね、茶尾プーは何も心配いらないよ。。。
Commented at 2008-09-10 19:27 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by vitaminminc at 2008-09-11 10:02
どんままさま。わんこやにゃんこって、もともとの寿命が人間よりずっと短いじゃないですか。
その短い間に、我々人間の心をこんなに豊かにしてくれる天使のような彼らに、何でこんな苦痛が与えられなければならないのかと。
私への天罰なのだろうかとか試練なのだろうかとか、結局どうしても自分を責めてしまう。
けど、私に強制的に生かされ、苦痛にあえぐ羽目になっている茶尾は、決して私を責めたりしていないと確信できる。
犬や猫がヒトに対しどんなに寛大な生きものかってことを
もう泣きたくなるほど実感させられています。
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by vitaminminc | 2008-09-09 18:04 | Comments(2)